南の泉へ行ってみよう! 6

 そんなわけで、父様と従士たちは徒歩で、僕と精霊さんたちはソラタンに乗って巨木の森をゆく。

 ソラタンの上では精霊さんたちがのん気におやつを食べ始めた。

 自分のマジックバッグから好きなお菓子を取り出して、みんなで仲良く分け合っているよ。

 グリちゃんは僕にリーフサブレをくれた。

 ポコちゃんはオレンジジュースを注いでくれる。

 クーさんはチョコチップクッキーを、ピッカちゃんはひと口サイズのフルーツゼリーを、フウちゃんは生キャラメルを、ユエちゃんはマドレーヌを、セイちゃんはマカロンを並べている。

 ニイニイちゃんは甘いお菓子限定でゴチになっている。


 精霊さんたちは、それを父様たちとミディ部隊にも配ってあげていたんだよ。

「おう、ありがとさん!」

「ごちになるッス!」

 みんなも喜んで食べていた。

 大森林の中にいる緊張感はどこへ行ったんだろう?

 まるで遠足だね!


 ああ、そういえば。

 チリチリになったメエメエさんは、ケビンに伝説級ポーションをぶっかけられてモフモフが復活し、僕が魔力を注いで目を覚ましたんだよ。

 今は僕の背後で寝そべりながらお煎餅を食べつつ、不貞腐れていた。

「私の尊い犠牲を無下にするなんて、ブツブツブツ…………」

 文句を言いつつも、お煎餅を食べる手は止まらない。

 ちょっぴり気を使った精霊さんたちが、お菓子を一個ずつメエメエさんの前にお供えしていた。

 ミディ部隊も何かしかの食べ物をお供えしている。

 それを寝そべりながら食べるメエメエさん。

 はたから見たら、ただのらぐうたら黒羊だよね!

 後方を注意しながら進むイザークとルイスが、それをチラリと見て苦笑していた。



 しばらく進むと、先頭を行くクロちゃんシロちゃんが急に走り出した。

 父様と従士たちもすぐさま臨戦態勢を取る。

 ニャンコズがいればすぐに敵を察知してくれるから便利だね。

 ソラタンの上は安全地帯だから、僕も落ち着いていられる。

 さっきまでの緊張感はどこへ行ったんだろうね?

 僕もこの状況に少しは耐性がついてきたのかもしれない。

 周囲に目を凝らし、マッピングに注視すれば、赤(敵)と青(味方)と緑(有用素材)のマーカーが点滅している。

 まずは赤いマーカーに集中。

 ニャンコズが戦う音が聞こえ、その刹那にこちらに飛び跳ねてくる影が複数。

 左斜め前方から飛び出してきたのは、大きな角ウサギだった!

 父様たちが剣で難なく討伐していると、一匹が大きく跳躍して僕の上に降ってきたんだけれど、ソラタンの鉄壁の防御に阻まれて、バチーンッ! と弾き飛ばされていた!

「おお! 超防御だねソラタン!」

 僕と精霊さんたちは手を叩いてソラタンを褒めたよ。

 その調子でお願いします!

 

 背後にいたルイスが僕に向かって叫んだ。

「坊ちゃん! 角ウサギのトラウマ克服ッスね!」

 えぇ?

 クルリと振り返れば、ルイスが親指を立てて笑顔を浮かべていた。

 そこへイザークがルイスにツッコミを入れている。

「坊ちゃんは何もしていないぜ? ソラタンのおかげだろ?」

「いいんですよ! だってほら、今は泣きべそをかいていないっしょ!」

「まぁ、泣かないだけ進歩しているのか? んん??」

 ルイスとイザークは危機感のない会話を交わしていた。

 ネタにされた僕は、地味にへこんだ……。


 おのれ角ウサギ!

 お前には二度と会いたくなかった!!


 次に姿を現した敵に、そんなのほほんムードはぶち壊された。

 角ウサギがこちらに飛んできたということは、天敵がいるということ。

 クロちゃんシロちゃんが遠くで飛び上がる姿が見え、ヒューゴとケビンが走ってゆく。

「大蛇だ! こっちに来るぞ!」

 ケビンの叫び声と同時に、大口を開けた黒い大蛇が鎌首をもたげた!

 巨木に並び立つように、頭上から見下ろしてくるその凶悪な姿に震えた。

 蛇に睨まれたカエル状態かも!

 ああ、僕はカエルは苦手だから一緒にされたくないけど!!


 あの熊男のヒューゴを一飲みにそそうな大きさだよ!

 舌の動きが気持ち悪い!!

 ニャンコズは目や首筋(?)を狙って攻撃を仕掛けているけれど、決定打に欠けるようだ。

 うっかり胴体に巻きつかれたら、締め殺されかねない!


 お菓子片手に僕の肩によじ登ってきたメエメエさんが分析をする。

「体長二十メーテはありますね! 胴回りも一メーテと言ったところでしょうか? あの黒に赤のマダラ模様は猛毒を持っていますよ!!」

 えぇぇぇぇ~~ッ!?

 咄嗟に飛び出しそうになった悲鳴を、僕は両手で抑えて飲み込んだよ。

 だって僕がパニックになったら、父様たちを混乱させてしまうかもしれないし!

 プルプル震えながら、僕は必死に堪えていた。


 大蛇の牙を巨大戦斧で弾くヒューゴ。

 その口めがけてイザークの弓が放たれる!

 必ず当たる弓も噛み砕かれては役に立たず、イザークが舌打ちをしていた。

 ケビンと父様が飛び回りながら胴体に剣を振り下ろすも、固い皮に阻まれて弾き返されてしまう! 

 ルイスは背後を警戒しつつ、大蛇の隙がないかを探っているようだった。


 大蛇のうねる胴体を回避したシロちゃんが、背後から襲いかかる尻尾で強打され、巨木の幹に激突している!

 バウンドして落ちたシロちゃんを、さらに二撃めが襲う!

 ああ!

 思わず声が出そうになった。


 ソラタンの上で飛び上がったニイニイちゃんが、大蛇めがけて雷撃を放った!

 大蛇は不快そうにのたうって、こっちを見たよ!

 ニイニイちゃんはピョンと僕のポケットに逃げ込んだ!!

 えぇ!?


 クロちゃんが反対側で大蛇の気を引くように動き回ると、その隙にシロちゃんが体勢を立て直していた。

 ミディ部隊が飛んでいって、シロちゃんの口に伝説級・解毒ポーションを放り込んでいる!

「大蛇はあの牙だけでなく、尾にも毒を持つようですね!」

 メエメエさんが低く呻くようにつぶやき、お煎餅をかじる。

 僕の肩口でお煎餅を食べないで!

 カスがボロボロ落ちてくるじゃない!!


 従士や父様も攻撃を繰り返しているけれど、大蛇はうるさそうに首や尾を振り回し、胴体で押しつぶそうとしている。

 このままでは父様たちが不利だ。


 僕はソラタンの上で、口を押さえた姿勢で固まっていた。

 役立たずなりに、僕だっていろいろ考えているんだよ。

 硬い皮に刃が通らないなら、中から攻めるしかないのかな?

 さっきのイザークの弓が口を通過できれば、ダメージを与えられるかな?

 何か決定打になる魔法や道具はない??

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