南の泉へ行ってみよう! 5
「雷を誘導する直線状の空気を、薄くすればいいのではないでしょうか? 風精霊のフウちゃんならばお手のものでしょう! 水は私が流しましょう!」
テッテ~ンと、マイ水筒を取り出して掲げるメエメエさん。
「じゃあ、フウちゃんに伝えてくるね! 合図はハクが出してね!」
ユエちゃんはバビューンと飛んでいき、フウちゃんに合流すると、ふたりは手で大きな丸を作ってくれた。
よ~し!
僕は前面に杖を向けて構える。
メエメエさんが水筒のフタを開けて水を飛ばした。
フウちゃんの風が吹いて僕から大コンドルンへの風の道ができる。
その中を細く長く水の道が通っていく。
逆風に押されて大コンドルンがよろめいた。
さっきから何度も風の刃を食らっているから、かなりダメージが蓄積しているのだろう。
フウちゃんのがんばりは無駄ではなかった!
僕は魔力量を抑えめにして、雷の杖を発動させる。
その刹那。
稲光の閃光が大コンドルンに向かって疾走する!
瞬きをするよりも早く着雷し、大コンドルンは一瞬発光した!
そしてボンと音と立てて黒焦げになり、真っ逆さまに落下していった――――。
そのあとで雷鳴が轟いて、僕はソラタンの上で飛び上がったよ!
フウちゃんとユエちゃんも自分の耳を両手でふさいでいた!
ひょえぇぇぇぇーーッ!?
何げにパワーが強過ぎ!
しかも耳の鼓膜が破れる危険あり!
「ニイニイ!」
耳鳴りする中でニイニイちゃんの声が聞こえたので下を向けば、ポケットから顔を出して抗議の声を上げていた。
どうやら自分を無視されたと思って怒っているようだ。
「ごめんね。寝ていたから起こすと悪いと思ってさ。それにほら、この杖の威力も確認しておきたかったし。ねぇ、メエメエさ…………」
メエメエさんを見れば、なぜかチリチリになって倒れていた。
その手から、黒焦げになった水筒がソラタンの上に転がった……。
ポロリンと。
「嗚呼ッ!」
メエメエさんは水筒の水を伝って、うっかり感電してしまったらしい。
僕が無事だったのは、メエメエさんが宙に浮いていたからだと思う。
メエメエさんも完全防御のソラタンに足をつけていれば、こんな結末にはならなかったんじゃないかな?
セイちゃんとニイニイちゃんが、転がったメエメエさんをツンツンしていた。
メエメエさんは「ゴホッ」と、黒煙を吐き出していたよ!
コントかな?
――――とりあえず、みんなのところに戻ろうね?
そ~っと、マッピングを確認しながら巨木の森を下りていく。
もう赤いマーカーは見当たらないから、全部討伐できたんだと思う。
大コンドルンを回収して戻ってきたフウちゃんとユエちゃんを、メッチャ褒めておいたよ。
「さすが、フウちゃんだね! ユエちゃんもサポートお疲れさま!」
ふたりはニコニコと笑っていた。
かわいいね!
途中でグリちゃんたちが僕を探しに飛んできてくれたので、みんなで一緒にソラタンに乗って父様たちの許へ戻った。
父様は妖精界でソラタンを見たことがあるからか、僕を見てホッと息をついていたけれど、従士の四人はソラタンに驚いていた。
「坊ちゃん! いつからそんな愉快な乗り物を手に入れたんです! 俺も乗ってみたい!」
ケビンが駆け寄ってきて、ソラタンに触っていた。
そしてその上に転がる真っ黒メエメエさんを見て飛び退いていた。
「坊ちゃん! お羊様の丸焼きがあるぜッ!!」
心底驚嘆しながら叫んだ。
ヒューゴもイザークもルイスも、もちろん父様も目を真ん丸にしている。
クロちゃんシロちゃんは、マイペースに毛繕いをしていたけど。
僕は上空に飛ばされてからの経緯を、みんなに語って聞かせた。
大コンドルンを雷の杖で撃退したこと、その余波でうっかりメエメエさんが感電したこと、ニイニイちゃんが怒ってへそを曲げていること。
それからもちろん、空飛ぶ絨毯ソラタンのこともね!
「なんだ、お羊様も案外間抜けですね!」
ケビンがいい笑顔で言い切った。
う~ん、メエメエさんは案外どころか、だいたい間抜けなことが多いと思うよ。
うっかり指数は僕とどっこいどっこいだけどね!
父様たちは地上で大猿の群れと激戦を繰り広げていたそうで、クロちゃんシロちゃんと精霊さんたちとミディ部隊のおかげで、なんとか討伐することができたと話していた。
多少のケガはあったものの、すでにポーションで全回復したそうだよ。
良かったよ!
僕はソラタンの上に膝を織って座りながら、ホッと安堵の息をつくことができた。
「じゃあ、そろそろシュワシュワの水を汲んで、お家に戻ろうよ!」
僕が意気揚々進言するも、即時却下を食らった。
「まだ来たばかりです! もっと周辺の魔物を知っておきたいです!」
ヒューゴがキリリ眉毛で告げた。
「俺もまだまだ暴れ足りないですぜ」
ケビンがニヒルにニヤリと笑う。
本人はカッコイイと本気で思っているもよう。
「俺はこの弓を試したいんで。坊ちゃん、ほかに大コンドルンを見かけませんでしたか?」
イザークが『必ず当たる弓矢』を掲げてみせる。
「俺ももう少し狩りを続けたいッス!」
ルイスは大猿の握り拳大の魔石を僕に見せてくれた。
この大猿は魔石もさることながら、毛皮も高値がつくそうだ。
お肉の味は微妙といっていたけれど、捨てるところはないという。
全部で数十頭の大集団だったらしく、従士たちはホクホク笑顔になっていた。
お金の力は偉大だね。
「よし! 泉まで大回りして向かうぞ! これは遊びではない! 大森林の調査だからな!」
メッチャいい笑顔で父様は張り切って告げた。
みんなも笑顔で喜んでいたよ…………。
えぇぇぇ~~?
僕のテンションはダダ下がり!
結局そのまま森の調査が進められることになった。
「そのままソラタンに乗っているニャ。シロも暴れ足りないニャよ」
シロちゃんに騎獣放棄された。
しょんぼり~ん。
僕と精霊さん七人+メエメエさんを乗せたソラタンは、ゆっくりと巨木の森を進んだ。
父様と従士たちは距離を取り、周辺を探査しながら進む。
途中でユエちゃんが「あ! 大コンドルンだよ!」と上空を指差して叫ぶと、早速イザークが矢をつがえて、一矢で射落としていた!
少し先に、木々の葉を落としながら落ちてきた大コンドルンに、大人たちは歓声を上げていた。
落ちた大コンドルンを見て、フウちゃんがそっとつぶやいたんだ。
「さっきの、もっと、おおきかったよ」
口元を両手で押さえて、ウフフとかわいく笑っていたんだよ!
思わず髪をなでてあげると、「むふー」と得意そうに頬を染めていたんだ。
そのあとユエちゃんを筆頭に、全員が頭を差し出してきたので、順番になでなですると、みんなも「むふー」と笑っていたよ。
和むねぇ。
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