南の泉へ行ってみよう! 4
「メエメエさんは飛べるんだから、そんな隅っこに匍匐前進しなくてもいいと思う!」
「ビビリに冷静なツッコミをされました!」
メエメエさんの叫び声が辺りに木霊したんだけど。
「メエメエさんや。大きな声を出すから、向こうから大きな何かが飛んでくるよ?」
僕が指摘するとメエメエさんは振り返り、豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「なんということでしょう! あれは大コンドルンです! 全長八メーテの魔鳥デッス!!」
なんでこんなところにコンドルがいるのさ!
「コンドルンです! ハク様ならパックン丸飲みにされますね!」
「ひょえぇぇぇ~~ッ!!!」
僕の大絶叫を聞いて飛んできてくれたのは、フウちゃんとユエちゃんだった!
「大きな声を出さないでよ! 敵を呼び寄せてどうするのさ!!」
ユエちゃんがプンスコしながら、猛烈な抗議をしてきた。
ごめんなさい!
少々取り乱しました!!
迫り来る大コンドルンに、フウちゃんが無数の風の刃を放つ!
そこへユエちゃんが強化魔法を付与すると、見えない風の刃が大コンドルンの翼を傷つけたんだ。
それでも大コンドルンを落とすことはできず、よろめきながらもこっちに飛んでくるんだよ?
なんだか大コンドルンの目が赤い。
「メエメエさん、メエメエさん」
「なんです、気安く呼ばないでください!」
こんなときにふざけているんじゃないんだよ?
思わずメエメエさんの首をギュッと背後から握りしめた。
「グエッ」
「メエメエさん! あの大コンドルンの目が血走っているんですけど! 僕はどうしたらいいのよッ??」
メエメエさんをギュウギュウしながら叫ぶと、ユエちゃんが返事をした。
「とりあえず、空飛ぶ絨毯で逃げて! それからメエメエさんが白目を剥いているよ!」
おお、ナイスアイデア!
「空飛ぶ絨毯さん! 敵を回避してください!」
僕はメエメエさんをギュッとしたまま、空飛ぶ絨毯さんに指示を出した。
それにしても空飛ぶ絨毯さんは呼びにくい。
「君の名前はソラタンね! なんとか無事に生きて帰りたいんだ!!」
ソラタンと叫んだ瞬間に、空飛ぶ絨毯さんはパワーアップしたよ!
こんなところでも名づけが有効だったみたい!
精霊さんたちは不思議だねぇ~。
ところでソラタンはなんの精霊さんなのかな?
なんて、のん気に考えている場合ではなかった。
まずはメエメエさんを掴んだ手を放し、ソラタンの上に寝かせると、ユエちゃんの言ったとおりメエメエさんが白目を剥いていた。
メエメエさんの白いところ発見!
メエメエさんのお腹に手を当てて、魔力を注ぎ込んでみた。
数秒後にメエメエさんはカッと目を見開いて、そして僕にモフモフアタック&蹄三連突きを食らわせてきた!
「うっかり三途の川を渡りかけました! 袖の下がないので送り返されましたよ!!」
えぇ?
それを言うなら渡し賃じゃない?
「どっちでもいいです! 私は全力で抗議しマッス!!!」
メエメエさんは激おこだった。
無駄に元気が有り余っていない?
「危うく昇天しかけたんですよ! 死んだらどうしてくれるんですッ!!」
メッチャプンスコしてソラタンの上で足をダンダンしていたけれど、ポスポスとしか音がしない。
メエメエさんの怒りのボルテージが伝わらないよね。
そんなメエメエさんには目もくれず、セイちゃんが僕の額をなでなんでしてくれた。
蹄の痕が痛々しく見えるんだろうね。
この痕は丸一日消えないんだよ!
空を自在に逃げ回るソラタンを、怒り心頭の大コンドルンが追いかけてくるんだけど、ずっと後ろを追跡してくるんだよね……。
もっとこう、頭を使って先回りとかフェイントを仕掛けてこないんだね?
「大きくなっても、魔獣になっても鳥は鳥ですからね」
「そういうものなの?」
「そういうものなんじゃないですか~」
適当に返事をしやがって!
フウちゃんが何度も風の刃を飛ばしているから、大コンドルンはだいぶ傷を負っているんだけど、決定打にかけるようだ。
まぁ、それも仕方ないよね。
僕の精霊さんたちは植物栽培特化だから、本来戦うための精霊さんじゃないし。
僕と一緒にのほほんとしているのがお仕事のようなものだもの。
だけど現状、こうしていても埒が明かない。
地上で戦うみんなのことも心配だし、向こうだってきっと心配していると思うんだ。
そこでふと、僕は以前もらった魔法の杖の存在を思い出した。
僕が所持する杖はふたつ。
ひとつはドリアードのドリーちゃんの枝から作り出した、浄化の杖。
そしてもうひとつは、父様がダルタちゃんの露店で買った雷の魔法陣が刻まれた杖だ。
僕はそっちの杖を取り出してみた。
父様はこの杖から雷撃が出るって言っていたよね。
チラリとポケットを見たら、雷属性のニイニイちゃんは鼻提灯を出して眠っていた。
頼りにならないね。
「メエメエさん、この杖を使ってみようと思うんだけど、妖精界のときのように、僕の魔力が暴走するなんてことはないよね?」
メエメエさんは僕が手に持つ雷の杖に近づいて、刻まれた魔法陣を見ていた。
「ふむ。これは一定の雷撃を繰り出す魔法ですね。威力は一定でも、魔力量が多いハク様ならば、何十発でも何百発でも何千発でも繰り出せるんじゃないですか? この杖が耐えうる限りでしょうが」
いやいや、何百発とか何千発とかは無理でしょう?
何十発はいけそうな気がするけどさ!
僕は追いかけてくる大コンドルンを見た。
「試してみようと思うんだけど、うっかり逸れて、近くの巨木に落ちたりしないよね?」
「落雷は、予期せぬ場所に、落ちるもの」
五七五で答えるメエメエさんは、何げに日本かぶれだ。
メエメエさんに聞いても適当な答えしか返ってこない。
役に立たない黒羊だ!
そこで僕はユエちゃんを呼んで聞いてみた。
「ユエちゃん! この魔法の杖で雷撃を飛ばそうと思うんだけど、周辺の木に落ちると危ないから、大コンドルンに当たるように、何か付与魔法は飛ばせないかな?」
ユエちゃんは杖を見て考え込んだ。
少ししてから手の平で拳をポンと打つ。
「雷って水に伝わるんだっけ? フウちゃんに水筒の水を細く飛ばしてもらって、雷の通り道を作れないかな? 風と水と雷の合わせ技ってことでさ?」
おお!
なんだか科学的なことを言っているね?
そこでメエメエさんも蹄をポンとやった。
真似っこしているの?
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