南の泉へ行ってみよう! 3
今度こそ本物の魔獣だった!
ビジュアルは全然違うけど、メエメエさんと同じく黒い魔物だ!!
「私は精霊です! 黒いからといって魔物と一緒にしないでください!?」
メエメエさんが僕の背中をバシバシたたいてくる。
痛いからやめて!
「魔狼だ! 任せろ!」
ヒューゴが飛びかかってくる魔狼に向けて、巨大な戦斧を軽々と振るった。
その刃に刻まれた複雑な文様が輝くと、まるで果実をナイフで裂くように、魔狼の肉体が真っ二つに分かれたんだ!
うっかり者の僕は、その光景をしっかりパッチリ見てしまった!
ショックで意識が遠くなりかけたとき、真横にいた父様が僕の腕をグッと掴んだ。
「ハク! 意識を保て! お前が気絶すれば、それだけ周りの人間に負担がかかるぞッ!?」
「!!!!!」
大きな声で叱責された!
父様に初めて叱られたかも!!
こんな大きな声で怒鳴られたことなんかないもん!
「うわ~ん! 父様がいじめるよ~~ッ!!」
魔狼が目の前で仕留められたことよりも、そっちのほうが衝撃だったんだ!!
泣き出す僕を見て、従士たちは声を上げて笑っていた。
「坊ちゃん、大きな声を出すと魔物が寄ってきますぜ!」
ケビンが冷やかすように声をかけてきた。
「ケビンの声のほうが大きいもん!」
反論したら「違いねぇ!」と、またみんなが大笑いしている。
ううう、みんなひどい!
僕の前に座っていたセイちゃんが振り返って立ち上がり、僕の涙をハンカチで拭いていくれたんだ。
ありがとうね、セイちゃん。
背後にいたメエメエさんは僕の背中をよじ登り、肩に立って頭にしがみついた。
「いつまでも甘ちゃんですね! ――――風精霊たちよ、血の匂いを散らしてください!」
その声に反応して、フウちゃんとシルルちゃんと、ミディ部隊の風精霊さんが、周辺の空気を上空へ押し上げた。
その空気の流動の中に、新たな魔物の匂いを嗅ぎ取ったクロちゃんシロちゃん。
「遊びは終わりだニャ。次が来るニャ!」
クロちゃんが低い声で警告すると、身体をグッと低くして、いつでも飛びかかる体勢になった。
「いつまでも泣いていないで、しっかり掴まっているニャよ!」
シロちゃんに言われて、慌ててしがみつく。
涙も一瞬で引っ込んだ!
父様と従士たちも武器を構え、敵襲に備える。
さっきの魔狼のときとは明らかに違うので、僕はドキドキしてしまった。
怖いのは嫌。
痛いのも嫌。
父様や従士や、精霊さんたちが傷つくのも嫌。
お願い、悪いものは近づいてこないで!!
その刹那に一気に跳躍するクロちゃんは、軽やかに巨木を駆け上がり、迫りくる魔物に肉薄した!
そのあいだにも、地上を駆って迫り来るものがある。
一匹二匹どころの話ではない。
大きな魔物の集団だ!!
今度はわかるよ!
頭上の木々のあいだに十数体と、地上には無数の赤いマーカーが見える!
そのどれもが高速で近づいてくるんだ!!
僕の頭にしがみついたメエメエさんが叫んだ。
「大猿の群れです! クロちゃんが迎撃! ミディ部隊が頭上の敵を倒しますので、従士の皆さんは地上の敵をお願いします!!」
「応!!!!!!」
その声に反応して、速やかに動き出す父様と従士たち。
ミディちゃんも木の上を移動する大猿に向かって突撃していったんだ!
ハッとして横を見たら、体長三メーテを超えるゴリラのような大猿が、目の前に飛び込んできた。
思わずうっかり目が合ってしまった!
「!!」
最弱の僕がターゲットにされているんだッ!!
咄嗟にグッと手元のモフモフを握りしめた瞬間、シロちゃんが大地を蹴った!
大猿が到着するよりも早く、すさまじい速度で巨木を縦に駆け上がるシロちゃん。
僕は振り下ろされないように、身体を伏せて必死にしがみつきながらも、敵の存在を確認すべく、首を曲げて眼下に視線を走らせる。
大猿は眼前にいたはずの敵の姿を見失い、周囲をキョロキョロと見回していた。
頭上に飛んだシロちゃんに気づいても無視し、今度は近くにいた父様に向かっていった!
父様は二頭の大猿を相手取って立ち回っているところだった。
三頭も相手取るなんて、危ないよぅ!!
「ハク様! お父上様たちは大丈夫です!! 自分の周囲に注視してください!」
メエメエさんに注意されたよ!
確かに現在進行形で、父様に気を取られている場合ではなかった。
僕を乗せたシロちゃんの周囲には大猿が複数存在し、木々を自由自在に飛び回り、四方八方から襲いかかってくるんだ!
僕は夢中でシロちゃんにしがみつく。
シロちゃんと僕に挟まれたセイちゃんはキョトンとしていた。
巨木を猛スピードで駆け上がるシロちゃんの周囲では、グリちゃんたちが大猿を蹴散らしていた!
クロちゃんが駆けて僕の頭上をかすめると、大きく跳躍して一際巨大な大猿の喉元に食らいつき、もつれながら転がり落ちていったんだ⁉
「クロちゃん!!」
「前だけを見ていてください! クロちゃんは大丈夫です!!」
僕の頭上に張りついたメエメエさんが叫んだ!
そんなことを言われたって!!
もう、何がなんだかわからないよ!!
巨木を駆け上がり大猿を振り切ったシロちゃんは、大きく跳躍して上空へ躍った。
圧しかかっていた重力から解き放たれて、今度は体が浮かび上がる。
「メエメエさん、あとは任せるニャよ!」
シロちゃんの身体が大きくうねると、僕は軽々と振りほどかれ、空中に放り出された。
それはほんの一瞬のこと。
そのときセイちゃんは自力で飛んでいた。
スローモーションのように空に浮かんだ僕の目の前で、シロちゃんが真っ逆さまに巨木を駆け下りていったんだ!!
同時にメエメエさんが叫ぶ。
「目覚めるのです! 空飛ぶ絨毯の精霊よ!!」
僕のブーツに仕込まれた魔法が発動し、足元に鮮やかなブルーの絨毯が現れ、そこへポスンと落ちて止まった。
放心気味の僕の胸元へ、セイちゃんが泳ぎながら飛び込んでくるのをキャッチする。
小さな温もりを感じて、僕はようやくホッと息をついた。
寿命が三年縮んだ気がするよ!
だけどまだ、これで終わりじゃない。
泣き出したい気持ちを押さえて、僕はグッと歯を食いしばる。
この巨木の森の下では、今も父様たちが戦っているんだ!
僕の周辺を見れば、飛び上がってくる大猿たちに、クーさんが氷の槍を突き立て、ピッカちゃんが光球をぶつけている!
ポコちゃんが岩をガンガン放り投げているけど、下で戦う父様たちに当たったりしないのかな?
「大丈夫です! 精霊の攻撃は仲間を傷つけませんよ!」
メエメエさんが絨毯に上を
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