南の泉へ行ってみよう! 2

 ここでこうしていても始まらないということで、一行は南の大森林に一歩を踏み出した。

 ビビリな僕の意見に耳を貸す者はひとりもいない!

 クロちゃんを先頭に、熊男のヒューゴとチャランポランなケビンが続く。

 そのあとを父様とシロちゃんに乗った僕が続き、周囲をグリちゃんたちが固め、最後にイザークとルイスがついてきている。

 今日は従士全員が出動していた。

 みんなはなぜか楽しそうなんだよね!

 ミディ部隊は僕らの周囲を警護してくれているよ。


 シロちゃんの背中に乗った僕は涙目でビクビクしていた。

「しっかりするニャよ! 前より弱虫になってるニャ!!」

 シロちゃんに怒られた!

「だって~ッ! あのときとは状況が違うし、今回は魔物の巣窟に行くんでしょう? 最弱の僕の出番はないよね!?」

 僕が小さな声でボソボソと文句を言うと、横を歩く父様が笑った。

 ヒューゴたちは話が見えずに首をかしげているようだ。

 そうだよね。

 妖精界で一箇月近く冒険してきたことは、従士のみんなには話していないもん。

 こっちでは一日しか経っていなくて、さらにトキちゃんが時間を巻き戻してくれたから、すべてが無かったことになっている。

 思えば夢のような出来事だったんだ。

 あのときは後戻りできない状態だったけど、今回は明らかに違うよね?

 転移門さえあればすぐに戻れる状態だし、イヤイヤ連れてこられた僕がビビッても仕方がないと思うよ!


 ぐぬぬ。

 僕はこの状況を打破すべく、父様に告げた。

「つかぬことをお伺いしますが、アル様は転移門を、シュワシュワの泉の側に設置したはずなんです! マッピングスキルで見れば、転移門から三十メーテくらいの距離ですよ! なのにどうして泉とは反対のほうに向かっているんですかッ!?」

 僕は精一杯抗議をしてみた!

 とっとと用事を終わらせて、早くお家へ帰りたい!


 けれど父様は至極あっさりと、いい笑顔で返事をしたんだよ!

「ああ、周辺の調査をしたいと言っただろう?」

「ええぇぇぇ~~ッ!」

 目を剥いて驚愕する僕の背後で、イザークとルイスが笑っていた。

「坊ちゃん、大きな声を出すと魔物に気づかれるッス!」

 ルイスがニヤニヤ笑いながら、結構大きな声でしゃべったよ!

 やめて!

 キッとルイスを振り返って睨んだ瞬間。

 前方で大きな葉擦れの音が聞こえたんだ!


 慌てて前方へ目をやれば、生い茂った草木のあいだから茶色い線がいくつも飛び出して、また草影に消えていった。

 瞬時に反応したのは先頭を行くクロちゃんで、たくさん飛んでいく物体を、バシッと前足で叩き落としていたよ!

「飛びネズミだニャ」

 クロちゃんはたいして興味もなさそうにつぶやいて、仕留めた獲物を僕のほうへ放って寄越したんだ!

「わぁ!」

 シロちゃんの前にポトリと落ちたのを、父様とシロちゃんが検分している。

「確かに飛びネズミだな。集団で移動しているということは、何かに追われていたか?」

「食べるところがないニャ。右のほうから何かくるニャよ」

 チラリと見えた飛びネズミは体長二十センテくらいのネズミで、手足のあいだに皮膜のようなものがあった。

 ムササビとかモモンガっぽい?


 って!

 シロちゃんが右のほうから何か来るって言っているのに、父様もヒューゴたちもなんで普通にしているのよッ?

 警戒はどうしたの! 

 臨戦態勢を取って!!


 僕がひとりでアワアワしていると、巨木の隙間を縫うように、黒い獣が飛び出してきた!

 思わず目を閉じてシロちゃんにしがみついた僕の耳に、聞き慣れた声が聞こえた!!

「私を置いていくなんてひどいデッス!」

 なんとそれは、メエメエさんの声だったんだ!

 パッと目を開けてみれが、僕の視界は真っ黒だったよ!?

「だから近過ぎるってば!! なんで前から来るのよ!」

 思わず黒い物体を鼻先から引っぺがすと、メエメエさんはスンとした顔で糸目になっていた!

「ラビラビさんがここの転移門の権限を有しています! 開けてくれないので影渡りで飛んで来ました! ちょっと出るところを間違っただけデッス!!」

 えぇ?

 聞けば大精霊ともなればひとっ飛びなのだそうだ。


 精霊さんたちを見れば、コクコクとうなずいている。

「ほんきでとべば、すぐだよー」

「ボクも! いっしゅん!」

 フウちゃんとピッカちゃんが胸を張っていた。

 音速と光速かな?

 僕の側にいると、実力を発揮する場所がなくてごめんね?

 ほかの子たちも普通に空を飛んだら、フウちゃんとピッカちゃんには負けるけど、メエメエさんと同じスピードで移動できるそうだ。

 聞いてもいないのに、ユエちゃんが得意になって説明してくれたよ。

 適当に聞き流す僕に気づいて、ユエちゃんはステッキ攻撃を始めた。

「ていてい!」

「いてて!!」

 背後でイザークとルイスが笑ってみているだけだった。


 僕らがのん気に戯れているあいだに、メエメエさんが父様に抗議していた。

「私がゆっくり休暇を取っているあいだに、置いてけぼりにするなんてひどいです!」

「やぁ、休暇中と聞いてね。――夕方までには戻る予定だったんだよ?」

 プンスコするメエメエさんに、父様は苦笑していた。

 自分で「ゆっくり休暇を取っていた」と今言った口で、文句を言うメエメエさんもどうかと思うよね?

 今日の行程にメエメエさんが必要不可欠なわけじゃないしさ。

 そもそもメエメエさんの存在をすっかり忘れていたしさ。


 メエメエさんが僕をキッと睨んで、モフモフアタックで攻撃してきた!

 なんで!!!


 ところで、飛んでくるのがメエメエさんだとわかって、誰も反応を示さなかったのかな?

 グリちゃんたちもミディちゃんたちも普通にしているね。

 僕が首をかしげていると、イザークが『どこでも☆マッピングリング』を掲げて言った。

「坊ちゃん。自分のマッピングスキルをもっと活用してくださいよ。画面に青いマーカーしかないですよね? 敵は赤いマーカーでしょうに…………」

 イザークに僕のスキルの説明をされた!

 これは由々しき事態かもッ!!


「本当にポンコツですね! ほら、今度こそ赤いマーカーが近づいていますよ!」

 メエメエさんは僕をディスりながら、シロちゃんの背中に飛び乗った。

 シロちゃんの背中にはセイちゃん僕メエメエさんの順で乗っている。


 ガアァァァァッ!!!


 突如大きな声を上げて、前方の藪の中から体長五メーテの漆黒の狼が飛び出してきた!

「ピャッ!」

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