南の泉へ行ってみよう! 1

 味変普通ポーションを鬼のように作りまくった僕。

 当面の在庫数を確保するまで、ラビラビさんに監視されながら、ひたすらポーション作りに没頭した。

 あの目は逃がさないといっている。

 リオル兄は涼しい顔で、「たまには必死にがんばりなよ」と言うんだよ!

 バートンは無表情で「成人されましたので、いつまでも甘えは禁物でございます」と、厳しく僕を突き放したんだ!!

 これって四面楚歌っていうんだっけ!?


 僕を哀れに思ったのか、精霊さんたちは薬草を乾燥させたり、砕いたり、ビン詰め作業を手伝ってくれたよ。

 いい子たちだねぇ~。

 セイちゃんは魔石コンロの炎に見入って、たまに指を入れたりするので、バートンがそっとホールドして離れていた。

 たとえ火精霊さんとはいえ、見ているとこっちが心配になっちゃうもんね!

 

「ボクが付与魔法をかけてあげようか?」

 ユエちゃんが嬉々として声をかけてくるんだ。

「普通ポーションに余計な効果をつけちゃダメ!」

 断ったらムッとして、お月様ステッキで報復されたよ!?

「ていてい!」

 ぐぬぬぬぬ。

 僕はそのツンツン攻撃に耐えながら、必死で味変ポーションを量産した。

 作っても作っても、「もっともっと!」とラビラビさんに尻を叩かれる僕。


 誰なの!

 余計な味変をしようなんて考えたのはッ!!!


「ハク様ですね」

 ラビラビさんが作業テーブルの端っこでニヨニヨしていたよ!

 苦ッ!

 過去の自分が恨めしいッ!!!



 そんな日々が数日続いた。

 ようやくポーションの在庫が確保できて、ホッと胸をなで下ろし、今日こそはのんびり過ごそうと思っていたのに!

 朝も早くから、父様が僕の部屋の扉をバーンと開け放って、大きな声で叫んだんだ!

「よし! ハクもシュワシュワの泉に一緒に行こう!」

「…………」

 お布団の中から目だけ出してみたら、父様のピッカピカの笑顔がまぶしかった。

 精霊さんたちも目をこすりながら欠伸をして、父様のほうを見ている。


 寝ぼけた頭では、すぐに理解できなかった。

 父様は今何を言ったの?

 んん?

 一拍あとに、僕の脳がようやく理解に至った!


「えええぇぇぇ~~ッ! 無理無理無理~~ッ!!!」


 お屋敷中に僕の絶叫が響き渡ったよ!

 高速首振りで断固拒否していたけれど、どこからともなくラビラビさんが現れて、僕の枕元で囁いたんだ。

「転移門は私が開きますから、ご安心ください! ハク様も成人しましたし、少しは世間の荒波に揉まれてきてください!! なぁ~に、クロちゃんシロちゃんと、ミディ部隊とグリちゃんたちもいますから、敵が現れても大丈夫! おもしろいものがあったら採取をよろしくお願いしまッス!!」

 肩口で嬉々として叫ぶのはやめて!


 こうしてあれよあれよという間に、食堂に運ばれて朝食を食べさせられ、ラビラビさんが用意した装備をマーサとバートンに着つけられ、お屋敷のエントランスに運ばれてゆく僕。

 ちなみに僕は一歩も歩いていない。

 僕の脳は思考を中断し、現実逃避をしていた。

 精霊さんたちはおやつをたくさん用意して、水筒も装着し、ニコニコ笑顔でついてくる。

 ラビラビさんと父様に、何やらひそひそと話し込んでいた。


 玄関前に運ばれた僕は、シロちゃんに首根っこを咥えられ、ポイッと背中に放り投げられた。

 シロちゃんのモフモフ背中にポスンと落ちたころ、屋敷の玄関扉が開け放たれる。

 扉の向こうは、草木が生い茂る大森林に続いていた!


 えええぇぇぇぇぇ~~ッ!?


 こうして、ご機嫌なラビラビさんとバートンに見送られて、未踏の地へ出発することになった。

 みんなひどくない??




 転移門を抜けると、そこは巨木の森だった。

 広葉樹の木々の梢に阻まれて薄暗く、ここからは空が見えない。

 周辺は草木が生い茂り、鬱蒼として、一歩を踏み出したクロちゃんを覆い隠すようだった。

「人間は埋もれるニャ」

 クロちゃんの一言を聞いて、同行するミディ部隊の子が周辺の草を手早く刈り取り、視界の確保をおこなってくれた。

 転移の拠点石周辺は広く結界が施されていたので、一歩踏み出した瞬間に魔物に襲われるなんてことはない。


「おお、すげぇなぁ! この木の胴回りは大人何人で一周できるんだ?」

 ケビンがはしゃぎながら、近くの木の幹をバシバシ叩いていた。

「五~六人もいれば足りるんじゃないですか?」

 イザークがどうでもよさそうに返事をしつつ、周辺を注意深く見回している。

 ヒューゴは大剣を握って、進路方向の草や低木の枝を薙ぎ払っていた。

 父様は周辺の状況を確認しつつ、『どこでもマッピング☆リング』で現在地を確認している。

「それがあったな」と、イザークたちもすぐに起動していた。

 ずっと前に貸し出したものが、戻っていなかったようだ。


 何げに僕のスキルの流用がひどい…………。

 メエメエさんの管理責任を問いたい!

 

 僕がひとり憮然としていると、突然頭上からガサガサと大きな音が聞こえ、葉っぱがたくさん落ちてきた!

 ギャーギャーギャッ!!

 耳をつんざくけたたましい鳴き声に、僕はビックリして身をすくませた!

 セイちゃんを抱え込んでシロちゃんの背に丸まれば、キョトンとした瞳で僕を見上げているんだよ。

 魔物は怖いんだよ!

 セイちゃんを隠さなくっちゃ!!

 そんな僕の周りでは、精霊さんたちがのほほ~んとしていたけど。

 シロちゃんも大きな欠伸をしていた。

 えぇ?

 

 頭上の木々を見上げる父様と従士たちを見ても、慌てたようすはない。

「あれは大猿の群れだな。ああやって集団で木々を移動しながら生活しているんだ。どう猛で危険な魔物だから、ここの結界があって助かったよ」

 父様は何でもなさそうな口調で、恐ろしいことを言った。

 蒼を通り越して白くなる僕。

「と、父様……。僕は足手まといだから、お家に帰りたいなぁ~?」

 チラチラと目配せして父様を見れば、おもしろそうに僕を見ていた!

 口の端がニヨニヨしているんですけどッ!?

「ラビラビさんから、『夕方転移門を開くまで、がんばってきてください』と言われたんだがな?」

 ほら。

 父様が背後を振り返って示す先には、すでに転移門は消えていたッ!


 何しているの、ラビラビさ~~んッ!!!

 開いた口から、魂が抜けそうになったよ!?

 ひど過ぎる!!

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