『精霊の森商会』一周年記念セール 2

 横で傍観していたラビラビさんが、呆れたようにため息をついてつぶやいた。

「ソウコちゃ~ん、不良在庫を格納してくださぁ~~い」

 するとバートンの手からド派手布バッグがスルリと離れ、保管倉庫の奥に飛んでいったよ!

 わぁ! 

 ソウコちゃんの存在を初めて確認できたかも!

「ソウコちゃん、ありがとうね! それから、不良在庫を増やしたのはメエメエさんだからね~~! 闇討ちはメエメエさんにしてね!」

「ひどいデッス!!!」

 メエメエさんの絶叫が保管倉庫にむなしく響いていた――――。


 メエメエさんや。

 ひどいのはこんな不良在庫を掴まされたソウコちゃんだよ?

 その怒りの矛先が向かうのは、なぜかラビラビさんみたいだし、たまには自分で責任を取ろうね?

 ね?



 そんなメエメエさんは放っておいて、ラビラビさんが手を挙げた。

「はいはい! 次は私です!!」

 ラビラビさんが椅子に立ち上がってアピールをしている。

 さて、こっちはどうだろうね?


「まずは改良を加えた魔導水筒です! 直接水筒の底に水魔法の術式を組み込んだので、魔石で稼働します。自分の魔力でも充填できるようにしました!」

 おお、それはいいね。

「それはゴブリンの魔石で、どのくらい使用できますか?」

 すかさずバートンが質問している。

 弱い部類の魔物であるゴブリンの魔石は、安値で取引されているので、平民でも手に入れやすいんだよ。


 ラビラビさんは胸を張って答えていた。

「そうですね。小さい魔石でも十回くらいは満タンにできます! 魔石が買えない人でも、極わずかな魔力で一回充填できます。魔力が少ない人でも、普通の水筒としてお使いいただけますよ! ちなみに原材料には竹を使用しています。補強に魔獣の皮を二重で貼りつけてありますので、断熱と防水効果もバッチリです! 魔獣がホイホイ狩れる大森林だからこそ、低価格で販売できます!」

 ホイホイって……。

 ラビラビさんが断面の構造を見せてくれた。


「なるほど! 確かに大森林なら魔獣の皮は手に入りやすいですね。魔石は別売りということでよろしいでしょうか?」

「そうです! オークの皮が使えます! 防水用には大ガマゲルルの皮を使っていますよ!」

 ゲッ! カエルは苦手!!

 僕が顔を引きつらせている横で、バートンが熱心にメモを取っていた。

 メエメエさんのときとは大違いだね!



「お次はこちら! ローズマリーを使った化粧水・乳液・クリーム・美容液を販売いたします!」

 ドーンと四種の化粧品が並んだ。

 おお、ビバ!


 モナルダ化粧品も売れ行きが好調なんだよね。

 ハーブの定番といえるローズマリーは、寒冷地では越冬が難しいけれど、凍らせないで管理できれば大丈夫だ。

 なんなら挿し木で増やせるしさ。


「そしてこちら! メエメエさんが服飾にかまけているあいだに作った、新作スイーツです! セール期間限定販売、干しブドウを使ったパウンドケーキ! ドライフルーツを使ったスコーンは、B級品のフルーツを使えばコストカットできます! ルーク村の婦人会に製造をお願いしてもいいでしょう!!」

 ラビラビさんが踊りながらプレゼンするのを、僕とバートンは拍手して聞いていた。

「ルーク村で作れるのはいいよね! ドライフルーツの加工も簡単だし、お願いしようよ、バートン!」

「まったくもって素晴らしい! 早速手配いたします!」



 僕らが盛り上がっている横で、メエメエさんは打ちひしがれていた。

 そこだけ暗いから近づきたくないよね……。

 だけど優しい僕はメエメエさんを無視しないよ!

「メエメエさんは材料の手配をお願いね! 完成したらルーク村でも販売できるようにしようね!」

 僕の声を聞いて、メエメエさんはパッと顔を上げた。


「はい! すぐに手配いたします! カシスやラズベリー、コケモモにクランベリー。イチジクにナツメなどもいかがでしょう。もちろん忘れちゃいけないラドベリーとブルーベリーも在庫が大量にありますので、早速ご用意いたします!」

 ピョンと飛び上がったメエメエさんは、ダッシュで走っていったよ。

 僕はその背中に叫んだ。

「小麦はカミーユ村産を使うからね~~!」


「えぇぇぇぇ~ッ!!!」

 遠くから絶叫が聞こえたけど、カミーユ村から仕入れなきゃ駄目じゃない。

 その辺はよく考えてよね!

 僕とバートンとラビラビさんは苦笑していた。



 そしてラビラビさんは、最後にビンに入った粉末を差し出した。

「乾燥ランマッシュルの粉末に、細かく砕いた岩塩と、乾燥葉ネギと唐辛子の粉末を足したものです。これだけで塩味と旨味のバランスが取れたスープになります。こちらは冒険者ギルドにも紹介してください」

 それにはバートンがうなずいていた。

「従来品も安定して売れております。こちらも喜ばれるでしょう」

 ニコニコと笑うバートンに対して、ラビラビさんの表情は暗い。


「またランマッシュルとウォークマッシュルが大量繁殖しているので、大森林に放逐をお願いします……。ソウコちゃんの圧がすごいんです……」

 今度はラビラビさんが涙目になっていた。

 ああ、うん……。

 いつかルイスと一緒に目撃した、あのポンポコ湧き出るキノコの成長速度を思い出したよ。

 あの増殖力は脅威だよね……。


「ねぇ、バートン。野生のランマッシュルさんたちは、あんなふうに簡単に増えたりするの?」

 バートンは少し考えてから答えてくれた。

「いえ、自然界に存在するキノコの魔物は、外敵に食べられたり、環境や気候の変化の影響で個体数を減らしたり、増え過ぎるということはございません。実際に昨年放したランマッシュルが大増殖しているようすはありませんので」

 ほうほう。

「だったら今年も、ローテ領の森に放してもらおうか。大森林のほうは、今年は別のところがいいかな? 転移門は……、シュワシュワの泉にもあるんだっけ?」


 するとラビラビさんがパッと顔を上げた。

「ああ、それはいいですね。ちょうどシュワシュワの水の採取時期でした。冬になる前に行ってもらおうと考えていたので、ついでにあの辺の森に放逐しましょう! あそこは捕食する魔獣も多いでしょうから、生態系が崩れることはないですよ!!」

 さっきとは一転、明るい表情になっていた。

「うん。一応父様に許可をもらうね」

「それがようございます」

 バートンはニッコリと笑ってうなずいた。

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