進化するコッコ地鶏さんとの戦い 3終

 いろいろ朝から大騒ぎだったね。

 目を覚ました僕は、正座して苦悶の表情を浮かべるメエメエさんを見た。

 リオル兄は呆れたように、「もっと反省させなよ」と言っている。

 日ごろのおこないって大事だよね、メエメエさん。

 バートンから冷たいミント水をもらって飲み干した僕は、ようやく頭がすっきりしてきた。

 僕のお腹の上では、セイちゃんが腹ばいになって寝ていたよ。

 スヨスヨ気持ち良さそうだね。

 グリちゃんたちは窓辺で風に吹かれて、コロリンコして遊んでいる。


 セイちゃんを抱っこして立ち上がると、メエメエさんの前に行ってしゃがんでみた。

「ちなみに聞くんだけど、植物園内のフィールドにいる地鶏さんの狂暴度はどのくらいなの?」

 気になるよね~。

 リオル兄とバートンもこっちをガン見している。

 超注目だね、メエメエさん!

 そんな視線の先にいるメエメエさんは、プルプルと身悶えながら返事をした。


「当社比三倍! うっかり近づくとモフ毛に穴が開きまッス!!」

 どこの当社よ? 

 思わずメエメエさんの頭をギュッと抑え込む。

「ギュムゥゥゥ~」

 メエメエさんはさらに悶絶していたよ。

「とりあえず、足を崩してもいいよ。グリちゃんたち~、ツンツンの刑をお願い!」

「はーい」

 パタリと横倒しになって、ピクピクしているメエメエさんに襲いかかる六人の刺客。

 精霊さんたちは容赦がなかった!

 足をツンツンされた、メエメエさんの悲鳴が屋敷中に響き渡っていた――――。

 少しは反省したかな?



 床に屍のように倒れ伏したメエメエさんは、グズグズと鼻をすすっていた。

「私は悪くないのに。悪いのは進化させてしまう植物園です!」

 僕のスキルのせいにされたよ!

「卵欲しさにコッコ地鶏さんを飼い始めたのはメエメエさんで、フィールドに野放しにして自由にさせたのがよくないんじゃないの?」

 ノンストレスで駆け回っていたら、足腰が強くなって野性味が増すよね?

 僕の意見にバートンが真剣な顔でうなずいているよ。

「さようでございます。鶏舎にてきちんと管理すべきでした」

「…………」

 メエメエさんは無言でそっぽを向いた。


 そして呪詛のように叫ぶ。

「こうなったら、岩塩山ダンジョンに放逐してやりまッス!」

「やめて! 魔獣化してコカトリスとかに進化したらどうするのさッ!!」

「ぐぬぬぬぬ!?」

 メエメエさんは床に向かって呻いていた。

 そんなメエメエさんをバートンが抱え上げると、「離れにお返ししてきます」と言って連れていってしまった。

 無抵抗で運ばれていくメエメエさんは、魂が抜けたようになっていたよ。

 困ったメエメエさんだねぇ……。


 振り返った僕に、リオル兄がいい笑顔で告げた。

「今夜は地鶏肉祭りだとジェフが言っていたから、お腹いっぱい食べるんだよ?」

 えぇ?

 小食の僕には無理じゃない?

 すると精霊さんたちがそろって、「は~い!」とお返事していたよ。

 大食漢のみんながいてくれて心強い!

 予告通り、その日は唐揚げ・チキンステーキ・ローストレッグ・チキン南蛮・油淋鶏などなど、さまざまな料理が食卓に並んでいた。

 ジェフは中華料理までマスターしたのかな?

 その日は我が家でも、ルーク村でも、地鶏肉祭りになったそうだ。


 

 後日、養鶏場の飼育担当者はこう証言した。

「はぁ、古くなったライ麦や、畑で出た雑草なんかを与えてますだ。あとは飼料小屋に補充されてる餌だべぇ。いっつも満杯に入ってて、オラ誰が補充してるか知らねぇ……」

 中年の人の良さそうなおじさんは、ペコペコと頭を下げていたそうだ。

 そんなおじさんをかばうように、牧場主さんが肩をたたいていたんだって。

「こいつは難しいことを考えるのが苦手なんですが、正直で真面目な奴なんで、許してやってください」

 いっしょに頭を下げてくれたんだってさ。

 飼料の管理が杜撰だというのは間違いないので、牧場主さんが今後の管理をすることで、今回は厳重注意でお咎めなしになった。

 飼育員さんは肩を落として、牧場主さんと一緒に帰っていったそうだ。


 とりあえず、ミディ部隊に飼料の補充はさせないように、メエメエさんに厳重注意していたよ。

 鬼神バートンが。



 そのまた後日。

 父様と従士たちによって、植物園内の地鶏狩りがおこなわれることになった。

「この機会に、この前ダルタちゃんから仕入れた魔導武器の確認をしてみよう!」

 父様とシルルちゃんは風の魔法剣を手にして、うなずき合っていた。

「俺はこの弓矢を試してみますよ」

 イザークは絶対当たる弓矢を持って嬉々としている。

「じゃあ俺は、衝撃三倍の土魔法の短槍でも使ってみますか!」

 ルイスが数本の槍を担いで笑っていた。

「ふむ、俺は親父が使っていた戦斧に慣れておくか!」

 ヒューゴが自前の巨大戦斧を軽々と手に持っている。

「それも魔導武器に改装できるかもしれないよ。あとでラビラビさんと見てもいいかな?」

 リオル兄が声をかければ、ヒューゴは瞳を輝かせていた。

「よろしくお願いします!」


 ただひとり、やる気のないのはケビンだね。

 このあいだのことがあるから、うんざりした顔をしている。

「そんなケビンにはこれを貸してあげるよ」

 リオル兄が笑顔で手渡したのは、『必ず帰ってくる巨大ブーメラン君一号』という、全長一メーテ以上あるような巨大ブーメランだった。

「これはなんです?」

 鋭利な刃を持ち、青光りする魔法陣が刻まれた漆黒のブーメランに、ケビンの態度がコロリと変わった。

「これはラビラビさんと開発した、土と風の魔法陣を刻み込んだ魔導武器さ。ラビラビさんが言うことには、超高速で敵に迫り、巨大な重力で敵を打つんだってさ。注意事項はうっかり仲間にぶつけないこと。真っ二つに裂けるからね!」

 リオル兄は輝く笑顔で告げた。

 それを聞いて喜ぶケビンと、顔を引きつらせるパパン&従士諸君。


「いってらっしゃい! 健闘を祈ります!」

 僕とバートンと精霊さんたちは、笑顔で送り出したよ!

 だけど、地鶏さんは魔獣じゃないから、戦闘力が過剰だと思う!

 ほどほどにがんばってきてね。


 当分鶏肉祭りになることを、このときの僕は知らない――――。




 ***


 厄介者となった地鶏さんのお話でした。

 彼らもまた植物園で進化していたようです。

 コッコ地鶏という名前をつけていたことを読み直して、思い出しました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る