進化するコッコ地鶏さんとの戦い 2
そのままトムにマシロちゃんを任せてお屋敷に入ると、バートンが待っていてくれた。
「お帰りなさいませ、坊ちゃま。外で何かございましたか?」
僕は浄化魔法をかけてから、バートンに羽織物を手渡した。
精霊さんたちにも浄化魔法を飛ばしておくのを忘れない。
「うん、帰りに大きなコッコ地鶏に追いかけられちゃって……。ノエルの話だと、普通の地鶏の三倍もあるんだって。ドシドシ音を立てて迫ってくるから、ビックリしたよ!」
砂埃も立っていたんだよ。
バートンはわずかに眉をひそめていたけれど、すぐにいつもの表情に戻る。
「朝食にはまだ早いですので、談話室でお休みください」
「はーい」
僕と精霊さんたちはそろって返事をし、談話室へ移動した。
談話室のソファに腰を下ろすと、すぐにマーサが飲み物を運んできてくれた。
「まぁまぁ、朝から災難でございましたねぇ。コッコ地鶏は狂暴ですから、あの爪に引っかかれると大ケガしてしまいますよ」
マーサは話しながらも、テキパキと僕と精霊さんたちに白桃ジュースを配っていく。
「朝食までは一時間ほどかかりますから、何か軽食でも召し上がられますか?」
「僕は大丈夫。グリちゃんたちは自分たちで食べると思うよ」
視線を巡らすと、とっくにテーブルにフルーツを並べて食べていたよ。
それを見た僕とマーサは笑い合った。
「まぁまぁ! セイちゃん、ポンチョが果汁でベトベトですね。皮を向いて差し上げますわ」
マーサが慌てたようすで、精霊さんたちのテーブルに向かっていった。
僕がのんびりと白桃ジュースを飲んでいると、父様とリオル兄がやってきた。
バートンの後ろにメエメエさんもついてきている。
「お早う、ハク。朝から災難だったねぇ」
父様は苦笑しながらも、労いの声をかけてくれたのに、リオル兄はなんだかニヨニヨしている。
「地鶏に追いかけられるなんてねぇ……、ププ」
今笑ったね!
かわいい弟の危機だったっていうのに、ムキーッ!
「はい、ドウドウ」
僕の横に腰を下ろすと、頭をポンポンたたかれた。
ぐぬぬ。
対面に座った父様に朝の挨拶をして、それからさっきの出来事を話して聞かせた。
父様もちょっと難しい顔をしている。
「うむ。コッコ地鶏の生育が良過ぎて、最近では大型化してきていると聞いていたが、三倍とはいささか常軌を逸しているねぇ」
腕を組んでつぶやきながら、チラリとメエメエさんを見ている。
見ればメエメエさんは、腕を組んで偉そうに座っていた。
よく考えれば、植物園で増え過ぎたコッコ地鶏の雛を、定期的に移動しているんだっけ?
本をただせば元凶はメエメエさんだった気がする。
「むむ! 今私のせいだと思いましたね!?」
「みんながそう思っているよね?」
メエメエさんに返事をすれば、父様もリオル兄もバートンもうなずいていた。
メエメエさんは「ガーン」とつぶやいて、横にパタリと倒れた。
なんかワザとらしい。
「確かに地鶏の卵を定期的に忍ばせていますが、コッコ地鶏は普通のニワトリですよ? 私にどうにかできるわけがないじゃないですか。強いて言えば、植物園の栄養豊富な餌で育った親鳥から生まれた卵で、何世代も植物園で育まれてきた血統というだけです!」
メエメエさんは寝そべりながら叫んだよ。
そこへバートンが声をかける。
「つまり、植物園で進化した地鶏の卵が孵化し、成長したら巨大化したということでございますか?」
えぇ?
僕はビックリし、メエメエさんは取り出した煎餅をポロリと落としていた。
この黒羊、父様たちの前でも寝そべりながら煎餅をかじる気だった!
「つまり、普通のコッコ地鶏とは違う種族になったってことだね?」
リオル兄の絶対零度の視線がメエメエさんに注がれていた。
そもそも卵欲しさにコッコ地鶏の飼育を始めたのはメエメエさんだ。
増え過ぎて管理できなくなったのもメエメエさんだよね。
ついには村にヒヨコと卵を売り飛ばしたのもメエメエさん。
「気になるんだが、現在地鶏の餌はどうなっているんだね?」
父様がバートンを見て、バートンはメエメエさんを見た。
メエメエさんはアホンと口を開けていたよ。
話にならないね!
それから大きなため息をついて、バートンは父様に頭を下げていた。
「ただちに養鶏場の担当者に確認いたしましょう」
ちなみに、外周防護壁門に突撃してきた地鶏さんは、驚く門番さんを巨大鈎爪で弾き飛ばし、村内に侵入しようとしたところで、騒ぎに気づいて集まってきた自警団さんによって、槍で一突きにされたそうだ。
そのあとは脱走した地鶏の捜索をし、巨大コッコ地鶏数羽が仕留められた。
ヒヨコさんたちに罪はないので、回収して鶏舎に戻されたみたい。
養鶏場の隅には大きな穴が開いていて、今にも脱走しそうな地鶏がひしめき合っていたそうだ。
「多頭飼育崩壊じゃねえか! とりあえず、雄鶏は減らしとけ! 卵も半分回収だ!!」
ケビンの指示でコッコ地鶏さんは間引かれた……。
かわいそうな雄鶏さん。
脱走さえしなければ、こんなことにはならなかったのに……。
「いやいや、数が多過ぎて鶏舎が満杯だったそうだよ。遅かれ早かれ、間引かれる運命だね」
リオル兄のツッコミが入った。
そしてニヤリと口元を歪め、僕に言ったんだ。
「それにしても、ハクは危険察知のスキルでもあるのかい? ずっと前に角ウサギに襲われたときの話を聞いているよ」
リオル兄はニヨニヨと笑っていた。
誰なの!
僕の七歳の黒歴史をリオル兄に伝えたのはッ!?
「坊ちゃん。俺のこの傷を見てから言ってくれ! 自警団のヤツらも傷だらけだッ!!」
ケビンの制服がボロボロに破け、顔やら腕やら足やら、皮膚がえぐれて血まみれになっていた!
鮮血におののいた僕は、パタリと気絶したよ。
そこへ黒い弾丸・メエメエさんが飛んできて、「ポーション・ハリケーン!」と叫んで、四種のポーションをケビンにぶっかけたらしいよ。
ケビンの傷は一瞬で治癒したけれど、頭の先からつま先まで、ドロドロになって、みんなに遠巻きにされたんだって。
バッチイよね。
「余計な技はいらん! ポーションは飲めば直るぜ!?」
切れたケビンに叱られたメエメエさんは、バートンにしょっ引かれたんだってさ。
「善意でしたのに……グスン」
「普通に手渡してください」
容赦のないバートンは、談話室の床にメエメエさんを正座させていた。
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