進化するコッコ地鶏さんとの戦い 1

 アンジーさんがダンジョンに行ってしまったので、僕が水田の見回りをすることになった。

 とはいえ、ミディ農作業部隊が日夜完璧に管理しているから、正直やることはないよね。

 それでも見回りくらいはしておこう。

 夏は暑いので、日の出前に起き出して、マシロちゃんに乗ってのんびり水田に向かう。

 乗馬の腕は少し上がって、ひとりで軽い常足なみあしができるようになった。

 まぁ、マシロちゃんの技能によるところが大きいけどね!


「やぁ、この時間はまだ涼しくていいですね!」

 今日のおともは乗馬が得意なノエルだよ。

 水田くらいならば危険はないから、孤児院三人組でも大丈夫。

「そうだね。日中は倒れそうになるよね」

「それは坊ちゃんだけですよ! ハハハ!」

 いい笑顔でディスられた。


 僕らの周りを精霊さんたちが自由に飛び回っている。

 セイちゃんはマシロちゃんの前をゆっくり飛んで、疲れると僕の前に戻ってきて座る。

 がんばったというように、額の汗をぬぐって、首に下げた水筒から水を飲んでいるよ。

 僕の視線に気づいたセイちゃんが、笑って水筒を差し出してくれるんだけど、今は自分でお飲みよ。

 セイちゃんはコクコクうなずいて、グーッと水を飲んでいた。

 セイちゃんが持つこの植物園産のマジック水筒は、見かけは普通なんだけど中身は大容量なんだよね。


 開発担当ラビラビさんいわく。

「見ためは普通の水筒ですが、底辺に青色サンゴと水の精霊魔力石を組み込んであります! ほぼ半永久的に新鮮な魔力水(超美味)が湧き出すのです! 水筒口に付属のシャワーヘッドをセットすれば、簡易シャワーに早変わり! さらに火精霊魔力石つきの注ぎ口をセットすれば、お好きな温度のお湯が出ますよ!!」

 だそうだ。


 その横でメエメエさんが器用に算盤を弾いていたっけ。

「売ったらボロ儲けできまッス!!!」

「却下! 普通の水棲魔物の魔力石ならいい!」

 リオル兄が間髪入れずに却下しつつ、改良案を示していた。

 リオル兄もこの水筒は役に立つと思ったらしい。

 早速ラビラビさんがラボに戻っていき、翌日には試作品が出来上がり、リオル兄から農作業員全員に支給された。

「使い勝手を確認してほしい。改良点があれば遠慮なく言っておくれ」

 モニターかな?

 井戸場から遠い畑で作業する農作業員からは好評だそうだよ。

 そのうち売り出すのか、僕は知らないけどね。



 そうこうしていると、水田が見えてきた。

 稲の葉が青々と生い茂っているね。

 風が吹き抜けてゆくと、音を立てて揺れている。

 マシロちゃんから降りてみれば、葉っぱに病害虫も見当たらないし、生育は良好だね。

 グリちゃんも僕の手元をのぞき込んで、「だいじょぶー!」と太鼓判を押してくれた。

 ついでに植物魔法で稲に魔法をかければ、キラキラと葉っぱが輝いていたよ。

「ありがとうね、グリちゃん!」

 グリちゃんはニッパーと笑っていた。

 

 僕の足元ではポコちゃんが土魔法で田んぼの土からガスを排出し、新鮮な空気を含ませてくれている。

「わぁ、ポコちゃんありがとう!」

 ポコちゃんがポンと抱きついてきた!

 負けじとクーさんが水魔法で水を浄化し、フウちゃんが隅々まで風を行き渡らせてくれる。

「じゃあ、ボクは元気に育つように補助魔法をかけてあげるね!」

 ユエちゃんがお月様のステッキを振るうと、水田全体に魔法が行き渡った。

 ピッカちゃんとセイちゃんは、特にやることがなくてしょんぼりしていた。


「みんなありがとうね!」

 全員の頭を順番になでなでして、それからギュッギュとハグをしておく。

 みんなは笑顔でキャッキャと喜んでくれた。

 いつまでも小さくて、無垢な僕の分身たち。

 僕の身長が伸びて、この子たちを抱きしめることが以前よりもずっと簡単になった。

 小さいころはくっつき合って精霊団子になっていたのにね。

 もちろんそれは今でも変わらない。

 みんなで抱きついているとポカポカするよね~。

 夏はちょっと暑いけどさ!

 


 水田のチェックを終え、ミディ農作業部隊の子たちに「よろしくね!」と伝えてお屋敷に戻る途中、何げなく養鶏場を見れば、建物の隙間から外に出たヒヨコさんが複数羽見える。

「ねぇ、あれっていいのかな? 空から鳥に襲われたりしない?」

 気になったのでノエルに声をかけてみれば、彼も眉をひそめていた。

「鶏舎の下に穴でも掘ったんでしょうかね? 親は無理でも雛は通れるかもしれませんね」

 ああ、地鶏さんも穴を掘って脱走するんだっけ?


 ふと見ていると、ヒヨコのあとに大きな地鶏さんまで出てきたよ!

 ビックリする僕の横で、ノエルが叫んだ。

「コッコ地鶏の親が巨大化してるぅーーッ!!!」

 えぇ?

「あれが普通サイズじゃないの?」

「イヤイヤ! 普通の地鶏の二倍……いや、三倍はあるんじゃないですかッ!?」

 ノエルが目を剝いていた。

 ……えぇ?


 僕がノエルから視線を地鶏さんに向けると、雄鶏さんがドシドシと走ってこちらに向かってくるところだった!

「ヤバい、坊ちゃん! 地鶏はただでさえ狂暴なんですけど、あの巨体で襲われたら危険です!! マシロ! 走れ!! 坊ちゃんはマシロにしっかり掴まっていてくださいッ!!」

「わぁ!」

 ノエルの指示と同時に、マシロちゃんが駆け出した!

 マシロちゃんも危険を察知しているみたい。

 僕はセイちゃんを懐に抱え込んで、マシロちゃんの背にしがみついた。

 僕らのあとをノエルも必死についてきている。


 マシロちゃんは一目散で、村の外周を取り囲む防護壁に飛び込んだ!

 眠そうに立っていた門番さんが、駆け込んでくる二頭の馬に驚いていたよ。

 ノエルが門番さんに叫んでいるのが聞こえた。

「養鶏場の地鶏が脱走しています! 一羽雄鶏が農道に飛び出して、追いかけてきていますので、あとはよろしく!!!」

「えええぇぇぇ~~ッ!!!」

 背後で門番さんの悲痛な悲鳴が聞こえてきた。

「マシロは屋敷まで走れ!」

 ノエルの声にマシロちゃんがいなないた!

 わ~ッ! いったい何が起こっているのさッ?



 お屋敷の門にマシロちゃんが飛び込むと、異変を察知した従士たちが走り寄って、マシロちゃんを止めてくれた!

「ドウドウ! 落ち着け、マシロ! 坊ちゃんは無事ですかい!?」

 その声はイザークだね!

「僕は平気! 精霊さんたちは……みんなそろっているね!」

 周囲を振り仰げば、グリちゃんたちも額の汗をぬぐっていた。

 懐のセイちゃんはキャッキャと楽しそうに笑っているよ。

 遅れて戻ってきたノエルが、イザークとケビンと馬屋番のトムに説明をしていた。


「水田の視察帰りに養鶏場をチラッと見たら、鶏舎の下からヒヨコや地鶏が脱走していたんです! 巨大な雄鶏が俺たちを追いかけてきたんで、とりあえず門番に任せてきました! 坊ちゃんの身の安全を優先したので、その後どうなっているかわかりません!」

 ノエルの言葉に三人は眉をしかめつつ、ケビンがノエルの馬に飛び乗って走っていった。

 イザークは念のためと、屋敷の外を見回してから、村へと走ってゆく。

 瞬時に動き出す彼らのその背を、僕らは見送った。


「ご無事で何よりでさぁ。コッコ地鶏は狂暴ですからなぁ……」

 トムがマシロちゃんを引いて、エントランス前まで誘導してくれる。

「えぇ? そんなに危険なの?」

「坊ちゃんは一撃でしょうなぁ……」

 トムが視線を逸らして怖いことを言った。

 えぇ?


 玄関前の階段に横づけしてもらい、大人しく静止しているマシロちゃんから、「よいしょ」と下りてひと息つく。

「ありがとうね」 

 マシロちゃんの鼻先をなでて好物のリンゴを差し出せば、うれしそうに食べていたよ。

 かわいいね、いい子いい子。

 相変わらずな僕の行動を見て、トムとノエルは笑っていた。


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