ラビラビさんの新作魔道具発表会 4 終

 僕が気絶したあとで、みんなは外に出てニャンニャンテントとワンワンテントを開いてみたんだってさ。

 ニャンニャンテントはキジトラモデルで、尻尾がゆらゆら揺れるらしい。

 ワンワンテントは柴犬モデルで、尻尾がくるんとしていて忙しなく動くとか。


「このギミックはいるんですか?」

 メエメエさんがスンとして聞くと、ラビラビさんは力いっぱい肯定したそうだ。

「どちらも特性を生かしました! 敵を察知する能力は抜群です! しかも大事なことに、尻尾があるんですよ! 羊は尻尾がないでしょう!!」

「カーッ! 家畜の羊は尻尾を切り落としますが、野生の羊には尻尾があります!!」

「メエメエさんには尻尾がありません!?」

「ちょびっとですが、ありまぁ~~ッス!? キィーーーーッ!!!」

 ふたりは言葉の応酬のあと、取っ組み合いの喧嘩を始めたんだってさ。

 

 アル様はおもしろがって手をたたき、ジジ様はセコンドをしていたんだって。

 父様は無言で見つめていたとか。

 バートンは面倒な二匹に構っていられないと、僕をお屋敷に運んでくれたみたい。

 ヒューゴは精霊さん七人を、大きな身体にくっつけて運んでくれたそうだよ。


 今回はテントを複数並べるために、運動場を選んだらしいよ。

 ナガレさんの湖畔でもよかったんだけど、オコジョさんとカワウソさんが紛れ込んでくると面倒なので、こっちにしたんだってさ。



 ◆◇◆


 それからしばらくして、しっかり装備を整えたキースと双子が、緊張した面持ちでお屋敷のエントランスに立っていた。

 その横にはジジ様とカルロさんとアル様がいる。

 こっちはリラックスして楽しそうに笑っていたよ。

 で、さらにその横にはなぜかアンジーさんと一緒に、お婆ちゃんが立っているんだよ?

 このお婆ちゃんはキースのお婆ちゃんで、剣豪スキルを持った元上級冒険者さんなのだった。

 孫が修行でダンジョンに行くと知って、自分も行くと駄々をこねたらしい。

 ヒューゴもお母さんには頭が上がらないようで、止めることができなかったんだって。


 お婆ちゃんはものすごい剣幕でお屋敷に乗り込んできて、父様に同行の許可を取っていったんだ。

 そのときはお屋敷中が騒然としたんだよ。

 僕はビックリしてセイちゃんを抱っこしたまま飛び上がったんだから!

 セイちゃんはキャッキャと喜んでいたけどさ!

 キースのお婆ちゃんはそれはもう、本当に凄かったんだ……。


 お婆ちゃんが帰ったあと、父様とビクターがグッタリしていたもん。

 僕はそっと温泉の無料ビール券を十枚づつ手渡したんだ。

 僕って優しいよね!


 頑固一徹で、同行許可をもぎ取ったキースのお婆ちゃん。

 何かあったときのためにと、アンジーさんに同行をお願いすることになったんだよ。

 アンジーさんは中級冒険者の資格を持っていたんだって。

 いつか見た、あの強力な張り手を思い出せば、納得だよね。

 おばあちゃんとアンジーさんはすぐに意気投合していたそうだよ。

「混ぜるな危険!」

 キースが遠い目をして空に向かって全力で叫んでいたのを見たよ。

 キースは何を見たの?


「新作の化粧品はないかしら? それから、酒神様とお話しできたらうれしいわー」

 アンジーさんの要求がエスカレートしてゆくんだよ?

 ルルフルさんに生贄になってもらうしかなかったんだ!

「いいですよー。ただし、無事に帰ってこれたらですねーー!」

 陽キャなルルフルさんはあっさり許可してくれたよ。

 ありがとう、ルルフルさん!

 抱きつきたいけど、今の僕にはまだ無理なんだ⁉

 僕はグッと拳を握って、涙を飲んで耐え忍んだよ!



 脱線したけど、今お屋敷のエントランスでは、アル様から全員にニャンニャンテントとワンワンテントが配られていた。

 アンジーさんとキースのお婆ちゃんは、ニャンニャンテントを受け取って喜んでいた。

 キースと双子はワンワンテントを片手に、遠い目をしている。

「これはテントの魔道具なのだ! 野営のときに使用感を確かめておくれ! 改良点があれば遠慮なく言ってくれたまえ!!」

 アル様はにこにこと楽しそうに手渡していた。

 

「それから、これは装備の中に入れておいてくれ。各種最上級ポーションと薬が入っている」

 小袋巾着をそれぞれに配る。

「それからこっちはおやつセットだぞ!」

 遠足じゃないよね?


 そして、小一時間後。

 旅立つ彼らを見送った。

 ジジ様とお婆ちゃんが競うように走り出し、そのあとをアンジーさんとカルロさんが涼しい顔で軽快に追いかける。

 キースと双子は慌ててついてゆき、しんがりのアルじーじはスキップしていた。

 そのあとに続くのは、なぜかミディ部隊!


「ええ! ミディちゃんたちは魔物に触れると危険なんでしょ!? ダンジョンなんかに行ったら危ないよッ!!」

 メエメエさんを締め上げて叫べば、「グエッ」っと呻いていた。

「放してください! 心配には及びません! 今回行くのはラグナードの南にある、初級ダンジョンなのでしょう? ミディ部隊には青色サンゴのネックレスを装備させています! 防御と浄化の術式を織り込んだポンチョを支給しました! 属性パワーも大幅アップする優れものです! ドラゴンにも負けませんよ!!!」

 メエメエさんがウッキウキで叫ぶ横で、ラビラビさんがつぶやいた。


「ほら、ルシア様が買った布を覚えていますか? 機織り妖精が織った布に、特別な刺繍を施して外套代わりにすると言っていた、あの布からヒントを得て、強化ポンチョを開発したんですよ! 現在フル生産中ですので、全員に行き渡らせますよ~~♪」

 そう言って、ラビラビさんも軽やかに走っていってしまったよ。


 僕の植物園の精霊さんたちは、好き勝手にがんばり過ぎ!!



***


 ラグナードには最上級ダンジョン二つのほかに、実は初級・中級ダンジョンがいくつかあったという裏話。

 最上級ダンジョンの名前が有名過ぎて、話題に上らないダンジョン。

 ジジ様にとっては手応えがないダンジョンので、すっかり存在を忘れていたみたいです。

 今ごろ明らかになる、正直どうでもいい裏設定でした。

 というか、今回思いついたともいいます(;´▽`A``

 設定は、あとから増えるものなのです。


 果たしてキースと双子は、初級ダンジョンひとつで帰ってこれるのか?

 作者にもわかりません。

 癖強な剣豪お婆ちゃんとアンジーさんが何をしでかすか、ちょっと興味がありますね(笑)


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