ラビラビさんの新作魔道具発表会 3

 話は脱線しちゃったけれど。

 妖精界のマジックアイテムを、ラビラビさんが改造して作り上げたのが、今僕の手の中にある球状の魔道具なんだよね。

「そうです! 握りやすい形状かつ小型化を目指しました! 以前は元の魔道具同様に、一度開くと自動で戻せませんでしたが、格納のギミックを追加することに成功したんです! そのスイッチがモフモフ尻尾になります!!」

 手の平に拾い上げてみれば、フカフカ丸い尻尾の触り心地がいいよ!


「だったらこの耳はなんのため?」

「よくぞ聞いてくださいました! その耳の内部に結界魔法陣を組み込んだのです! 青色サンゴを魔法陣の刻印に使用したので、小さくても直径十メーテ区間を守ります!!」

 意気揚々叫ぶラビラビさんのテンションが爆上がりだ。

「ちなみに結界陣はアルシェリード様とリオル様の合作です!!」

 アル様は腕を組んで得意そうにしていた。

 研究者さんと探究者さんは似た者同士だね。

 仕草が同じだよ!


「この素晴らしく素敵な魔道具の名は『ポイッと簡単ウサテント君!』です~~ッ!!」

 ラビラビさんは天高く飛び上がって消えた。

 僕らは無言でラビラビさんの飛んで行く軌跡を見送ったよ。

 あのメエメエさんのスンとした目を見てよ。

 普段はラビラビさんにあの目で見られているのにねぇ。


 そこでメエメエさんは絶叫した!

「ウサテント君があるなら、羊テントちゃんがあってもいいと思います!!!」

 自分のアイテムがなかったことが不満なようだった――――。

「う~ん。白いペコラちゃんテントならありじゃない?」

 僕が提案すると、メエメエさんがキッと振り返ってモフモフアタックを食らわせてきたよ!

 やめてよ!

 父様とヒューゴは苦笑し、バートンは額を押さえていた。


 ラビラビさんが高速で落ちてきた。

 シュタッと着地を決めている。

「すみません。取り乱しました」

 みんなにペコリンコしていた。


「気を取り直して。――――ハク様、もう一度ポイッと放ってください」

「いいよ~」

 はい、ポイッと。

『ポイッと簡単ウサテント君!』が開いた。

 さっきはあまりよく見ていなかったけれど、テントの上部に生えたウサ耳が動いて、周囲に結界魔法陣を展開しているよ!

「おお、ウサギさんの動きが再現されているよ!」

「そうなんです! 自然な動きに苦心しました!!」

 ラビラビさんはギュッと拳を握って力説した。

 んん?

 もしかして、そっちのギミックに尽力していたの?


 見つめ合う僕らを無視して、ジジ様と父様がテントの中に入っていった。

 カルロさんとヒューゴも続く。

 わぁ、おいてきぼりにされちゃった!

 僕も慌ててテントに飛び込んだよ。

 続けとばかりにグリちゃんたちもゾロゾロ入ってくる。

 大人数で窮屈かと思ったら、全然そんなことはなかった。

 最初に見せてもらったときよりも、ずっとテント内が拡張されていたんだ⁉


 身長が一番高いヒューゴでも余裕があって、体格のいいジジ様や父様たちがいても暑苦しくない!(失礼!)

 細身のアル様とバートンと僕はもちろん問題なく、ちびっこのグリちゃんたち七人+白兎と黒羊がいても余裕があるよ!

「わぁ、ずいぶん広くなったね!」

「この『ポイッと簡単ウサテント君!』が一番大きなメインテントになります。ニャンニャンテントとワンワンテントは二~三人用の小型テントで、予備テントとして個別に所持してもらおうと考えています!」

 ラビラビさんの力説に、ジジ様とカルロさんと、父様とヒューゴがキョトンとしていた。

 ラビラビさんの言わんとすることがわかる、僕とバートンは無言になった。

 もちろん、その理由を知っているアル様は満面の笑みを浮かべているね。


「このテントを持って、ダンジョンに行くのデエェーースッ!!!!!」

 デスに聞こえるのは気のせいかな?

 ヤバくない?


 その後、ラビラビさんは全員に、テント内から植物園に転移門をつなぐことを伝えた。

 ジジ様と父様の目がマジになった。

 ビューゴは目を細めつつ、首をかしげていたよ。

 そうだよね。

 岩塩採掘場のダンジョンの件は従士たちに伝えていないもん。

 なのに、今日の発表会にうっかりヒューゴを誘ちゃったもんね!

 パパンが。


「転移門をつなぐこと自体は難しくありません。問題は異なる異空間であるダンジョンに影響を受けないかということなのです。いずれ、どこかのダンジョンで実証実験をする必要があります」

 ラビラビさんは腕を組んで難しい顔をしながら、ひとりでうなずいていたよ。

 もはや周りはどうでもよさそうだ。


 みんなに視線を巡らせてみれば、やっぱりジジ様とアル様がピッカピカの笑顔になっている。

 当然のように、じーさんズが声を上げた。

「それならラグナードのダンジョンで試してみればいい!」

「そうだね! 私も久しぶりにダンジョンに潜って、感を取り戻そうかね!」

 ふたりはメッチャやる気になっていたよ。

 父様はちょっと羨ましそうに見ているね。


 そんなとき、手を挙げたのはヒューゴだった。

「詳しい事情は伺っておりませんが、もしもラグナードのダンジョンに潜られるならば、キースと双子をご同行いただけませんか?」

 え?

 僕はキョトンとしてヒューゴの顔を見た。

 父様もバートンも虚を突かれた顔をしている。

 全員を見回して、ヒューゴはしっかり頭を下げた。


「ラドクリフ領が変わって十年。――ルーク村周辺に強い魔物が減っております。最近従士になったキースと双子は、本気の命のやり取りを経験しておりません。もちろん、ルーク村が平和であることは喜ばしいことですが、いざというときに怖気づいて立ち向かえなければ、従士の役目を果たすことはできないでしょう。――いずれ私もケビンも引退するときが来ます。我々が健在なうちに、若い従士に本当の戦いを経験させたいのです!!」


 ヒューゴは強い意思を持って進言した。

「あと、私もラビラビさんが言うほうの、ダンジョンアタックに参加したいです!」

 キリリ眉毛で、自分の希望もハッキリ伝えていた⁉


 僕は忘れていた。

 我が家の家人はみんな脳筋!

 メエメエさんも横に膝を折って座り、うんうんとうなずいていたよ。

 ちなみにグリちゃんたちは、テントの床の上で丸まってお昼寝をしていた。

 話が長いので、飽きたんだと思う…………。



 ジジ様が爆発するように笑い出した!

「よく言った!!! お前が懸念するのはもっともなことだ! 真の戦いを知らずして、主のために命を賭すことはできまい! よし、ラグナードの最上級ダンジョンに連れていくかッ!!!!!」

「最初は難易度低めにしてあげて!!!」

 咄嗟に僕はジジ様に縋りついたよ!

 父様とバートンも止めてくれた。

 ヒューゴは失敗したかなといった顔で、小さく頭をかいていたよ。

 

 みんな、最初から危険な場所に飛び込もうとするのはやめてね!


「ハクも一緒に行くかい?」

 なんともなしにアル様が聞いてきた!


「無理無理無理無理無理ーーッ!!!」

 僕はグリちゃんたちの横に倒れて気絶したよ!

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