ラビラビさんの新作魔道具発表会 2

「遅れて申し訳ありません」

 父様が頭を下げると、ラビラビさんは鼻をフンと鳴らしていた。

「まぁいいです! 早速始めますよ!」

 ラビラビさんは踏ん反り返って、大きな声で叫んだ。


「本日お集りいただいたのは、新作魔道具の発表会です!」

 そう言ってラビラビさんが取り出したのは、いつか見た球状の魔道具だった。

「それって簡単テントの魔道具だっけ? 開くのはいいけど、畳むのは面倒なヤツ」

 僕の言葉にラビラビさんが片眉を上げた。

 何げに器用だね。

「そうです。例の魔道具に改良を加えましたので、ご覧ください」


 ラビラビさんが目の前に掲げた球状の魔道具には、ウサ耳とウサ尻尾がついていた。

「モデル・ウサウサテントです! ほかにもニャンニャンとワンワンモデルがあります! ただし羊はありません⁉」

「仲間外れにされました! ひどいデッス!!」

 メエメエさんが叫んだよ。

 それはどうでもよくない?


 ラビラビさんはメエメエさんをまるっと無視して、手にした魔道具をポイッと地面に放った。

 それは以前見たように、地面にぶつかった瞬間に弾けて、大きなテントに変ったんだけど、前回と違うのはテントの上部に大きなウサ耳がついていること。

 テッテコ走って背面に回ってみれば、丸いウサ尻尾がついていたよ!

 ラビラビさんは腰に手を当て、満足そうにうなずいていた。

 大人たちは特にリアクションはないね。

 アル様は普通に手をたたいて喜んでいたけれど。


 ラビラビさんはコホンと咳払いをした。

「ハク様、背後に回ったついでに、ウサ尻尾を引っ張ってみてください」

「うん? これを引っ張るの?」

 ウサ尻尾はフカフカモフモフだったよ。

 それをちょっと引っ張ると、尻尾の先についた紐が十センテくらい伸びて、カチッと音がしたと思ったら、瞬く間にしぼんで元の球状の魔道具に戻ったんだ!

「わぁ! 元に戻ったよ!」

 驚いて叫んじゃった!

「おお⁉」

「これは凄い!」

 ジジ様と父様も口々に感嘆の声を上げた!

 あの大きなテントが一瞬で畳めるなんて、画期的な発明じゃない?

 その反応を見て、ラビラビさんは満足そうに笑っていた。


 早速ラビラビさんが説明を始める。

「ダルタちゃんが妖精界から持ってきた魔道具の中に、大きな荷物を小さくして運ぶ魔道具があったんですよ。それがこちらです」

 ラビラビさんが取り出したのは、立方体を展開図にしたような金属のプレートだった。

 展開図を組み立てたときに、内側の底面になるプレートに魔法陣が刻まれているね。

 ひっくり返してみると、天面にも魔法陣がある。


「これはマジックバッグのように荷物を入れることができます。ただし容量は小さく、時間停止機能はありません」

 試しにと、ラビラビさんが自分のマジックポーチから謎の物体を取り出して、底面のプレートに描かれた魔法陣の上に置いた。

 すると荷物が渦を巻いて吸い込まれ、展開図が勝手に動いて立方体になったんだ!

 地面に転がる四角い箱を、父様たちも興味津々で眺めていた。


「ダルタちゃんのお話では、これはマジックバッグの廉価品れんかひんで、妖精界では格安で販売されているのだそうです。マジックバッグを入手できない者が使うのだとか」

「ほう、そんなに簡単に買えるのかい?」

 父様が驚いて声を上げた。

 ラビラビさんはコクリとうなずいている。


「こちらの魔道具の容量は、およそ二メーテ四方ですが、性能は魔道具のレベルに比例するそうです。ちょっとした家具の運搬や、大きな買い物をしたときに使うのだそうですよ。小人妖精ならば引っ越しに使えますね」

 ほうほう。

 単身者用の引っ越しパックが思い浮かんだ。

 普通に考えれば、マジックバッグを持てない人のほうが多いんだもんね。


 この魔道具が安価なのは、一回ポッキリしか使用できないからなのだそうだ。

 使い終わったら魔道具店に持っていき、パーツを買い取ってもらえば、購入時の半額が戻ってくるそうだ。

 荷運びに人を雇うよりも格安で運搬できるので、人気のアイテムなんだってさ。

 魔道具店では買い戻した部品に、新たに魔法陣を刻んで再販売する。

 何げにリサイクルが進んでいるんだね。



 あらためて見てみれば、箱型になった魔道具の上面にも魔法陣が刻まれている。

「内側の魔法陣には『格納』の魔法が刻まれています。外側のこの魔法陣は『展開』の魔法ですね。格納した人間の魔力が登録されているので、同一人物がここに魔力を流すと開くことができるんです」

 実際にラビラビさんが魔力を流すと、再び開いて荷物が飛び出した!

「わぁ、おもしろいね! 確かに引っ越しのときは役に立ちそうだよ」

 僕は手をたたいて喜んだ。

 欲しいとは思わないけど、便利そうではあるよね?


「ところが、一見うまくできているように見えますが、途中でうっかり触って魔力を流してしまうと、勝手に開いて大変なことになるそうですよ。使い方を知らない者が、道の真ん中で荷物をぶちまけるなんて事件が、たまにあるのだとか」

 そう言ってラビラビさんはニヨニヨと笑った。

 むむ、それを考えると決して使い勝手がいいとはいえないのかな?


「それなら魔力遮断の袋に入れて運べば問題ないだろうさ」

 アル様が腕を組んで笑っていた。

「そんな袋があるの?」

 不思議に思って聞けば、カルロさんが背負袋の中から取り出して見せてくれた。

 巾着のような形をした革製の袋だったよ。

「こちらは魔法が効かない魔物の革を使用して作られています。外側は魔力を遮断しますが、内側には魔力を帯びた素材を入れることができるのです。こちらはマジックバッグを持てない下級冒険者などが、魔物の素材を持ち帰るのに使ったりします」

 ほうほう。

 僕が首をかしげていると、父様が補足してくれた。


「マジックバッグがなければ、倒した魔物の素材を全部持ち帰ることはできないだろう?一番価値のある魔石と、あとは希少部位だけを持ち帰るんだ。あの袋の中に入れておけば、希少部位や薬草などの魔力が漏れずに済む」

「へぇ、便利な袋だね。それって、下級冒険者さんでも簡単に手に入れることができる魔物なの?」

 父様は困ったように笑った。

「沼地の魔物で大ガマゲルルの皮だ」

 ゲゲッ!

 カエルの魔物といえば、ウォーター・リーパーを思い出して、ゾワゾワと鳥肌が立ったよ!

 カルロさんが手にした袋を、いきなり僕のほうへ放った!

「ピャッ⁉」

 飛び上がった僕を見て、アル様とジジ様は大笑いしていたよ。

 ひどい!

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