小話集2 2話

 ●コショウのお話


 ある日、コショウの生産を依頼された精霊さんたちは考えた。

 ハク様から指定されたのは、完熟した実を乾燥させること。

 言われたとおりに、天日干し乾燥させた赤い実は、赤い皮がついたままだった。


 ハク様のイメージするコショウと、なんか違うよね?


 首をひねった精霊さんたちは、今度は未完熟の緑の実を天日干し乾燥させてみた。

 今度は黒いコショウができて、ハク様の記憶のコショウに近づいた!

 精霊さんたちは大喜びして、たくさんの黒・赤コショウを生産した。


 けれどもうひとつ、白いコショウの作り方がわからない。

 そこで、研究が大好きな大精霊ラビラビさんに相談してみることにした。


「白いコショウですか?」


 ラビラビさんはすでにある赤と黒の製造法を確認して考え込んだ。

 ハク様の記憶のレコードを探っても、作り方なんて出てこない。

 まぁ、一般人がスパイスの加工法まで熟知しているわけがないよね。

 となると、まったく違う加工方法が存在するのだ!


 探究心に火がついたラビラビさんは、スパイス職人の精霊さんたちと研究を始めた。

 未熟な緑の実を、そのまま加工することを思いつく。

 それを茹でて塩蔵してみると、緑の実は青コショウになった。ちなみに生のまま風魔法で急速乾燥させてもできた。


 今度は完熟した赤い実を、水に浸して発酵させ、外皮を柔らかくしてから種を取り出した。

 核のみのなったものを乾燥させると、ようやく白コショウができあがった!


 ラビラビさんと精霊さんたちは、万歳三唱をして喜んだ!


 のほほん族のハクが知らないところで、精霊さんたちは大変な努力していたのだ。

 四種のコショウができたことで、今後はお料理の幅が広がっていくかもしれない。


 だけど、ラビラビさんとスパイス担当の精霊さんたちは考えた。


「とりあえず、こんなに種類はいらないよね?」


 結果、簡単な黒コショウを多めに生産し、面倒な白コショウはたまに作ろうということでお話はまとまったようだ。

 スパイス担当の精霊さんたちは、晴れやかな笑顔で持ち場に戻っていった。


 こうして、精霊さんたちの涙ぐましい努力によって、今日も植物園は回っていくのであった。


「次はどんな難題を押しつけられるのだろう?」


 内心ドキドキしているみたいだよ?


***補足***

 

 コショウについて、改めて確認しました。

 コショウには黒白青(グリーン)赤があり、赤(ピンク)はコショウ以外の植物からも採れるようです。

 ちなみに完熟した実が赤くなる確率は低いようで、赤コショウは貴重品とされるようです。


 黒コショウは緑の果実を天日干すると、酵素の働きで皮が黒くなるとか。

 黒コショウと白コショウは製造方法が違うようです。




●ルーク村の森の精


 最近になって盗賊団が街道に現れていると、噂が飛び込んできた。

 父様は従士たちと一緒に、カミーユ村からの街道沿いを巡回しているようだよ。

 今は街道の整備を進めているところだから、作業員さんたちの安全を守る必要があるよね。


 僕が心配していると、メエメエさんがあっさりと言った。

「大丈夫じゃないですか。街道上では数十人が作業していますし、金品を持ち歩いているわけではないですからね。うっかり大森林に隠れたら魔物の餌食ですよ~」

 のん気にお茶を飲みながら言うセリフかな?

「防護壁の外にはキラピー族もいますから、ちょっとやそっとじゃルーク村には近づけませんよ」

 メエメエさんの言葉にバートンもうなずいていた。

「だといいんだけれど……」


 なんてお話をしていた数日後、カミーユ村とコラール村のあいだで、盗賊の一団がラグナード騎士団によって捕縛されたと連絡が入った。

 あっさり解決して良かったな~と、僕たちはのん気にお話していた。

「だが、残党が残っている可能性があるから、もうしばらく巡回の回数は増やすことにする」

 父様がキリリとカッコイイお顔で言った。

 パパン、カッコいい!

「がんばってください!」

 僕も力強く応援したよ!



 深夜の大森林の中。

 紛れ込んだ人影が三つ、下草をかき分けながらコソコソと進んでいく。

 臆病そうなひとりが、ビクビクしながら先をゆく男に声をかけた。

「どうするんだ、兄貴! この先は辺境の貧乏村しかねぇぞ! 森に隠れるにしても、この森じゃ魔物がウジャウジャいやがる!! 早く南の方へ移動しようぜ?!」

 騒ぎ立てる臆病者にイラついたのか、兄貴と呼ばれた毛むくじゃらの大男が叫んだ。

「でかい声を出すな! それこそ魔物を呼び寄せちまう! この辺をよく見て見ろ、魔除草が点在しているから、大型魔獣は出てこねぇさ?!」

 最後に痩せた小柄な男が推し殺した声でつぶやく。

「ふたりとも声を押さえてくだせぇ。こっちの気配が知られちまうし、こっちも察知ができねぇッ!」

 大男は舌打ちをして臆病者をどついていた。


 三人は悪態をつきながら夜の大森林を進んでいくが、段々と方向感覚が失われてゆく。

 木々のあいだからこぼれる、わずかな月明かりだけを頼りに森の中を行けども、見渡す限りの木々と草しかない。

 時折聞こえる葉擦れの音や獣の鳴き声に、ビクビクしながら進むしかない。


 その時三人の背後でガサリと大きな音がして、咄嗟に振り返った!

 三人は身動きを止めて身を屈め、周囲を伺う。

 気配察知能力を持つ小柄な男が周囲を注視するが、そこに動く影は見当たらなかった。

 自分の鼓動の音だけが、やけに大きく聞こえていた。

 木々のあいだに低木がいくつも並んでいるだけだ。

「なんだよ、驚かせやがって! おおかたネズミかなんかだろう?」

 三人はホッと息をついて、また足を進めて行く。


 三人が草をかき分けるガサガサという音に、周囲の草葉も揺れ動く。

 妙に生温い風が吹き抜けていった。

 森の獣や魔獣に怯え、緊張しながら森をかき分けていく中で、臆病者の緊張感がピークに達し、徐々に恐怖を覚え始めていた。

「あ、あにきぃ……。俺の後ろになんかいる気がしやす……」

「うっせーなぁ! 気のせいだって、言ってるだろうがッ!」

「シィッ!!」

 小柄な男が臆病者の背後に視線を走らせる。

 魔物や動物の気配は無い。

 在るのは大木あいだを埋めるように低木がひしめいているだけ。


 うん?

 さっきまで、こんなに低木があったか?

 小柄な男がハッとして視線を前方の戻した時。

 目の前の木の魔物が立ちはだかっていた!!

「ああ! キラープラントの亜種かッ!!!」

 その言葉にパニックを起こす臆病者と、武器を構える大男。


 三人が気づいた時には、周囲をぐるりと木の魔物に取り囲まれていた?!

 その木の魔物たちが一斉にツタを放って襲いかかる!

「ぎゃああぁぁぁぁ――――ッッッ!!!」

 森の中に汚い悲鳴が響き渡っていた。



 翌日早朝。

 ルーク村を囲む外周の防護壁の前に、ツタでグルグル巻きにされたむさ苦しい男が三人転がっていた。

 当番の門番が自警団を呼びに行けば、詰所から数人が走ってやってきた。

「このあいだ捕縛された盗賊団の残党だな?! この近くまで来ていたのか!! だれか領主様に連絡しろ!」

 団長が叫べば、若い男が急いで走っていった。

「それにしても、馬鹿な奴らだな……。この森の周辺には木の精霊が住んでいるのに」

 

 簀巻きにされた三人の身体には、ご丁寧に魔除草が括りつけてあった。

 これなら夜中に魔物に襲われる心配がない。

 森の精霊は大変親切だった。


 ついでのように、街道の外れにこれまた簀巻きにされた魔熊の死体が転がっていた。強力なツタで滅多打ちにされたようだった。

「こりゃまた、でかいのが出たな……。近辺の調査が必要そうだな……」

 森の精霊が人間には寛容で、魔物には容赦が無いのは村では有名な話だった。

 自警団の団長は盗賊はほったらかしで、魔熊の方を心配していた。


 しばらくするとお屋敷から従士ケビンが走ってきた。

「おお! 馬鹿な奴らだな! とりあえず、こいつらは森のその辺にでも転がしておくか? そっちの方が遥かに恐ろしいだろうからなぁ」

 ケビンがニヤニヤと悪い笑みを浮かべて言った。

「ああ、護送の準備ができるまで、その辺の木に縛り上げておくか……。魔除草があっても、たまに角ウサギが飛んで出るから気をつけろよ?」

 団長も結構ひどいことを言っている。

 顔中にミミズ腫れをつけた盗賊たちは、涙目で震え上がっていた。


「あっちの魔熊はどうする?」

 団長が顎で示せば、ケビンが駆け寄って検分する。

「ああ、キラピー族に打ちのめされたんだなぁ? こいつも馬鹿だなぁ。村で分配していいぞ。魔石だけあとで屋敷に届けてくれ。俺から旦那様に報告しておく。あと、キラピー族に会ったらお礼を言っといてくれよ! 村の大事な守り神だからな!!」

「相わかった」

 団長さんほか自警団員はしっかりとうなずいていた。

 キラピー族の村での認知度はメッチャ高いのだ!

 

 そのあと盗賊たちは木に括りりつけられて、街道作業員たちに笑い者にされていたらしい。



 そのころのキラピー族は、持ち場に戻って日光浴をしていた。

 朝日を浴びてパワーを充填し、今日もせっせと魔除草のお手入れをする。

 しばらくするとマジカルポシェットの中に新しい虫除け液が届いていたので、全身にシュッシュッと振りかけて、ご機嫌な様子だったとか。


 ルーク村は今日も平和だよね。






 

 

 

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