その他おまけの小話集

小話集1 3話 

 ●ラーメン小話


 ある日のこと。

 ハクがメエメエさんに聞いてきた。

「メエメエさん、メエメエさん。ほかのラーメンも作れるかな?」

「ほかのラーメンとは?」

 無表情のまま淡々と聞き返すメエメエさん。


 ちょっとうえを見上げて、なにかを思い出すような素振りのハク。

「う~ん、今あるラーメンって、一般的なラーメンなんだよね。前世ではその土地のラーメンがあったはずなの」

 メエメエさんは合点がいったように、蹄をポンと合わせる。

「あれですか? 北の味噌ラーメンから、西のトンコツラーメンなど、さまざまに進化を遂げたご当地ラーメン」


 ハクはパァッと明るい表情になって、大きくうなずいた。

「あー、それそれ! 魚介スープは無理でも、川エビとか活用して、いろいろ作れないかな?」

 内心で、無茶言うなーと思いながらも、メエメエさんは了承する。

「まぁ、試作してみますが……」

「おぉ! お願いね!」

 頭にお花が咲いたような満面の笑顔で、ルンタカタッタタ~と駆けていく、ハクの背中を見送ったメエメエさん。


 だれもいなくなったところで、一言つぶやいた。


「あなた、そんなにラーメン通じゃなかったですよね?」

 ハク坊の前世の記憶には、一般的なラーメンの知識しかなかった……。


 オーソドックスな醤油チャーシューメン。

 寒い日のネギ味噌ラーメン。

 あっさり塩味の野菜タンメン。

 たまに辛口タンタンメン。


 あとは……、インスタント麺やカップ麺多数。


 メエメエさんは、ひっそりとため息をついていた。

「カップメンを参考に、適当に試作するしかないですね。テキトーに」

 ふと、メエメエさんの目が怪しく光った。


「謎肉はなにで作りましょうか……ふふふふふ」



*****


 ●ラビラビさんのお部屋


 ラビラビさんのお部屋は、植物園内の研究棟にある。

 扉の前には『ラビラビさんのお部屋』というプレートが掲げられていた。

 扉を開けるとそこは、研究棟には似つかわしくないような、かわいらしいお部屋だった。


 大きな木の中にいるような雰囲気の、小さなお部屋。

 かわいいチェストとクローゼットに、かわいい本棚に机と椅子。

 小さな天蓋つきのベッドの枕元には、動物のぬいぐるみとクッションが置かれていた。

 丸窓には優しいオレンジのカーテンがかかっていて、足元にはふわふわの丸いジュータン。

 壁に飾られた絵画やオーナメントもかわいいものばかり。

 チェストや机のうえの小物も愛らしい。

 すべてが丸っこく、パステルカラーの『かわいい』であふれていた。


 それは、ラビラビさんのイメージとは真逆のお部屋だった……。


 たまたまのぞき見てしまったメエメエさんは、そっと扉を閉めて、念の為扉を拭いておいた。

 証拠隠滅。

 ふきふきふき。

 指紋(?)や痕跡を残してはいけないと、メエメエさんは本能的に思った。


 世界はいまだに、知らないことが多い。

 メエメエさんは、知らなくてよいこともあるのだと悟った。



 その後。

 あっさりラビラビさんにバレて、頭をガジガジとかじられたメエメエさん。

 大事な毛が毟られて、円形ハゲができてしまった。


 メエメエさんはラビラビ・センサーをなめていた。



*****


 ●お魚の名前が気になる


 ちょっと疑問に思ったんだけどさ。

 お魚さんの名前が気になるんだよね。


「メエメエさん、メエメエさん。お魚さんの名前って、前世の呼び方と同じものと、違うものがあるよね?」

 割烹着姿のメエメエさんが、アジやイカを干す作業の手を止めてこっちを見た。

「今ごろですか?」

「だってほら、お魚料理ってそんなに食べないでしょ? ここって内陸の奥地だし」

 僕が首を傾げて言えば、メエメエさんはため息をついた。


「そこにお座りなさい」

 ウオマル海の浜辺の干物小屋で、僕はなぜか正座をさせられた。

 まぁ、砂浜だから痛くは無いので素直に正座すると、僕の前にメエメエさんも正座した。

 割烹着姿のメエメエさんに叱られる、子どもの図に見えるのは気のせいかな?


「そうですね。アサリンやマテテ貝など、浜辺の魚介はちょっと違いますね。ですが海洋のお魚は似たり寄ったりです」


 正確には、ホタテは青色ホタテで、殻が真っ青だそうだ。

 イカはマジイカとか、スルメルイカなど種類があって、まとめてイカと言っているらしい。

「今干しているアジは、目が大きいのでデカメアジです。前世のマアジより一回り大きいでしょう」

 なるほど、良く見れば、サイズが大きくてお目目が大きいね。

 身体に青い線が入っているよ。


「その辺の岩場にいる小さなカニはカニニで、海の底にいるカニはズイワイガニなど、微妙に違います」

 ほうほう。

「ですからザックリまとめて、カニと言っても問題は無いです」

 なるほどねぇ。



「じゃあさ、川魚はどうなの? アユユしか見たことは無いけれど、以前バートンが、イワナ、アマゴ、ヤマメ、ニジマスがレムル川にいるって言っていたよね?」

「レムル川上流の奇麗な淡水にいるので、正式にはレムルイワナやスウォレムイワナなどと呼ばれます。地域に寄って若干色や大きさが違うようですよ。レムル川の淡水魚は青みを帯びている種が多いです。ほかの川では緑がかっていたりするようです。その辺はアルシェリード様にお聞きするとよいでしょう」

 ほうほう。

 アルじーじは世界を旅して回っているから、いろいろ詳しいかな?

 でも待って。

 アルじーじは自分が興味無いことには、意外と適当なところがあるよね?

 陸稲おかぼを知らなかったりさ。


 チラリとメエメエさんを見れば、腕を組んで首を傾げていた。

「すべてをつまびらかにすることは、この文明では無理だと思いますよ。アルシェリード様が覚えていなくても、あの手書きの地図の束には、その地域の情報が事細かく書かれていましたから、あれはこの世界を知る貴重な資料になると思います」

 確かに、あの地図の束はすごかったよね。

 イラストつきでいろいろ書き込まれていたもんね!


 膝を折っているのが辛くなってきたので、僕は足を伸ばしてみた。

 メエメエさんも正座を止めた。


「さて、アユユでしたか? アユユは広く清流の下流域にも棲息しますので、まとめてアユユと呼ばれます。河川の汚染などは無い世界ですから、広く分布している川魚と思ってよいです」

 確かに汚れた水を川に流すことは無いから、水質汚染は無いかな?

 浄化魔法やゴミ処理スライムがいるから、街に汚物が落ちているなんてこともないしね。


「植物園で育てるにあたっては、藻を食べるアユユと川エビを選択しました。ちなみに川エビはレムル川エビと呼ばれ、真っ青な殻の色が珍しい個体になります。藻のほかに水中のゴミをすべて食べてくれるので、植物園内の川と湖の水はとても奇麗です」

 川エビさんは優秀なお掃除屋さんだね!


「まぁ、ウオマル海の浜辺にはアサリンとマテテ貝、岩場にはカニニくらいしかいませんので、多少の言い間違いがあっても、だれも気にしませんよ」

 メエメエさんは、最後は適当に締めくくった。

 そんなものなの?

「そんなものです」

 メエメエさんに言いくるめられる僕。



 メエメエさんは砂を払って立ち上がる。

「作業を再開しますので、私に浄化魔法をかけてください」

「うん。作業の邪魔をしてごめんね」

 僕らの横では中級精霊さんたちがせっせと働いていた。

 みんなはがんばり屋さんだね。

 その場にいる全員に、浄化魔法をかけて、ついでに魔力もお裾分けしておいた。

 みんなは満面の笑顔で、張り切って作業していたよ。


 メエメエさんはメエメエさんで、イカの一夜干し作りをがんばっていた。

 作業を眺めていたら、メエメエさんがグリンと振り返って言った。

「これは私の分です。あげませんよ!」

 自分のためのものだった。


 ああ、うん。

 イカが好きなんだもんね。

 とらないから安心してね……。


 メエメエさんは自分の欲望のためなら、努力を惜しまない羊だった。

 まぁ、割烹着を用意しているあたり、意気込みが感じられるよね。


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