クロちゃんシロちゃんパトロール

 クロちゃんシロちゃんの朝は遅い。

 離れの門の上で、へそ天で寝ていることも多く、通りかかったトムや孤児院三人組に挨拶されても知らんふり。

 時々しっぽを揺らして返事をすることもあるみたい。

 トムたちも慣れたもので、気にせず作業を続けている。


 お日様が昇ってポカポカしてくると、ようやくのそりと動き出す。

 ご飯は食べなくてもよいのだけれど、食べてもまったく問題ない。

 むしろご飯は食べておきたい!


 ニャンコズは離れのドアを爪でカリカリしてみる。

 しばらくするとメエメエさんが、扉を開けて招き入れてくれた。

 あとは毛繕いをしながら大人しく待っていれば、おいしいご飯にありつけるのだ。


「今日はお魚てんこ盛りのねこまんまです。デザートは練乳かけラドベリーです」

 メエメエさんがご飯とお水の入った器を置いていった。

 ねこまんまの上には、大きな焼き魚とオカカが載っていた!

 ニャンコズは喜んでハグハグと食べ始める。


 食事が終わると、ゴロリと一休み。

 しばらくしてから扉を開けてもらい、外に飛び出していく。

 離れのお庭をうろうろしてから、また門の上に飛び乗って、ようやくパトロールに出発だ!

 バラのトゲトゲを器用に避けて、飛び跳ねるように進んでいく。

 途中でミツバチさんに出会えば挨拶し、空を飛ぶ鳥に気づいて見上げた。

 なんだ、ただの野鳥だった。

 

 ニャンコズは半周して出会う。

「何もないニャ」

「こっちもニャ」

 狭い塀の上で器用にすれ違うと、進行方向に向かってトコトコ歩き出す。

 そのまま一周して門まで戻ってくれば、今日のパトロールは終わり。

 

 グーンと伸びをして、門柱の上で丸くなる。

「今日もいっぱい働いたニャ」

「そうニャ。お昼まで眠るニャ」

 二匹のニャンコはグーグー眠り出した。


 その下を白銀の長い髪がトコトコと通り過ぎていった。

 老齢の執事があとに続いてゆく。

「クロちゃんシロちゃん、ごきげんよう」

 老執事はいつでもきちんと挨拶をしてくれる。

 ニャンコズは薄目を開けて、しっぽを揺らしただけだった。


 それがいつもの光景。

 ニャンコズの緩~いパトロールは、午後にもう一度繰り返される。



 *****


 ミツバチさんは働きもの


 ラドクリフ家の離れのお庭には、真冬以外はお花が咲き乱れている。

 豪華な大輪も良いけれど、ミツバチさんのお好みは小さな草花みたい。

 初夏を彩る花々を渡り、今日もせっせと蜜を集める。


 木陰に設えた養蜂箱が彼らのお家だ。

 午前中はポカポカの陽光が当たり、午後の西日は届かない。

 外敵に襲われることもないこのお庭は、ミツバチさんにはうれしい環境だった。


 今日は仲間と離れのお庭を飛び出して、大きなバラ園に採取に行こう!

 バラ園にはほかにも季節のお花が咲き乱れているよ!

 たくさんの蜜を集めて、お花の受粉も手伝ってあげるのだ。


 小さなイモムシを見つけたので、ポイっと葉から転がしてみた。

 通りすがりのアシナガバチさんが、イモムシを捕まえていった。

 このお庭ではアシナガバチさんに襲われる心配がないので、ミツバチさんも安心して蜜集めができるよ。

 アシナガバチさんも悪さをすると、精霊さんたちに追い出されてしまうのだ。

 だけどイモムシを捕ることは許されているので、ここはアシナガバチさんにとっても暮らしやすいお庭だった。


 ミツバチさんは帰り道でクマバチさんに出会う。

 大きなクマバチさんもお庭に蜜を採取に来ているのだ。

 お互いに素知らぬ顔ですれ違って、ミツバチさんは離れのお家に戻ってきた。

 塀の上で門番のニャンコに出会ったので、今日もたくさん蜂蜜が取れたと伝えた。

 ニャンコは「そうかニャ」とうなずいて、歩いていってしまった。


 ミツバチさんは外で起きた出来事を、このニャンコたちに伝える。

 あっちで見慣れない人間を見たよ。

 森の方に小さな動物がたくさんいたよ。

 それは、空を飛ぶ精霊さんたちに会っても同じこと。

 ルーク村はたくさんの味方に警護されているのだ。


 ある日ミツバチさんが、外の大きな壁の隅にネズミが巣を作っていたと、ニャンコズに伝えに来た。

 ニャンコズはのそりと立ち上がる。

「ネズミ一匹通らせないニャ」

「狩りに行くニャ」

 ニャンコズは風のように早く駆け出していった。

 ミツバチさんは何事もなかったかのようにお家に戻っていく。



 *****


 夕暮れ時。

「おや! 大ネズミを捕まえてきたのか!」

 馬小屋の片づけをしていたトムが、得意気に歩くニャンコズに声をかけた。

 ニャンコズがくわえてきたのは、体長三十センテもある大きなネズミだった。

「あっちの壁の下に穴を掘っていたニャ」

「全部仕留めて置いてきたニャ」

 ニャンコズが返事をすれば、トムは「わかった!」と言って、従士のひとりを呼んで駆け出していった。

 ネズミはすぐに増えるから、見つけたら駆除しなければならない。

 特に大ネズミは、その体の大きさと凶暴性が厄介な動物だった。


 ニャンコズは、たま~に、役に立っていた。


「このネズミは料理してもらうニャ」

「丸焼きニャ」

 クロちゃんシロちゃんは大ネズミを離れに持ち込んだ。

 お食事処の精霊さんたちが大ネズミを持っていって、それを調理してきてくれるのだ。

 今夜はニャンコズの希望通り、大ネズミの丸焼きが夕飯に届けられ、大喜びしていた。

 塩コショウと香草の効いた、とってもおいしいお肉だったそうだよ。



*****

 大ネズミは人間も食べます(笑)

 ラドクリフ家の夕飯に出されたかは??

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