カイルの独り言 +

忘れたころに登場するカイル兄です。

ハクを虐めた従兄弟の兄ちゃんです(;^_^A

あれからのカイル少年 ⇒ 青年のお話です。


南方魔境のスタンピード事件で、虫が出てきて戦うシーンがあります。

苦手な方はお気をつけください!

虫は作者も苦手です!

でも文章には書けてしまうのですよ……(;一_一)


戦闘シーンはサクッと終わりますが、ほのぼのとは遠いです(汗)

マジで苦手な方はブラウザバックでお願いします!


 

*****


短編 カイルの独り言+



 騎士学校に上がって間もないころに、同じ組の精霊使いに言われた。

「君って、精霊に嫌われているよね?」

「はぁ?」


 遠慮もなくそんな言葉を言い放ったのは、ラグナード領と隣接するフォレストリ子爵家の四男アルスだった。

 アルスは騎士学校の魔法戦略科に所属する、背は高いがひょろっとした痩せ型の精霊使いで、茶色の長髪に緑の瞳の、女受けする顔をしていた。

 隣領ということもあって、俺とアルスは気安く会話をする間柄だ。


 貴族家の三男以降は継ぐべき家もないので、手っ取り早く身を立てるため、騎士か王宮魔導士のなる者が多い。

 ちなみに次男はケースバイケースだ。


 精霊使いのスキルを持つアルスは、魔術学校には進まず、なぜか騎士学校に入学した変わり者だ。

「魔法学校に行っても、僕のスキルレベルでは落第決定だからね。こっちで卒業資格を取って、数年軍役についたら、適当なところで田舎に引っ込んで暮らすからいいのさ」

 そんなふうに、あっけらかんと言い放つ。

 こんなに適当でも、友だちが多いから不思議だ。


 アルスの『精霊使いスキル』とは読んで字のごとく、精霊と契約して魔法を使う者で、数はそんなに多くないレアスキルだと言われている。

 魔法使いや魔導士は、自分の魔力を変換して魔法を使う者。

 精霊使いは、契約した精霊の力を借りて魔法を使う者で、契約精霊の魔力量に左右されるそうだ。

 もちろん、使役する側の人間が倒れれば終わりだけれど。

「僕の契約精霊は風の下級精霊だから、大規模魔法が使えるわけじゃないんだよ」

 そう言ってアルスは笑っていた。


 下級精霊は姿を持たず、自然界に無数に存在するのだという。

 それでも契約できる精霊は、それなりに力の強い存在で、一端の魔法使いとなら対等に渡り合えるほどの力がある。

 精霊は疲れ知らずだという点でも、ポテンシャルが高い。


「契約精霊とは、何となく意思の疎通が図れるんだけど、僕の契約精霊は君の側に近づきたがらないんだよねぇ。周囲にいる無数の精霊たちも君を嫌ってるみたいだよ?」

 何だそれは?


「だからって、俺に何か害があるのか?」

 いぶかしんで聞いてみれば、アルスは首を振った。

「いんや。ただ君は精霊使いとは相性が悪いってことだけ。君は魔導士と組むのは良いけれど、精霊使いとは組まない方がいいよ。今後の班分けのときに注意した方がいい」

 アルスは俺の肩をたたいて、歩いていってしまった。

 何だあれ?

 俺は肩をすくめてヤツの背中を見送った。

 そのときの話は、それからすぐに忘れてしまった。




 あれから三年が経って、俺も無事に騎士学校を卒業し、王立騎士団に入団した。

 すぐに辺境伯家に戻っても良かったが、親父から「二~三年は王都で揉まれてこい」と言われた。

 まぁ、領都にはウィル兄もいるから、俺が戻ったところで居場所があるとも思えない。

 流されるように、バルジーク国王立第二騎士団に入団した。


 第二は平民上がりのたたき上げ騎士も多く、貴族出身者メインの第一(近衛騎士)とは違って、実力第一主義の騎士団だった。

 騎士団に入って早々は、一般騎士として下っ端の仕事をこなす。

 一応辺境伯家の倅ってことで、初っ端から大隊長の元につくことになり、さっそくしごき倒されたが、爺様のそれに比べればたいしたことはないと思った。

 同期はバタバタと倒れていたが、俺は結構普通に耐えて、先輩方を驚かせていた。




 そんな感じで第二騎士団にも馴染んできたころ、南の魔境でスタンピードが発生した。

 ラディアス南辺境伯からの要請で、第二騎士団の分隊が派遣されることになった。

 俺が所属する隊も派遣が決まり、慌ただしく王都を出発する。

 その派遣団には地方の貴族の支援団も合流していた。

 チラッと見れば、我が家のカザラフ副団長と、従兄弟のレンの姿も目に入ったが、任務中に声をかけることはできず、一団は一路南の魔境を目指した。


 被害が甚大だったブルネール子爵領に入ると、俺たちの隊は前線に向かうことになった。

 とはいえ、すでにラディアス騎士団とブルネール子爵兵が、冒険者とともに制圧を終えている地帯だ。

 残った魔物の駆除と、残った被害者の救護がメインになる。


 巨大な虫の魔物の巣窟である南の魔境は、北の大森林とは気候も植生も当然違う。

 ラグナードの最上級ダンジョンには大型虫も出るが、ここはそれ以上に厄介だった。

「なんだ、このでっかいムカデのオバケは!!」

 体長百メーテもあるような、巨大な黒光りするムカデの死体を見て驚嘆したぜ!!

「鬼黒ムカデだな。こいつの殻は硬くてなぁ。並の剣では太刀打ちできないぞ!」

 強面の先輩オッサン騎士が笑いながら、鬼黒ムカデの殻をガンガンとたたいていた。


 遠くで悲鳴が聞こえたが、先輩騎士が「あっちを見るな!」と言ったので、振り返らずに進んだ。

 先輩の判断は、きっと間違っていない!


 そんな感じで、ゴロゴロ転がる巨大虫群のあいだを縫って、生き残っている人間の捜索をおこなっていた。

 途中で救護者を背負った、ラディアス軍の騎士と出会うことになった。


「あぁ! 助かりました! この先にもうひとり動けない騎士がいるんですが、何とか助けてやってくれませんか? ふたりを背負うことはできなくて……」

 目の下にクマを作った、心底くたびれたようすの若い騎士の鎧は、所々がひび割れ、ずいぶんと黒ずんでいた。

 不眠不休で対応にあたっているのが見て取れた。

 背負われた人間は魔導士のローブをまとっていたから、魔力切れでも起こしたのだろう。


 先輩騎士がもうひとりの側に駆け寄ると、そっちの年配の騎士は虫の息だった。

 こんな時だ。

 助かる確率の高い者を助ける。

 ラディアスの騎士は、苦渋の決断を迫られたのだろう。


 先輩騎士は手持ちのポーションを、その年配の騎士に何とか飲ませていた。

 俺も支給品のポーションを、ラディアスの騎士と魔導士に飲ませる。

 ほどなく、ふたりの救護者は意識を取り戻し、自力で歩けるまでに回復した。


「助かりました。運悪く巨大マンティスに遭遇しまして、何とか倒すことができましたが、そこで力尽きてしまい……、面目ない話です……」

 魔導士が示した先には、確かに巨大カマキリのオバケが横たわっていた。

 あの巨大な鎌に切られたら普通に死ねる!


 年配の騎士は、若い騎士の肩を借りてようやく歩き始めることができた。


 夕暮れが近づき、辺りが薄暗くなってきたころ、薄闇の中で何かがうごめく気配を感じて、俺たちは立ち止まって周囲を警戒した。

「警戒しろ。何かいるぞ」

 全員が腰の剣を引き抜いて、あたりを見回す。

 魔導士はブツブツと何かを呟いている。

 まるでだれかと会話をするように。

 

 何とも、タイミングが悪いと、先輩騎士は舌打ちした。

 この薄闇は人間には不利だ。

 逆に虫にとっては有利に働く。

 

 そして、一拍にあとに地中から襲いかかってきたのは、巨大ワームだった!

 ドーンッ!

 突き上げるように下から持ち上げられ、俺たちは呆気なく全員空中に放り投げられた!

「どわ――ッ!!」

 思わず叫び声が出た!

 急いで天地を判断し、敵の姿を確認する。


「風精霊よ! 我らの身体をここから飛ばしてくれ!」

 魔導士の男が叫んだそのとき、大きなつむじ風が吹いて、俺たちの身体を持ち上げた!

 と、思ったら!

 なぜか俺だけそのまま下に落下したッ!!


 何でだッ??


 地面に叩きつけられる瞬間に受け身を取り、何とか自力で着地できたのはいいが、モコモコと眼前の土が盛り上がって近づいてきやがる!

「クッソ――ッ!! 完全に俺を餌だと狙ってやがるなッ?!」

 急いで立ち上がると、俺は剣を構えて、剣芯に火魔法をまとわせる。

 これでも北辺境伯の倅だ!

 ワーム如きにやられる俺ではない!!

 その一念で、地面から湧き上がってくる巨大ワームに、最大火力で渾身の一撃を叩き込んだ!!


「丸焼きになっちまえッ!!!!!」


 宣言どおり、巨大ワームは業火に焼かれて、のたうち回る。

 そこへ先輩騎士とラディアスの騎士が殺到し、何とか仕留めることに成功した。

 最大魔法を叩き込んだ俺は、肩で息をしながらその光景を睨みつけていた。



 そして俺は、今日は厄日だと思った!

 

「おお! 良く生きていたな! 落ちたときにヤツの口の真上でなくて良かった、良かった!」

 先輩騎士は大笑いして俺の肩をたたいていた。

 何気に縁起でもないことを言うんじゃねぇよ!


 駆け寄ってきた魔導士がオロオロとしたようすで、必死に謝ってきた。

「風精霊に全員を回避させるように命じたのですが、なぜかあなたには効かなくて……。助けていただいたのに、恩をお返しすることができずに申しわけありません!」

 魔導士はそう言って頭を下げた。

「あんたは、精霊使いか……」

「はい、そうです! 風と火の精霊と契約しています」

 彼の周りに薄っすらと光る玉のようなものが見えた。

 アルスの精霊より力が強そうだった。


 俺はそれを聞いて、昔馴染みの言葉を思い出していた。

『君って、精霊に嫌われているよね?』


 今度からは、勝手に魔導士と決めつけず、しっかり相手に確認しようと心に誓った。

 結論。

 精霊使いは当てにならない!


 カイル青年、十九歳の夏の出来事だった。



 *****



 それを遠くから見ていた精霊さんがひとり。

 レン兄についていったウィン君が、風の精霊さんたちの声を聞いて、

 ウィン君は三十センテの中級精霊さんだけれど、レベルは大精霊一歩手前の有望株なのだ。

 しかもご主人はハク。

 主人の魔力の強さも、精霊さんたちの魔力を増幅させる。


 いつだったかカイルがハクに意地悪をしていたのを、当時無名だったウィン君も見ていたのだ。

 ルーク村にいる精霊さん、みんなが見ていた。

 そして風の噂は世界中に広がっていく。


 以降、精霊さんネットワークを伝わって、カイル少年改め青年は、精霊さんたちから嫌われ者になっていたのでる。

 知らぬは本人と人類ばかりなり。

 飼い主のハクも知らない。


 精霊さんネットワークを舐めてはいけない。


 植物園内のとある一室で、そのようすを遠見ていた白黒がいた。

「因果応報です」

「ケケケ……」




*****



なるべく虫の描写は減らしましたが、微妙ですね(汗)

カイル青年はどこに行っても精霊さんに嫌われます。

そんな不幸なお話でした。


南の精霊使いさんは、あとでカイル青年が北辺境伯家の三男と知って、卒倒したかもしれませんね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る