精霊さんの気持ち

グリちゃんの気持ち

 気づいたら、緑の平原のうえに立っていたの。

 どこまでも続く緑の地平と、どこまでも続く青い空だけの世界に、ボクはいたの。

 お日様の光を浴びて、地中の水と養分を吸って、風に吹かれていたよ。

 それだけで、気持ちがよくて、幸せだなって感じていたの。


 ふと気づいたとき、目の前に茶色の地面が九マス現れて、唐突に、自分の役目がわかったよ。

 その茶色の大地に、お芋さんを植えつけて、「おおきくなぁれ」とお願いして、ジョーロからおいしいお水をまいたよ。

 お芋さんは見る見る緑の芽を出して、双葉ができ、本葉が大きく育ち、どんどん成長していったよ。

 九つの大地のお芋さんが、元気にのびのびと、お日様にむかって葉を広げていくの。

 あったかいな。

 おいしいね。

 幸せだねぇ。

 お芋さんはどんどん大きくなるよ。

 お日様と大地の栄養をたくさん吸収して、お芋さんの根っこはどんどん膨らんでいくんだよ。

 そうして、あっという間にお芋さんは成長して、瞬く間に葉が枯れていったの。

 土の中にはたくさんの大きなお芋さんがあって、僕はそれをせっせと掘り返し、乾燥させて保管倉庫に運んでいくよ。

 うんしょ、うんしょ。

 がんばれ、がんばれ。


 役目を終えた葉っぱさんに「がんばったね。ありがとうね」とお礼を伝えたよ。

 それを堆肥工場へ運んでいくと、そこには土の子がいて、その子に「おねがいね」と伝えて、葉っぱさんを手渡したよ。

 土の子はにっこりと笑って、葉っぱさんを受け取ると、新たな役目を与えるために、堆肥へと生まれ変わらせるの。

 枯れちゃった葉っぱさんは、いろんな生き物のえさになって、分解されて、次の命を育むために生まれ変わるの。

 堆肥になった葉っぱさんは、次の植物に命をささげて、また生まれなおすんだよ。

 そうやって、僕らは命と記憶をつないでいくんだよ。

 悲しいことなんてないよ。

 自分の子どもや、仲間たちの糧になって、さらにはほかの種の栄養になっていくの。

 ボクらは世界の毒を吸収して、それを浄化して、きれいな空気をはきだすよ。

 その空気が風になって、世界をおおい、また遠くのどこかでだれかの命をつなぐの。

 命はずっと巡っていくんだよ。

 幸せなことなんだよ。

 それがボクたち植物の役目だもんね。

 今日もお日様が気持ちいいよ。


 ボクはまた、お芋さんの種を植えて、この子たちのお世話をがんばるの。

 楽しいねぇ。

 幸せだねぇ。

 それがボクに与えられた役目で、ボクはそれを果たすためだけに存在したんだよ。


 それで十分だったんだけど、あるとき、お空の窓の外に、別の世界があることに気づいたの。

 そこには優しい魔力の持ち主がいて、ボクたちの大好きな人だって気づいたよ。

 その子に喜んでもらいたくて、ボクたちは一生懸命に働いたよ。

 お芋さんが立派に育つと、すごく喜んでくれるのがわかったから、もっともっとがんばろうって思ったの。

 あったかいねぇ。

 からだの中がポカポカするねぇ。

 幸せだねぇ。

 喜んでくれたら、とってもうれしいねぇ。


 土の子もはりきって、堆肥や草木灰を作っていたよ。

 できた堆肥や草木灰を大地にすき込んで、次のお芋さんを育てるんだよ。

 お芋さんも「おいしい、うれしい」って喜んでいるんだよ。

 また立派に大きく育ってね!

 ボクはせっせと働いたよ。


 そうしているうちに、僕の仲間もどんどん生まれてきて、お芋さんのお世話をみんなでがんばったの。

 元気に、大きくなぁれ!

 みんなで声を合わせて、叫んで笑い合ったよ。

 楽しいねぇ!


 そのうち新しい野菜の種が届けられたよ。

 大きくて真っ赤な実がなる植物の種だよ。

 トマトさんって言うんだって。

 食べると甘くてすっぱくて、すごくおいしいの!

 ボクたちも、土の子たちも、大好きになった。

 ボクたちはますますがんばったよ。

 キュウリさんやナスさんや、カボチャさんやメロンさん。

 いろんな植物を育てるようになって、最初のボクと土の子は、どんどん成長していったの。


 外の世界では、水の子と光の子がお仕事をしていて、うらやましいなって思ったの。

 ボクと土の子も、もっともっとがんばって、いつかは外の世界に行ってみたいねって、思うようになったの。

 もっともっと。

 いっぱい、元気に、おいしくなぁれ!

 みんなで力を合わせて、たくさんお野菜を育てたよ!


 そうしたら、あるとき外への扉が開いたんだよ!

 ボクと土の子に、「外の世界でこの世界の主のお役に立ちなさい」と声が聞こえたの!

 ボクたちはびっくりして飛び上がっちゃった!

 ドキドキ、ワクワク。

 からだの中が、ポカポカして止まらなくなったよ!

 ボクと土の子は、手をつないで外の世界へ飛び出した!


 ボクらの世界の外には、また違う世界が広がっていたよ!

 どこまでも広く青い空と、たくさんの大きなお山と、どこまでも続く大きな森と。

 ボクと土の子は、新しい世界に驚いて、飛び跳ねたよ!


 そうして、たったひとりを目指してむかっていくの!

 その子は広い世界の小さなお庭の中にいるよ。

 毎日僕たちの仲間をお世話してくれているの。

 ボクらは知っているよ。

 ボクらに気づいたご主人様は、かわいい笑顔でボクらをむかえてくれたよ!

 キラキラの笑顔が輝いて、ボクらもうれしくなって飛びついた!


 はじめまして、ご主人様!

 ボクたちにも、お名前をつけてください!

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