第25話 ちょっとだけ昔の話

 以前からリディアからパーティに入らないか勧誘されていたアルスは、フラワークラウンからの勧誘は断りフォーナイトに入ることに決める。


「アルスです。以前はセブンスドレイクというパーティに入っていましたが、追放されました。支援魔法が得意ですが、支援魔法に魔力を割り当てすぎると弱い魔法しか放てなくなります。よろしくお願いします」

 冒険者ギルドに併設された酒場でテーブルを囲みながら、以前の失敗を反省してアルスは先に魔法の威力が弱いことを含めて自己紹介する。


「リディアが熱望するから加入を認めたが、Aランクパーティを追放される奴がSランクパーティでやっていけるのか?」

 フォーナイトのメンバーのリカエルが確認する。


「前に話したはずよ。アルスは少なくとも学生時代の私よりは強いわ。あれから研鑽してきたつもりだけど、全力のアルスに勝てる自信は今でもない。アルスを入れないなら私が抜けて二人でパーティを作るわ」

 リディアはリカエルに告げる。


「待ってくれ。別に入れるのを反対しているわけじゃない。これから一緒にやっていくんだから、リディアの口以外からも実力を確認したいというだけだ」

 リカエルは不機嫌になるリディアに弁明する。


「それなら依頼を受ける前にアルスには模擬戦をしてもらうのがいいわね。アルス一人とリカエル、アイラ、モルイドの三人が同時に戦って、アルスが勝てば信頼出来るでしょう?アルスはどう?」

 リディアがハンデ戦を提案する。


「勝てるかはわからないけど、リディアがやって欲しいならやるよ。勝てなくても僕の実力は確認してもらえると思うから」

 ちゃんと自分の力をわかってもらってからの方がアルスにとっても都合がいいので、アルスはリディアの提案に乗ることにする。後から使えないと言われる心配がなくなるから。


「本気か?三人がかりならリディア相手でも勝てると思うぜ?」

 リカエルが眉をひそめて口にする。


「流石に無謀」

 アイラもリカエルに同意する。


「だからこそよ。負けたなら嫌でもアルスの実力を認めるでしょ?」


「わかった。たださっきも言ったが別に俺はこいつをパーティに入れたくないわけじゃない。それなりの力を見せてくれれば歓迎する」

 リカエルも提案を受ける。


「それじゃあ訓練場でやりましょうか。ギルド長に貸切にしてもらってくるから先に行っていて」

 リディアはパッぱと予定を決めてギルド長室に向かう。


「リディアと戦ったことがあるのですか?五年くらい前にリディアが学院で君を圧倒したのは調べて知っていますが」

 訓練場に向かいながらモルイドがアルスに聞く。モルイドはアルスに何故リディアがアルスに執着するのか不思議で接点を昔に調べていた。


「えっと……はい。その後に一度だけ」

 アルスはもう時効だろうと秘密を話す。


「勝ったのは?」


「僕が勝ちました」


「そうですか。リカエル、アイラ、初めから全力でいきます。遠慮は失礼かもしれません」


「マジかよ。さっきそのことを言ってくれれば実力を疑いなんてしなかったのに」

 リカエルが愚痴をこぼす。


「僕がリディアと戦ったことは秘密になってますので誰にも言わないでください」


「なあ、今からでもやめないか?学生時代のリディアより強いと言うのがリディアの妄言じゃないなら、十分Sランクとしてやっていける実力があるさ」


「何を今更言ってるのよ。許可が下りたから始めるわよ」

 リディアが戻って来てリカエルの提案を拒否する。


「覚悟を決めるか」


「ルールは学院の時と同じでいいの?それだともう自分に支援魔法が掛かっちゃってるけど」

 アルスがリディアに確認する。


「不意をつかれない限り敵に出会ってから支援魔法を掛けることなんてないのだから、始まる前に可能な限りで準備していいわ。それにそうでもしないと開始直後にアイラに斬られて終わりよ」

 リディアは純粋な剣士であるアイラの対策があの時のルールでは不可能だと考え、アルスに告げる。


「わかったよ。それじゃあ少し時間をもらうね」

 アルスはことわってから支援魔法を重ねがけしていく。


「ごめんなさい。ルールを変更させて。アルスは攻撃禁止。アルスに傷を負わせることが出来ればリカエル達の勝ちにしましょう。結界があっても殺してしまうわ」

 修行して魔力を感知できるようになったリディアは、準備を終えたアルスを見てルールを変更する。


「正気か?」

 魔力の感知が出来ないリカエルが不満を漏らす。


「正気よ。いえ、それでも足りないわね。私も混ざるわ」

 リディアも参加することにする。



 そして……


「僕の負けですね。ありがとうございました」

 アルスは腕から血が出ているのを確認して負けを認める。


「はぁ、はぁ、はぁ。なんだよこいつ、バケモンじゃねぇか。なんで超級魔法をまともにくらって無傷なんだよ」

 リカエルが息切れしながら座り込む。


「私の剣も弾かれた。鉄を斬る方が簡単」

 アイラが刃こぼれしてしまった大剣を地面に突き刺し支えとする。


「結局、総攻撃をしてリディアの魔法がわずかに防御魔法を破っただけですか。これはアルスの力を認めるしかありませんね。これからよろしくお願いします」

 モルイドがアルスを讃えて握手する。


「やっぱりアルスはすごいわ。これなら私の夢が叶うかもしれない」

 リディアが笑顔でアルスに抱きつく。


「リディアの夢って?」

 アルスはリディアの両肩を持って離した後聞く。


「魔族に奪われたお父さんの領土を奪い返すことよ。その為に力がいるの。危険だけど力を貸して欲しい」


「魔族に奪われたっていうと、リディアはガルガンダ領の領主の娘?」


「そうよ。魔族にお父様は殺されて、領地を守れなかった責任として私が受け継ぐはずたった爵位も剥奪されたわ」


「つらい思いをしたんだね。協力する。僕は何をすればいい?」

 アルスは疑うこともせずにリディアの協力を決める。


「アルスには私と一緒に魔王を倒しに行って欲しい。魔王を倒さないと領地を取り返してもまたすぐに襲ってくるかもしれないから。それだと誰も安心して暮らせないわ」


「わかった。僕にどれだけ出来るかわからないけど、リディアの助けになるよ」

 アルスは即答する。


「ありがとう。それから、王国のいいなりにならなくてもよくなるほどの仲間と権力が必要よ。今は冒険者として名を上げながら、私の考えに賛同してくれる仲間を秘密裏に集めているところなの。準備が整うまでは一緒に依頼を受けてお金を稼ぎましょう。アルスが冒険者をやっている目的は孤児院の為のお金を稼ぐことでしょ?」

 リディアはまたアルスに抱きつき、アルスによって離される。


「孤児院のみんなは僕の家族だから」


「よっしゃ!歓迎するぜ。これからよろしくな!」


「これだけやられて認めないことはない」

 リカエルとアイラもアルスの力を認め、アルスは正式にフォーナイトの一員になった。



「助けて下さい!アルスさん!アルスさんはいませんか!?」

 ある日、依頼を終えたフォーナイトの面々がギルドの酒場で夕食をとっていると、フラワークラウンのリーダーであるレッドが大声で助けを呼ぶ。レッドの後ろに女の子を背負ったコットの姿があった。


「何があった!?その子は生きてるのか?」

 アルスはすぐに立ち上がりコットの下に走る。


「カロラン渓谷でウルフの群れに食べられているこの子を見つけたんです。他のパーティの奴隷でエリーといいます。なんとか命だけは繋ぎ止めたんですけどこのままだと死んじゃいます」

 コットがエリーを台の上に寝かせ、レッドが何があったのか説明する。エリーの全身には真っ赤に染まった布が巻かれており、右腕と左足はなくなっている。


「モルイド、手伝って。支援魔法を掛けるから回復魔法を掛けて欲しい」

 アルスは超級の回復魔法が使えるモルイドを呼び、エリーにエクストラヒールを掛けてもらう。超級だとしてもヒールが自然治癒力を高める魔法なことには変わらず、生命力が無ければ望む効果は得られない。


 その為、アルスはモルイドの回復魔法の効果を高めると同時に、変質させた魔力を生命力としてエリーに送り続ける。


「あれ……ここは?」

 エリーが目を覚ます。


「ぅおおおお!!奇跡だ!女の子が目を覚ましたぞ!」

 エリーを囲んで心配そうに見ていた冒険者の一人が、腕と足が生えた状態で目を覚ましたエリーを見て大声を上げる。それに続いて、アルスとモルイドを称賛する声が次々とあがる。


「よくやったね。よく死なせずに連れて来た」

 アルスはコットの頭に手を置きながらフラワークラウンの面々を褒める。目の前で助けたことでアルスとモルイドに称賛の声が集中しているが、助けられたのはフラワークラウンが見捨てずにここまで連れて来たからだ。   

 アルスでも死人を生き返らせることは出来ない。


「やるなお前ら」

 レッド達が冒険者達に揉みくちゃにされる。


「とりあえず奴隷商のところに連れて行こうか。このままだと誘拐されたと勘違いされるかもしれないから」

 アルスがレッドに話す。


「そうですね。ありがとうございました」

 レッドがモルイドに礼を言ってエリーの手を取る。


「私も一緒に行くわ」

 リディアがエリーの顔を見て付いて行くことにする。


 エリーの案内で奴隷商の店に向かい、レッドが代表して店主に経緯を説明する。


「大変ご迷惑をお掛けしました」

 店主が頭を下げる。


「この子はこれからどうなるのですか?」

 レッドが確認する。


「あなた達がいなければ命を落としていた可能性が高いので、賠償金の支払い請求をして、その分早く自由になれます。計算してになりますが、二年ほど期間が残ると思います」

 奴隷商はレッドの望んだ答えとは異なる返答をする。


「わかりました」

 エリーが返事をする。その声に元気はない。


「また奴隷として売られるのが怖いんでしょう?」

 リディアがエリーに話しかける。


「……はい」


「よかったら、私達のギルドホームの掃除とか食事の準備とかそういったお仕事をやらない?」


「私を買いたいってことですか?」

 エリーが尋ねる。


「違うわ。奴隷から自由になれるだけのお金を貸してあげる。ギルドホームで働いたお金から少しずつ返してくれればいいわよ。どうかしら?」


「あの、勝手に話を決められては困ります」

 奴隷商がリディアに苦言を言う。


「私、奴隷制度って嫌いなの。借金を子供に背負わせる親も嫌いだし、それで儲けてるあなた達奴隷商も嫌いよ。さっきまで死の淵を彷徨っていた女の子に所有者としての扱いしか出来ないなら黙ってて。私は今エリーと話しているの。それでどう?もちろんエリーがいいならお金を返し終わった後も働いてほしいわ」

 リディアは奴隷商にキツイ言葉を浴びせて、エリーを再度誘う。


「……お願いします」

 エリーが返事をする。


「これからよろしくね。そういうわけだから、エリーの残りの負債は私が代わりに払うわ。ギルド長にフォーナイトとして預けているお金から払うように言っておくから」


「フォーナイト……わかりました」

 奴隷商はフォーナイトの名前を聞いてやっと相手がSランクのリディアだと気付き諦める。


「それじゃあ新しい家に行きましょうか」

 リディアはエリーの手を掴み店を出る。



「アルスさん、よかったんでしょうか?」

 リディアに続いて店を出たレッドがアルスに聞く。


「フォーナイトのギルドにはエリーみたいな人が他にもいるから大丈夫だよ。よかったらレッド達も一緒に来る?」

 アルスはギルドホームにレッド達を誘う。


「いいんですか?」


「いいよ。頑張ったご褒美にご馳走してあげる」


「ありがとうございます」



 数日後、アルスはギルド長ならガレイドが一人で依頼から戻って来たことを聞き、セイラとメルキオが一緒にいなくなったことを知る。


「リディアに頼みがあるんだけど、セイラはわかるよね?」

 メルキオとセイラが一緒にいなくなったというのが腑に落ちなかったアルスはリディアを頼る。


「わかるわよ」

 リディアはセイラの名前を聞いて少し不機嫌になる。


「どこにいるか探知してくれない?悪い予感がするんだ」


「別にアルスを追い出した女がどうなってもいいじゃない」

 リディアは頼みを拒否する。


「……わかった。僕一人で探すよ」


「はぁ。わかったわよ。探知魔法を使うから支援魔法を掛けて」

 リディアはため息を吐きながら立ち上がった。

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