第18話 ムラサキガエル
ゲコ!
「臭いな。鼻が曲がりそうだ」
沼の近くまでやってきたケビンは、悪臭に鼻を摘まむ。
ゲコゲコ!
「あれがムラサキガエルだな。結構いるな。だが、確かに毒さえなければただの大きいカエルか」
ケビンは、足元に注意しながら沼地にさらに近づき、目標を確認して問題なく倒せる相手だと判断する。
ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ…………!
「うるさいな!どれだけいるんだよ!すぐに黙らせてやるから静かに待ってろ!」
ケビンが沼地に足を踏み入れた瞬間、ムラサキガエルが一斉に鳴き出す。鳴き声を聞いて、さらにムラサキガエルが集まってくる。
「これは、普通に戦っていては埒が明かなそうだ。消耗が激しいがやるしかないな。赤く染める火炎───燃やし尽くせ、ファイアストーム!」
ケビンの魔法により、辺りに炎の風が渦のように吹き荒れる。ケビンはメルキオがいたからあまり魔法を使うことはなかったが、中級までの魔法なら火・水・土・風の四属性を扱うことが出来る。
「やったか……?ぺっ!何か口に……」
手応えを感じていたケビンの口に何かが入り、ケビンは吐き出す。
ゲコゲコ!!ピチャッ…ピチャッ…
炎の渦が消え去った後、渦中にあったはずのムラサキガエルは何事もなかったかのようにピンピンしていた。
そして、攻撃されたことに激昂して、ケビンに対して口から黒い液体を吐き出している。
「ぺっ!ぺっ!しまった。毒か……うっ!」
ケビンはやっと先程口にも入った物がムラサキガエルが吐き出した毒液だと気付くが、既に毒が回り始めており、急な頭痛がケビンを襲う。
「……仕方ない」
ケビンは沼地から走って離れた後、解毒薬を飲む。割れるような頭の痛みがスッと消える。
「くそ!何が新人でも討伐出来る魔物だ!威力が下がっていたとはいえ、中級魔法をまともにくらって全くダメージが入っていない!くそ!」
ケビンは怒りをぶつけるように地面をガシガシと蹴りながら怒りを露わにする。
聞いていた話とは違い過ぎる依頼に対して文句を言う為に、ケビンはムラサキガエルの討伐を中止して、怒ったまま冒険者ギルドへと入る。
バン!
「ふざけたことをしてくれたな!何が新人でも倒せる魔物だ!」
ケビンはズカズカと他の冒険者の対応をしているラフランの前に進み、机を叩いて怒る。
「きゃっ!!…………私は何も嘘はついていません。他の冒険者の方の迷惑ですので、私に用があるのであれば後ろに並んで下さい。……失礼しました。では、こちらの依頼は無事達成となります」
ラフランはケビンを適当にあしらって、元々対応していた冒険者への対応に戻る。
「ふざけるな!お前のせいでどれだけ大変な……」ドンッ!
ケビンは文句を言い終わる前に突き倒される。
「何しやがる!」
ケビンは突き飛ばした男を睨む。
「そう怒るなよ。俺らが先に並んでるんだ。列の後ろに行くようにちょっと押してやっただけだろ?」
「はい!喧嘩はダメですよ。もし続けるようなら、もう私はあなた達の対応はしませんからね。セルシオさんが私の為に怒ってくれたのはわかっていますが、それでセルシオさんがギルド長に怒られたり、罰点をもらったりしたら、私は悲しいです」
ラフランが喧嘩の仲裁に入る。
「すまねぇ、すまねぇ。大人しくしてるよ」
セルシオはラフランに言われて、謝りながら列に戻る。
「待てよ!俺の話は終わってねぇ!」
ケビンはセルシオの腕を掴む。
「ラフランちゃんが喧嘩するなと言っただろ。お前も大人しく並べ。それか待っている間に、ラフランちゃんがどんな嘘をお前に言ったのか俺が聞いてやろうか?このままラフランちゃんに怒りをぶつけたところで、いいことなんてないぞ?」
セルシオはラフランに良いところを見せて、先程の失態を挽回しようと、ケビンの相談相手に買って出る。
「そんなに聞きたいなら教えてやる!こいつはムラサキガエルの討伐が新人でも出来る簡単な依頼だと言って俺に受けさせたんだ」
「……確かにムラサキガエルは新人には荷が重いな。本当にラフランちゃんはそんなことを言ったのか?」
セルシオはラフランの方をチラッと見る。
「セルシオさん、ケビンさんが言ったことは言葉が足りていないです。毒を考慮しなければ新人の冒険者でも倒せると言いました。ちゃんと解毒薬が必要だという話もしましたよ。ねえ、先輩」
ラフランは今日も隣の席で仕事をしていた先輩受付嬢に話を振る。ギルドの中は、ケビンのせいで仕事が出来る空気でもないので、話を振っても仕事の邪魔にはならない。
「確かにそう言っていたわね」
ラフランがケビンを都合のいいように扱っているのは知っているが、これに関しては嘘ではないので、先輩受付嬢はラフランが嘘を言っていないと証言する。
「中級の火魔法が直撃してピンピンしているような魔物を新人の冒険者が倒せるって言うのかよ!」
ケビンはヒートアップする。
「お前、ムラサキガエルに火魔法が通じなかったから、新人には無理だと怒っているのか?」
セルシオがケビンに聞く。顔には呆れが混じっている。
「ああ、そうだ」
ケビンは問いに肯定で返す。
「ギャハハハハ!マジかこいつ。ラフランちゃん、少しでも疑った俺が間違っていた。こいつ馬鹿だ」
「ハハハハ」「クスクス」
セルシオだけでなく、周りからも笑い声が聞こえる。
「何がおかしい!!」
ケビンは笑われていることに我慢ならず、大声を出す。
「ムラサキガエルに火が効かないことくらい新人でも知ってるだろ。そこらで遊んでる子供でも知ってる。新人でも倒せる魔物だろうと、馬鹿には倒せないわな。ギャハハハハ!」
「それはお前らがここを拠点としているからだ。この街に来たばかりの俺と一緒にするな!王都にはムラサキガエルなんていないんだよ!」
「知らない魔物を相手にするのに、何も調べずに行ったんだろ?それが馬鹿だと言うんだ。馬鹿だから俺の言っている意味もわからないか?」
セルシオはケビンを煽るように、自分の頭をトントンっとつつきながら言う。
「くそ!やってられるか」
ケビンはギルドから出ようとする。
「ケビンさん待ってください」
出て行こうとするケビンをラフランが呼び止める。
「なんだ!?」
ケビンはイラつきを隠そうとせずに振り向く。
「一応伝えておきますが、このまま依頼を止めると違約金が大銀貨五枚掛かります。なので、一時の感情で後悔するような決断はしないでくださいね」
ラフランがケビンに違約金のことを伝える。
これはケビンに見せた依頼票にも書かれているが、実際にはまだ受注扱いになっていないので、ラフランの気分一つでうやむやにすることは可能ではある。
「依頼を止めるとは言ってないだろ!」
ケビンはそう吐き捨て、顔を赤くしてギルドを出た。
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