第16話 借金

 ケビンを途中の街で降ろしたガレイドは、王都に戻ってきた。

 

「セブンスドレイクのガレイドだ。訳あって我以外のメンバーはパーティから抜けた。これからは我がリーダーだ」

 ガレイドは冒険者ギルドに行き、ケビンに言われていた通り、ガレイド以外のメンバーがパーティを抜けたことと、自身がリーダーとなったことを受付嬢に伝える。


「……かしこまりました。ギルドからもセブンスドレイクの方にお話がありますので、どうぞこちらに」

 受付嬢は一瞬ガレイドに哀れみの目を向けた後、ガレイドを個室へと案内する。


「ギルド長を呼んでまいりますので、掛けてお待ちください」

 受付嬢はガレイドを案内した後、部屋を出ていく。



 しばらくしてギルド長が部屋に入り、ガレイドの対面に座る。

「話は聞いたが、一応確認だ。セブンスドレイクのリーダーはお前で、ケビンとメルキオとセイラはパーティを抜けたんだな?」

 ギルド長は、受付嬢から先に聞いていた話が間違っていないかガレイドに確認する。


「そうだ。これをケビンから預かっている」

 ガレイドは肯定して、ケビンから渡されたリーダーを代わる旨の書かれた紙をギルド長に渡す。


「三人はどこに行ったんだ?」


「メルキオとセイラがどこに行ったかは知らない。ケビンは王都に戻る途中の街に降ろしてきた」


「そうか。確か、お前個人のランクはCランクだったな?」

 

「そうだ」


「一人となったパーティは、もうパーティとは言わない。お前がセブンスドレイクの名で活動するのは構わないが、パーティランクはCランクに降格とする。多少の入れ替えなら目を瞑るが、お前一人となったパーティを今までと同じ実力のあるパーティとすることは出来ない。Cランクとしたのは、お前個人が活動するのと変わらないからだ」


バン!

「納得いかない!」

 ガレイドは机を叩き、立ち上がる。


「ギルド長である俺の判断だ。お前が納得してなかろうと、結果を変えるつもりはない。それとも、お前一人でAランクの依頼をこなせるとでもいうつもりか?」


「やってみなければわからないだろうが」


「はぁ。お前らはアースドラゴンの討伐に向かっていたんだろう?常時依頼だから特に罰則はないが、一体でも討伐出来たのか?」

 ギルド長はため息を吐いた後、ガレイドに結果を聞く。


「討伐出来ていないが、それは不測の事態が起きたからだ」


「不測の事態か。一応聞いてやる」


「何故かわからぬが、以前に比べて力が出なくなっているんだ。今ケビンが原因を探している。我はケビンからセブンスドレイクを任された。ケビンが戻るまでパーティの尊厳を守らなければならない」


「何言ってるんだ?お前らが弱くなった原因なんて探さなくても分かるだろう」

 ギルド長は呆れた様子でガレイドに言う。


「ギルド長には原因がわかるのか?教えてくれ!」


「アルスを追い出したからだ。アルスを追い出せばこうなることくらい予想出来ただろう。お前らは弱くなったんじゃない。元の実力に戻っただけだ。支援魔法の効果が切れたんだよ」

 ギルド長はガレイドに冷たい目を向ける。


「ふざけたことを言うな!あいつはカスみたいな威力の魔法しか放てない役立たずだ」


「信じないならそれでも俺は構わない。お前が教えろと言ったから教えただけだ。本題に戻るから座れ!」

 ギルド長はガレイドを威圧して座らせる。


「お前に用というのは、パーティランクをCランクにする為じゃない。関係なくはないが、セブンスドレイクには金を返してもらわなければならない。どうやって返済していくのか、その話をする為にここに呼んだ」


「ギルドに金なんて借りていない」


「お前ら奴隷を買っただろ?賠償金の支払い請求がギルドに来た。賠償の額は金貨二十五枚だ。約束通り、ギルドから奴隷商に金は支払ったが、ギルドとしてお前らから金を貰わなければならない。Cランクの冒険者がギルドから借りることの出来る上限は金貨二枚だ。残りの二十三枚はすぐに返してもらう」


「そんな大金あるわけないだろうが!」


「怒鳴ったところで結果は変わらない。いいか、落ち着いてよく聞け。この金の支払い義務はケビンにある。今はお前がリーダーかもしれないが、奴隷商にギルドが金を払った時点では、まだケビンがリーダーだ。その後にリーダーが代わったところで、支払い義務まで移りはしない。普通は支払い義務がリーダーにあろうとも、パーティメンバー全員で背負うのだがな」


「何が言いたい?」


「ケビンはこの場にいないからな。お前が背負うのか、ケビンに支払わせるのかこの場で決めろ。答え次第でギルドとしてやることが変わる」


「奴隷が死んだのはメルキオのせいだ!」


「だからなんだ?誰の責任だろうと、お前らがギルドに金を返すのは変わらない。まあ、メルキオはこうなるとわかったからパーティを抜けたんだろう。セイラとケビンもな。お前は責任だけ負わされて捨てられたんだ。いい加減現実を受け入れろ!」

 ギルド長はイライラしながらガレイドに現実を突きつける。


「我はケビンに売られたのか?弱くなった原因を探すというのも嘘だったのか……」


「ケビンが本当に弱くなった原因を探しているのかは知らないが、普通なら一度王都に戻るだろうな。俺にはお前に責任を押し付けたようにしか見えないが、結論はお前が決めろ。ケビンの代わりにお前が負債を負うかどうか」


「我は騙されていたのだな。ギルド長、教えてくれたこと感謝する。我はギルド長の言葉を信じて、ケビンの負債は負わない」


「そうか。先程、ケビンに支払い義務があると言ったが、ケビンが見つからなければお前らに払ってもらわなければならない。お前らと言ったが、メルキオとセイラもいないから実質お前にだ。手を出せ」


 ガレイドがギルド長に言われて手を出すと、ガチャリと腕輪を付けられた。


「何をするんだ!」

 ガレイドは付けられた物を見て怒る。


「ケビンが見つからなければお前に払わせると言っただろう。なに、心配するな。これからお前にはギルドの為に働いてもらうが、ケビンが見つかればすぐに解放してやる」


「ふざけるな!なんで俺が奴隷にならなければならない!」


「勘違いするな。それは装着者の居場所を知らせるだけのただの腕輪だ。奴隷の首輪じゃない。確かに逃げないように行動は制限するが、奴隷の身分に落ちたわけではない」


「同じようなものだろ!」

 ガレイドはさらに怒る。奴隷ではないことはわかってはいるが、周りは奴隷に向けるのと同じ目を向けると知っているからだ。

 実際ガレイド自身も、この腕輪を付けられた者をそういった目で見て、馬鹿にしてきた。


「嫌なら本当に奴隷として売ってやろうか?その方がギルドとしてもすぐに金が入るから大歓迎だが、どうするんだ?」


「…………。」


「黙るくらいなら最初から吠えるな。早速明日から仕事だ。ギルド職員が新人に薬草採取の教育をする。お前にはそこで荷物持ちをしてもらう。今は金を回収する為に善意で仕事を与えてやっているんだ。サボったら本当に奴隷商に売るからな。問題も起こすなよ」

 ギルド長は忠告をしてから立ち上がり、部屋を出ていく。



 ガレイドが部屋から出ると、周りから視線が集まる。個室からはガレイドの怒鳴り声がギルド中に漏れ出ていた。


クスクス……

「あいつセブンスドレイクの……」

「見ろよあの腕輪、ぷっ!奴隷落ちかよ。笑える」

 ガレイドに付けられた腕輪を見て、周りが馬鹿にして笑う。


「やめろ!我を笑うな!」


「笑うなって言ってもな……。くくく、笑っちまうんだから仕方ねぇよな?」

 併設された酒場で酒を飲んでいた男が、一緒に酒を飲んでいた男に言う。ガレイドにもわざと聞こえるように。


「そう言ってやるな。何か事情があるんだよ。お前も立場をわきまえろ。笑うな!ではなく、笑わないで下さい、お願いします。だろ?頭を地面に擦り付けて頼めば笑わないでくれるかもな。ギャハハハハ」

 一緒に飲んでいた男は、酒を煽りながら床を指差す。


 ガレイドは腕輪を隠しながらギルドを走り去るしかなかった。

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