第14話 リーダー

 ケビンは目を覚まし、顔を洗いに外に出た所で異変に気付く。

「メルキオとセイラはどこに行ったんだ?」

 見張りの順番の最後はセイラのはずなのに、そのセイラの姿がない。そして、テントの中にはガレイドしかおらず、メルキオの姿もなかった。


「いないな……。どこ行ったんだ?」

 ケビンはテントの周りを見て回るが、二人の姿はない。

 メルキオはともかく、見張りをしなければならないセイラは、テントの近くにいるとケビンは思っていた。


「馬が一頭いない……」

 二人を探し続けていたケビンは、馬車を引いていた馬が一頭になっていることに気付く。


「襲われた形跡はない。メルキオとセイラが馬に乗ってどこかに行ったということか?リーダーである俺に何も告げずに、見張りをほっぽり出してどこに行ったんだよ!」

 ケビンは二人の訳のわからない行動にイラつきながらも、探しても見つかることがないとわかり、テントに戻る。


 ケビンはガレイドを起こそうと思っていたが、起こす前に紙が置かれていることに気付く。


『弱くなった私はAランクパーティとして活動するには力不足です。パーティを抜けます。本当は一人で出ていくつもりでしたが、セイラに見つかってしまい、セイラもパーティを抜けることになりました。今までお世話になりました。急に抜ける詫びとして、推薦を受ける時に担保としてお渡しした金貨四枚はそのまま差し上げます。馬を一頭お借りしますが、ギルドに返しておきますのでご安心ください』

 紙にはそう書かれていた。


「なんだよ、これは!」


「ふわぁあああ。どうしたんだ?」

 テントの中で大きな声を上げたことで、ガレイドが目を覚ます。


「メルキオが…………いや、なんでもない」

 ケビンはガレイドに置き手紙のことを言おうとしたが、違和感に気付き言うのを止める。

 メルキオがパーティを抜けるという話も、それにセイラが賛同して同行するという話もおかしい。しかし一番おかしいのは、あの金にガメついメルキオが自身の金を差し出したことだ。パーティを抜けるにしても、金は返せと言ってくるはずだ。それなのに言わないということは、完全に関係を断ち切るということではないかとケビンは考えた。


「メルキオとセイラはどこに行ったのだ?」

 ガレイドが二人がいないことに気付き、ケビンに聞く。


「俺は起きてから見てないな。俺は朝食を作るから、探してきてくれないか?」

 ケビンはガレイドに二人を探しに行かせて、その内にメルキオの行動を考える。



「どこにも二人はいなかった。それから、馬が一頭いなくなっていた」

 しばらくしてガレイドがテントに戻る。


「二人はパーティを抜けるそうだ。お前が探しにいっている間に、俺もこれを見つけた」

 ケビンは先程の置き手紙をガレイドに見せる。


「なんだこれは!?冗談だとしても笑えぬ!」

 ガレイドは受け取った紙を見て、怒りをあらわにする。


「一言くらい言えと俺も思うが、メルキオの気持ちもわからなくはない。俺自身も力が戻るのか不安だ。力が戻らなくてはSランクを目指すことも出来ない」


「それでも、逃げ出すとは軟弱だ」


「ああ、そうだ。しかし、このままではAランクパーティとして周りから舐められる。それは耐え難い。メルキオとセイラはそれに耐えられなくなって逃げたが、俺達はあいつらとは違うだろ?」


「もちろんだ」


「そこでだ、俺は力が弱くなった原因を調べに行ってくる。それから、メルキオとセイラの代わりも見付けなければならない」


「連れ戻さないのか?」


「あいつらは所詮その程度だったということだ。すぐに逃げ出す奴らに、お前は今後背中を預けられるのか?」


「無理だ」

 ガレイドはケビンの問いに即答する。


「だから、背中を預けるに足る仲間を探してくる。ガレイドには、俺が戻るまでセブンスドレイクを守ってもらいたい。俺が戻るまでお前がセブンスドレイクのリーダーだ。これをギルドに提出してくれ。リーダーをガレイドに任せるという俺の書面だ。それから、俺は一時的にだが、メルキオとセイラがパーティから抜けたという報告もギルドにしておいてくれ。任せたからな!」

 ケビンはガレイドがメルキオ達を探しにいっている間に書いておいた用紙を渡し、一時的にパーティを抜けるからその間ガレイドがリーダーをやってくれと頼む。


「ケビンはリーダーに拘っていただろう。それでいいのか?」


「ガレイドにだから、一時的にでもリーダーを任せることが出来るんだ。信頼しているからな!」

 ケビンはガレイドの肩にポンと手を置く。


「ガハハハ!任された。ケビンが新たな仲間を見つけ、力を戻す方法を見つけてくるまで、我が責任を持ってセブンスドレイクを守る」

 ガレイドは大声で笑い、力強く答える。


「よく言ってくれた。王都に戻る途中のサザンカという街に、呪術に詳しい婆さんがいると聞いたことがある。そこで俺は降りることにする。後は任せた」


 それぞれの役目を決めた二人は、朝食を食べた後、一頭となった馬に引っ張ってもらい、ゆっくりと出発した。



「ここで降ろしてくれ。出来るだけすぐに戻る。それまで頼んだ!」

 ケビンはサザンカの近くで馬車を降りる。


「任された!」

 ガレイドは一言言って馬車を走らせる。



「ガレイドが馬鹿で良かったぜ」

 ガレイドが走り去った後、ケビンは呟いた。

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