第11話 アースドラゴン
「作戦を確認する。俺とガレイドでアースドラゴンの気を引いている間にメルキオが魔法陣を書いて威力を高めた超級魔法を放つ。セイラはすぐに回復魔法を掛けられるように準備しておく。無理はせず、相手が二匹になったら諦めて一旦逃げる。問題はないな?」
ケビンが谷を降りる前に確認する。
「大丈夫です」
「いいわ」
「ああ」
それぞれ返事をする。
「メシは多めに準備してもらったが、明日の夜に仮拠点に戻る。毎日狩り続けることも出来るが、それだと集中力が保たないからな。物資も余裕を持って準備してあるから、休みを挟みながら進めていく。二日で六匹狩るつもりでいくぞ」
ケビンが討伐目標数を共有させてから、縄はしごを使い谷を降りる。
「体をほぐす為にも、あの小さいのからにするか。もう一匹近くにいるから、離れるまで待ってから倒す」
ケビンが一匹のアースドラゴンに狙いを定めて、側にいるアースドラゴンと距離を空けるまで身を隠すことに決める。
「よし、あいつの側には他の個体はいなくなったな。アースドラゴンは魔力に敏感だ。油断するなよ」
ケビンがメルキオに忠告して、ガレイドと前に出る。
「おらぁっ!」
ケビンがアースドラゴンの背後から近寄り、後ろ足を狙って剣を振り下ろす。
「なっ!」
ケビンが振った剣は、アースドラゴンの皮膚に小さな傷を付けただけで弾かれる。
「ガハハハ。何をしている」
ガレイドがケビンを笑いながら、自慢の爪で引っ掻く。
「ぐゔぁぁぁ」
ガレイドはアースドラゴンの皮膚を抉るつもりだったが、それは叶わず、それどころかガレイドの爪はアースドラゴンの皮膚に負けて一本折れる。
残りの爪も、ヒビが入りボロボロだ。
アースドラゴンは鬱陶しい虫を払うかのように、尻尾をブンっと振る。
ガレイドはギリギリのところで避け、ケビンは避けるのは無理だと判断して受け流そうとする。
「かはっ……」
しかし、反応しきれなかったケビンは吹き飛ばされ、口から血を吐く。買ったばかりの金色の鎧はグシャリと潰れる。
ケビンを吹き飛ばしたアースドラゴンは、魔力に反応して、近くにいるガレイドを無視して魔法陣を描いているメルキオの方に歩き出す。
「メルキオ!」
「わかっています。燃やせ。ファイアーボール!」
セイラがメルキオの名を呼び、メルキオは魔法陣を描く手を止めて、すぐに発動出来る火球を飛ばす。
「効いてないわよ!」
セイラがメルキオに叫ぶ。
「倒せる威力はありません。セイラは逃げてください。ガレイドはケビンの回収を」
メルキオは火球で土煙を起こし、セイラとガレイドに指示を出して、自身もアースドラゴンから距離を取る。
アースドラゴンは土煙が晴れた後、描きかけの魔法陣を踏み潰してから離れていく。
「運良く私達を見逃してくれましたね」
安全な距離をとって隠れていたメルキオが、一緒のところに隠れていたセイラに言う。
「そうね」
セイラは返事をする。
「ガレイドがケビンを担いでこちらに来てますので、ケビンの治療を頼みます。あの様子だと、何本か骨が折れているでしょう。内臓にも損傷があるかもしれません」
メルキオがケビンの様子を見てセイラに言う。ケビンがアースドラゴンにやられたことは不思議に思っているが、以前にセイラが千切れかけたケビンの腕を治しているのを見ているメルキオは、そこまでケビンの心配はしていない。
「ヘマした。治してくれ」
セイラ達と合流したガレイドは、担いでいたケビンをセイラの前に降ろす。
「浄化の光よ、傷を癒せ。ヒール!」
セイラがケビンに回復魔法を掛ける。ケビンの体を光が包み、ケビンの意識が戻る。
「ぐぅああ」
目を覚ましたケビンが痛みから唸る。
「一度で治りきらなかったみたいね。浄化の光よ、傷を癒せ。ヒール!」
痛がるケビンに、セイラが再度回復魔法を掛けるが、あまり変化があるようには見えない。
「どうかしましたか?」
メルキオがセイラに聞く。
「回復魔法は治癒力を急激に高めて治す魔法なんだけど、これ以上高めることは出来ないみたい」
セイラが答える。
「痛むんだが、どうにかならないのか?」
ケビンが立ち上がり、セイラに聞く。
「時間が経ってから掛け直せば効果は出ると思うわ」
「それまで我慢しないといけないのか。千切れかけた腕はすぐに治せたのに、なんで今回は治らないんだ?」
ケビンはセイラに聞く。
「あの時は腕しか怪我してなかったからじゃないかしら。今回は全身怪我しているから、治りきらなかったんだと思う」
セイラは答える。
「どうしますか?続行するか、引き返すのか。ケビンの容体もですが、油断でもしていましたか?あれでは極大魔法の発動は出来ませんよ。ガレイドもです。小型のアースドラゴンに苦戦するようでは、ここで狩りをするのは危険です」
メルキオが苦言を口にする。
「……確かに攻撃を仕掛けた時には慢心もあった。だが攻撃を受けた時、思うように体が動かなかった。結果、受けるタイミングがズレて吹き飛ばされた」
ケビンは冷静に自己分析する。
「相手が予想以上に強い個体だったわけでなく、ケビン自身に原因があると言いたいのですか?」
メルキオがケビンに聞く。遠くから見ていたメルキオは、ガレイドの攻撃も弾かれていたことから、アースドラゴン側に何か異変があったのだと思っていた。
「そうだ。理由はわからないが弱体化している」
ケビンは自身が弱くなっていることを認める。
「ガレイドはどうなんですか?」
ケビンが弱体化したとして、そうなるとガレイドの攻撃が弾かれた理由がメルキオには分からない。
「体が重くなった気がするな」
ガレイドが答える。
「アースドラゴンが相手を弱体化させくるなんて聞いたことがありませんが……。今も調子は戻らないのですか?」
「良いとは言えないな」
ケビンが体を動かしながら答える。怪我が治りきっていないことを抜きにしても、ケビンは体の不調を感じている。
「今アースドラゴンを相手にするのは難しいと言うことですね。それから聞きにくいのですが、その鎧はまだ使えるのですか?」
メルキオはアースドラゴンと戦うのをやめた方がいいと言った後、ずっと気になっていたケビンのひしゃげた鎧について触れる。
「……無理だな。金貨四枚もしたくせに脆すぎる」
ケビンは脱ぐのも一苦労しそうなほどにひしゃげた鎧を見て答える。
「アースドラゴンがケビンとガレイドを弱体化させたなら、時間が経てば効果が切れるでしょう。本調子に戻ったのを確認してから挑み直した方が安全です。予定を変更して仮拠点に戻りませんか?」
メルキオがアースドラゴン討伐を中断することを提案する。
「そうだな。迷惑かける」
ケビンに続いてガレイドも頭を下げ、ケビン達は何の成果も得られないまま仮拠点へと引き返す。
「何かおかしいわ。壁が崩れている」
御者をしていたセイラが異変に気付き、知らせる。
いつでも戦えるように気を張り、警戒しながらも、急いで馬車を走らせる。
「なによこれ……」
あまりの惨状にセイラが声を漏らす。防壁は四方を囲っていたはずだったのに、森側の壁が無惨にも壊されていた。そこにエリーの姿はなく、代わりにあるのは、荒らされた形跡と飛び散った血だけだった。
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