第9話 カロラン渓谷
「早速だが、明後日からアースドラゴン討伐をしにカロラン渓谷に向かう。必要な物資の買出しを頼んだ。これはリストだ」
シェアハウスに戻ってきたケビンはエリーに買い出しのリストと金を渡す。
「わかりました」
「馬車はギルドでセブンスドレイクの名で借りてくれ」
ケビンは代理の者が馬車を借りる旨を紙に書いてエリーに渡す。
「はい」
「今日の食事の準備からお前の仕事だ。依頼を受けに行かない時は、食事の準備と掃除と洗濯をしてくれれば、後は自由にしていて構わない。依頼を受けている時は仕事が増えるが、その分普段の仕事が少ないと思ってくれ」
パーティ資金も個人の資金もほとんど尽きたケビンは、賠償金を奴隷商に払いたくはないので、言われたとおり無碍な扱いはしないよう心掛けて話をする。
「ありがとうございます」
ずっと不安そうな顔をしていたエリーの顔が少しほころぶ。
「部屋はあそこの部屋を使ってくれ。前に使っていた奴の物がそのままになっているが、要らないものは捨ててしまって構わない。何か貴重品が残っていれば俺に渡してくれ。返しておく」
ケビンはアルスが使っていた部屋をエリーの部屋とする。
「はい。ありがとうございます」
「何か困ったことがあれば気にせず言ってくれ」
エリーにとりあえずの説明を終えたケビンは自室に戻り横になる。最近は雑務をやっていたせいであまり取れていなかった自由な時間だ。
二日後、ケビン達はエリーが買った物に不足がないか確認した後、カロラン渓谷へと向かう。
「カロラン渓谷に着いたら、俺達はアースドラゴンを討伐しに行ってくる。お前は野営場所で待機だ。カロラン渓谷に向かう道中で、テントの設営の仕方など野営のやり方は教える。到着する前に一人で出来るように覚えてくれ」
ケビンはエリーに仕事の内容を伝える。
「わかりました」
「俺達がアースドラゴンの討伐に行っている間お前は一人になるが、メルキオが防壁をつくった上で、結界を張ることになっている。外に出なければ魔物に襲われることはないから安心していい」
「はい」
ケビン達はエリーに仕事を教えながらカロラン渓谷に進む。
エリーが仕事を覚えてからは、ケビン達は雑務をやる必要がなくなり、エリーに休憩させている間に御者を務めるだけになった。
「奴隷を買って正解でしたね。これなら金貨三枚払う価値はあったと言えます」
メルキオがエリーの働きを見て言う。
「そうね。あの子は身だしなみもちゃんとしてるし、同行してて不快感を覚えないわ。よく気がきくから、思っていた以上に助かっているわ」
当初奴隷を買うことを反対していたセイラも、エリーの働きを認める。
雑務から解放されたケビン達はエリーの必要性を感じながら進み続け、カロラン渓谷の近くまでやってくる。
ドン!…………ドン!
「先客がいるようだな。まあ、向こうは森だ。獲物は違うようだから無視でいいだろう」
カロラン渓谷と隣接しているカロランの森の方から戦闘の音が聞こえるが、聞こえるのは爆発音のみで声までは聞こえない。
獲物が被れば、早い者勝ちでケビン達が譲らないといけないが、アースドラゴンを倒しに来たのならカロランの森には用はないはずなので、ケビンは不干渉とすることに決める。
「ここを仮拠点とする。とりあえず下見だけしてくるから、メルキオは残って防壁と結界を張ってくれ」
メルキオとエリーを馬車から下ろして、残りの三人はカロラン渓谷まで進む。
「上からパッと見るだけでも四、五匹はいるな。十匹と言ったが、これなら二十匹くらいいけそうだな」
谷の上から下を覗いたケビンが言う。
「そんなに倒しても馬車に乗らないんじゃない?」
セイラが言う。
「魔石と牙と爪だけ持って帰れば十分だろ。これなら、皮を剥ぐ時間を削って数を倒した方が稼げそうだ」
「それなら問題ないわね。それじゃあ確認も出来たから戻りましょう」
下見を終えたケビン達が仮拠点とした地点に戻ると、土壁で四方が囲まれていた。
「戻った。メルキオ、どこから入ればいいんだ?」
入口が見当たらないケビンは、壁の中にいるだろうメルキオに話しかける。
ズズズズズ……
「ここの壁が動くようになってます。少し重たいですが、軽すぎると魔物に入られる可能性が増しますので我慢してください」
街道側の壁が動き、メルキオが出てくる。
「いや、いい仕事だ。こっちも朗報がある。思っていたよりもアースドラゴンがいた。皮を諦めれば二十匹くらいは倒せそうだ」
ケビンはメルキオの仕事を褒めた後、下見の結果を伝える。
「それは確かに朗報です。かなりの稼ぎが期待できます」
「それじゃあ明日から予定通り狩っていく。飯を食ったらすぐに休め」
夕食を食べたケビン達は、寝る準備を進める。
「出発前に話した通り、俺達が寝ている間の番は任せた。昼夜逆転することになるが、番をしながら雑務をして、昼間に寝てくれ。魔物が近づいてきたら、叫んで起こしてくれればいい。お前が戦う必要はない」
ケビンはエリーに寝ずの番を任せる。出発前にこのことは伝えてあり、その分日頃の仕事量を減らしているとケビンは説明した。
「わかりました」
エリーは了承して、壁の外に出る。何かあった時にすぐに出入り出来るように、防壁は人が通れるくらいに開けたままになっている。
「皆様が就寝された後、森の方でホーンボアの討伐をされていた冒険者の方達が挨拶に来ました。フラワークラウンという冒険者パーティだそうです。目的を聞かれたので、アースドラゴン討伐だと伝えたところ、討伐目標は違うのでお互い邪魔しないようにしましょうと言われました。その時にこれを受け取りました」
エリーは昨夜にあったことをに伝え、渡されていた包みをケビンに渡す。
「フラワークラウンか……知らないな。ホーンボア討伐をしているならDランクだろう。これはホーンボアの肉だな。ありがたく頂くことにしよう。料理に使ってくれ」
ケビンは包みを開けて中を確認して、エリーに返す。
「わかりました。それから、名前を聞かれたのでエリーと答えましたが、今思うとセブンスドレイクと答えないといけませんでした」
エリーはフラワークラウンの面々がいなくなってからその事に気付き、失敗してしまったと落ち込んでいた。
「確かにパーティ名を答えるべきだったが、お互い干渉しないという話になったんだ。言う必要もないだろう。それよりも朝食は出来ているか?」
ケビンにとって、知らない同業よりも、これから戦うためのエネルギーの方が大事だ。
「用意出来てます」
エリーは焚き火の上に吊るしておいた鍋を持ってきて、スープを器によそう。
「早速アースドラゴンを討伐しに行ってくる。ここから出なければ自由にしていてくれて構わない。戻るのは二日後の予定だ」
朝食を流し込んだケビンがエリーに言う。
「はい、休ませてもらいます。こちらがお弁当です。お気を付けて」
ずっと気を張り詰めていたエリーは、ケビン達に二日分の弁当を多めに渡して見送った後、横になった。
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