第8話 奴隷②

 依頼に連れて行く奴隷を買う為に、ケビン達は奴隷商の元を訪れる。


「俺達はAランクの冒険者なんだが、依頼に連れて行ける奴隷を買いたい」

 ケビンが奴隷商に用件を伝える。


「戦闘が出来る奴隷ということでしょうか?かなり値が張りますがよろしいでしょうか?」

 奴隷商は手で五を示す。


「金貨五枚か」


「冗談はやめてください。金貨五十枚です。Aランクの依頼に連れて行ける者をそんな価格でお売りすることは出来ませんよ」

 奴隷商の訂正に、ケビンの顔は赤くなる。


「戦える奴隷は求めていない。旅先で雑務をしてくれればそれでいい」


「左様ですか。奴隷を買われるのは初めてでしょうか?」


「ああ」


「私達商人が売り買いしている奴隷は、奴隷である期間が設けられている者であり、犯罪奴隷とは異なります。従って、奴隷だからと物のように扱っても良いわけではありません。自身が死にそうな時に奴隷を守れとは言えませんが、主人は奴隷を守る義務があります。決められた食事を与え、決められた以上の仕事量を与えてはいけません。また、売り買いと言いましたが、正確には一年契約での貸出になります。所有権が私からお客様に移るわけではありませんので、ご注意下さい。お客様に非がなくとも、貸し出した奴隷を死なせた場合や、欠損など治らない傷を負わせた場合には、賠償して頂きます。細かい金額に関しては各人異なりますので、買われる奴隷が決まって契約する時にお伝えします」

 奴隷商は初めて奴隷を買うことにしたケビン達に丁寧に説明する。


「理解した」


「何かご希望はございますか?」

 奴隷商が確認する。


「やってもらいたいのは、買い出し、料理、テントの設営、洗濯などだ。パーティには女もいるから、女の奴隷のほうがいいが、金額によっては男でも構わない」

 ケビンは条件を伝える。


「連れてまいりますので、暫しお待ち下さい」

 奴隷商は店の奥へと行き、二人の奴隷を連れて戻ってくる。


「まずこちらの少女ですが、名前はエリーといいます。親の借金を返す為に売られました。料理と洗濯は出来、物覚えも良いので、教えればテントの設営も出来るようになるでしょう。馬車の操舵も出来ます。奴隷の首輪を付けていますので、買い出しに任せた途中でお金を持ち逃げすることもありません。金貨三枚での契約になります。彼女を死なせた場合、金貨三十枚の賠償金を頂きます。障害を負わせた場合も、そのレベルによって最大で金貨三十枚になります」

 奴隷商は首に黒い首輪を付けた十三歳の少女を紹介する。


「次にこちらの男性ですが、名前はスコットといいます。ギャンブルに溺れて自分では返せない程の借金を負い奴隷となりました。料理と洗濯に加えて、テントの設営も出来ます。もちろん、奴隷の首輪を付けていますので悪さをすることはありません。金貨一枚での契約になります。彼を死なせた場合、金貨十枚の賠償金を頂きます。障害を負わせた場合も、先程と同様です」

 奴隷商は首輪を付けたもう一人の三十二歳の男の説明もする。


「相談する。少し時間をくれ」


「かしこまりました」

 奴隷商は一礼をした後、ケビン達から距離を取る。


「同じ金額なら女の方がいいが、金額の差が大きすぎるな」

 ケビンは言う。誰が考えても、エリーの方が優良物件で、スコットの方はハズレ物件ではある。ただ、奴隷商はハズレだということは隠さずに、その分安い金額を提示している。


「安くてもあんな男は嫌よ。それなら、奴隷を買わない方がマシだわ」

 元々汚らしいという理由で反対していたセイラは、スコットを奴隷として同行させることを拒む。


「首輪で悪さは出来ないのであれば、私は男の方でいいと思います。セイラが女の方がいいと言うのであれば、その分はセイラが負担するべきではないですか?全てとは言いませんが、パーティ資金は金貨一枚しかありません。残りの二枚は各自から徴収するしかないです。一人大銀貨五枚ですが、そこまで出してまで女の方にしたいとは私は思いません。ケビンとガレイドはどうですか?私は大銀貨三枚なら出しましょう」


「我はケビンの防具を買って金がない。大銀貨三枚なら出せるが、五枚は持ってないな」

 ガレイドは金がないから無理だと言う。


「俺もメルキオに同意だ。セイラには恩もある。大銀貨四枚は出す。残りをセイラが出すなら女の奴隷を、出さないなら男の奴隷を買う。それか、今俺がやっている雑務とセイラがやっている雑務の分担を交換してもいい。その場合は俺が雑務代として多くもらっている分はセイラに渡す」

 ケビンはセイラに判断を任せる。


「金貨一枚も持ってないわ。前にも言ったでしょ?」

 セイラは金がないと言う。担保にする金を集める時にもそう言っており、それから大きな収入はない。


「金は俺が立て替えておいてもいい。アースドラゴン討伐から戻った時に返してもらうという約束でならな」


「それなら女の子の方を買いましょう」

「店主、女の方の奴隷を買う」

 セイラの最終判断で、ケビン達は奴隷としてエリーを購入する。


「お買い上げありがとうございます。それではこちらが契約書になります。お読みいただきサインをお願いします。また、先程お伝えしておりませんでしたが、奴隷の首輪には、奴隷を拘束する他に状況を記録する機能が付いています。奴隷を人として扱っていないことが判明した場合、即時奴隷の返却と賠償金を支払っていただきます」

 ケビンは契約書をサラッと読む。


「この、賠償金の担保というのはどうすればいい?」

 ケビンがサインの下にある担保の記入欄について聞く。


「今回であれば、金貨三十枚、又は、金貨三十枚以上の価値の物を担保として置いていってください。お客様はAランクの冒険者とのことですので、現在ギルドに借入が無いのであれば、ギルドに立て替えさせると書いてもらい、ギルド宛の紙にも記入していただければ大丈夫でございます」


「わかった」

 金貨三十枚も待っていないケビンは、ギルドに立て替えさせるという旨の書類にもサインをする。


「お手続きは以上になります。契約期間が過ぎる前に、契約更新される場合は金貨三枚を、されない場合は奴隷の返却をお願いします」


「エリーです。よろしくお願いします」


「雑用をしていた奴がパーティを抜けることになってな。代わりを頼む」


「はい」

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