第7話 奴隷
ケビンはシェアハウスに戻った後、ギルドでの話をパーティメンバーに伝える。
「内容に関して思うところはありますが、一旦置いておいて、何故そのような大事なことを独断で決めたのですか?」
メルキオが話を最後まで聞いた後、ランクを落とす措置の決断をケビンが独断で決めたことを非難する。
「規約を把握していないと言えば、また罰点を付けられるかもしれないだろうが」
ケビンは反論する。
「変更があった規約を把握していなくて罰点を付けられるわけがないじゃないですか。馬鹿なんですか?規約に変更がありましたというただの連絡事項で、変更があったことを知らないと言えば、何が変わったのか教えてくれるだけです」
「それは悪かったが、結果は変わらないだろ。それとも、お前は知っていればBランクに落ちる判断をしたと言うのか?」
ケビンはメルキオに馬鹿と言われ、自分の非を認めつつも、頭に血が上る。
「Bランクに落ちるのではなく、自ら下げるのであれば、その判断をしたかもしれません。計算しないと答えることは出来ませんが、Bランクに下げた方が稼げるならその方がいいです。私は冒険者として上を目指したいわけではありません。周りから舐められるのは我慢なりませんが、稼げるならAランクでもBランクでも構いません」
メルキオは正直なところを答える。裕福ではない村育ちのメルキオは物事を考える時に、金を稼ぐことに重きを置いている。プライドが邪魔をしない限りは、より稼げる方を選ぶ。
「そんなこと今更言ってもどうしようもないでしょ。それよりも、なんでギルド長に目をつけられているのよ。もしかして、今メルキオと話しているような態度をギルドでもしているわけ?」
セイラが話に割って入り、メルキオとは違う件でケビンを非難する。
「色々とあって言葉遣いが荒くなってしまったんだ。ギルド長に言われて頭は冷えた。今回は注意を受けただけだ。罰則をもらったわけじゃない」
「王都のギルド長と敵対したら、どこに行っても冒険者でいられなくなるわ。もう少し考えて行動して。無理だというなら、リーダーはメルキオに代わって」
セイラはケビンに厳しいことを言う。
「ギルドとの対応は俺に全て丸投げしておいて、そこまで言われないといけないのか」
ケビンはセイラに吠える。
「丸投げといいましたが、ケビンがリーダーをやると言って、セブンスドレイクのリーダーはケビンに決まっています。リーダーなのですから、パーティの為に身を削るのは当然です。その分、報酬はリーダーであるケビンが多くなるように分配していますよね?リーダーとしての責務を果たさないというのであれば、報酬はきっちり四等分にして、今まで多く貰っていた分も私達に返してください。それから、私達が一緒にギルドに行った時には、ちゃんとセイラはケビンが暴走するのを止めていました。仕事を任せていたのであって、丸投げしていた訳ではありませんよ」
横でセイラとケビンの話を聞いていたメルキオがセイラの肩を持ち、ケビンに言う。
「俺が悪かった。ちゃんとリーダーとして行動すると約束する」
ケビンは拳を握りながらも、Aランクパーティのリーダーという地位を守る為に、セイラとメルキオに頭を下げる。
「私はケビンを信じていいと思いますがセイラはどうですか?」
メルキオがセイラに確認する。
「一度の失敗で縁を切るつもりはないわ。直して欲しかったから、口調が荒くなってしまっただけよ」
セイラもケビンを許すことにする。
「わだかまりもなくなったところで、次に受ける依頼の話をしませんか?Aランク以上の依頼しか受けられないのですよね?」
メルキオが話を進める。
「そうだ。Bランク以下の依頼をこなしてきても、貰えるのは魔石などの買取だけだ。しかも通常の一割しかもらえない。実際受けられるのは、Aランク以上の依頼か、誰もやりたがらないようなうまみの少ない依頼だけだ」
「ギルドを通さずに魔物の素材を売ることは禁止されていますから、買い取りが一割だと確実に出費の方が高くついてしまいますね」
冒険者はギルドに買い取りしてもらい、ギルドはそれを商人や錬金術師に売る。ギルドを通さずに直接売れば、国の法を破ることになり捕まってしまう。
この法が無くなると、冒険者が自由に魔物を狩ることに繋がり、結果として生態系のバランスが崩れてスタンピードが発生する可能性が増す。
そうならないように、ギルドは依頼を出している魔物の素材しか買取しないようにし、討伐してほしくない魔物の討伐依頼は貼り出さないようにすることで、バランスを管理している。
「だから、Aランクの依頼を受けるしかない。難度は高く、時間は掛かるが、その分報酬はデカい。これまでは近場で済ませる為にCランクの依頼を受けることが多かったが、Aランクの依頼を達成するだけの実力はあるのだから、稼ぐ為に遠出もする。いいか?」
「ギルドの体制がそのように変わったのですから仕方ありませんね。何の依頼を受けるのか、候補は見てきたのですか?」
「アースドラゴンの討伐がいいと思う。カロラン渓谷まで行くのは手間だが、行ってはみたが見つからないという可能性は低いだろう。アースドラゴンは空も飛べないから、逃げられる可能性も低い。しばらくカロラン渓谷に滞在して十匹くらい討伐すれば、当分は稼がなくてもよくなるはずだ」
ケビンはアースドラゴンの討伐を提案する。
「いいと思います。あそこはアースドラゴンの群生地ですから。ただ、一つ出発前に決めないといけないことがあります。雑用係はギルドから紹介してもらえないのが確定しましたので、奴隷を買うかどうかです」
メルキオはアースドラゴン討伐には賛成した上で、奴隷の購入するかどうか決めるべきだという。
「私は嫌よ。汚らしい奴隷なんかと一緒にいたくないわ」
セイラが反対する。
「我はどちらでも構わぬ。だが、我に雑用は期待するな」
ガレイドは賛成も反対もしない。期待するなと言ったが、これはわがままではなく、料理や設営などの細かいことが苦手であるということで、やらないと言ったわけではない。料理も肉を焼くだけでいいなら、ガレイドもやるつもりだ。
「私もどちらでも構いません。今はケビンが旅の準備をして、料理や設営もケビンを中心に持ち回りでやってますが、同じであれば文句は言いません」
メルキオはこれ以上雑務はしたくないという意見を言う。今は買い出しなどの前準備は全てケビンが行い、それ以外の雑務の半分もケビンがやっている。残りの半分をメルキオとセイラ、たまにガレイドが順番に回している形だ。
「俺には奴隷が必要だ。長旅の間、ずっと今の量の雑務はやっていられない。買わないと言うのなら、お前らにも雑務をもっとやってもらう」
ケビンが主にセイラに向かって言う。
「奴隷を買うのにパーティの資金を使うと思いますが、その補填は今ケビンが多くもらっている報酬から出すということでいいのですよね?ケビンの仕事を減らすわけですから。奴隷を買わずに雑務をするのは仕方ないと割り切りますが、雑務をやらせている分としてケビンが貰っている分はこちらにも分配してもらいます」
メルキオが意見する。ケビンが今まで通り大部分をやるというのはキツいことは理解した上で、やらないなら金を払えという意見だ。
「……ああ、もちろんだ」
本心では納得していないケビンだが、雑務をするという理由でもらっている金をこれからも貰い続けるわけにはいかないのはおかしな話でないことくらいはわかる。それに、自身の失態の話を先程したばかりだ。反論はしにくい。
「わかったわ。奴隷を買いましょう。でも、あまり私に近付かせないでよ」
雑務をやりたくないセイラは奴隷を買うことを承諾した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます