第6話 ギルド規約

「この薬草腐ってないか?」

 森を出て馬車に乗ったケビンは、積んであった薬草を見てメルキオに聞く。


「明らかに腐ってますね。セイラの魔力があまり切れなくなってからは、薬草を見かけても採取してませんでしたから、腐っていて当然と言えば当然ですね」


「今まで必要としてなかったからな。魔力が戻ったら回復してくれ」

 薬草を使うことを諦めたケビンはセイラに頼む。


「わかったわ」


「そういえば、ギルドに頼んでいた雑用係はまだ見つからないのでしょうか?」

 メルキオがケビンに聞く。


「良い人材がいたら紹介してくれることにはなっているが、まだ話はないな。戻ったらもう一度聞いておく」


「頼みます」



 王都に戻ったケビン達は、ギルドに行く前に壊れた装備が修理出来るのか、修理にはいくら必要か確認する為、ケビンの鎧を買った鍛冶屋へと向かう。


「鎧が壊れてしまった。直せるか?」

 ケビンは鍛冶屋の親方に話しかける。


「派手に壊したな。確認してくるから少し待ってろ」


「頼む。それから、これを買い取ってもらいたい。金になるかはわからないがな」

 ケビンはアルスに置いていかせた杖とローブをカウンターに置く。


「……これはどうしたんだ?」


「出てったメンバーが迷惑を掛けた詫びとして置いていったんだ」


「そうか。二つで銅貨一枚で買い取ろう」

 親方はカウンターの上に銅貨を一枚置き、ローブと杖を回収する。


「安すぎないか?」


「思い出の品だというなら返すが、どうするんだ?」


「いや、返さなくていい」

 ケビンはアルスの装備だから安物だったんだなと納得してそのまま売ることにする。


「わかった。鎧を見てくる」

 親方は奥の作業場に鎧を持っていく。



「あの防具はもう諦めろ。直らないことはないが、新しく防具を買った方がいい」

 ケビン達が飾ってある装備を見ていると親方が奥から戻ってきて、結果を伝える。


「そうか。ちなみに修理にはいくら掛かるんだ?」


「大銀貨五枚だ」


「高すぎないか?」


「だから買い直した方がいいと言っただろ。メンテナンスもしてなかったんじゃないか?あれだけボロボロだとほとんど作り直すのと変わらない」

 親方は答える。


「それなら仕方ないか」


「この鎧はどうだ?お前さんに合うと思うが」

 親方が奥から金色の鎧を持ってきてケビンに見せる。


「高そうだな」


「金貨四枚で売ってやろう」


「金貨四枚か……。高いな。どうするか」

 ケビンはギルドにいくら預けていたか思い出しながら考える。


「今回のことは我の失態だ。金貨二枚しか持ってないが出そう」

 考えるケビンにガレイドが言う。


「助かる。ガレイドの優しさに甘えて買わせてもらう」

 ケビンは金色の鎧を買うことにする。


「使ってくれ」

 ガレイドがケビンに金貨二枚を渡す。


「残りは冒険者ギルドから受け取ってくれ」

 ケビンはガレイドから受け取った金貨二枚とギルドの口座からの支払いにする旨を書いた証文を親方に渡す。


「確かに」

 ケビンは金色の鎧を受け取って鍛冶屋を出る。



 メンバーとはここで別れて、ケビンは依頼の報告と、雑用係のことを確認する為に冒険者ギルドへと向かう。


「ツインヘッドウルフの討伐をしてきた。魔石の買い取りと、討伐報酬を頼む。それから、以前に話した雑用係の件はどうなっているのか聞きたい」

 ケビンは受付嬢に用件を話す。


「えっと……少々お待ち下さい」

 受付嬢は困った顔で席を離れる。


「お待たせしました。まず今回達成した依頼ですが、ギルド規約に基づき魔石の買取のみで銀貨一枚になります。それか…」「それはおかしいだろ!」

 しばらくして戻ってきた受付嬢が説明をしている途中で、ケビンが声を荒げて遮る。


「何もおかしくはありません。先日ギルドの規約に変更がありましたが、ケビンさん達セブンスドレイクは把握しているということで記録が残っています。本当に把握されていますか?」

 受付嬢がケビンに疑いの目を向ける。


「ああ、把握している」

 罰点を付けられたくないケビンはまたもや嘘を吐く。問題を起こせば担保として預けている金も使われるから、尚更罰点を付けられるわけにはいかない。


「それでしたら何も問題はないと分かるはずです」

 受付嬢はケビンが把握していないことに気付いているが、最近セブンスドレイクの評判は、その言動の数々からギルド職員の中で急落しており、この受付嬢も早く対応を終わらせたい一心で説明はせずに放置する。


「……そうだな」

 何も知らないまま嘘を吐いた手前、ケビンはこれ以上反論が出来ない。


「それから雑用係の件ですが、ギルドの方で適任の方がいるか確認しましたが、該当する方はいませんでした」

 受付嬢はセブンスドレイクに紹介する人材はいないと説明する。


「戦わなくてもいいと言っているのに、それでもいないとはどういうことだ」

 ケビンは受付嬢に詰め寄る。


「対応を代ろう」

 裏で話を聞いていたギルド長が受付嬢に交代を申し出る。


「ギルド長。お願いします」


「ここでもいいが、奥で話そうか。その方が君にとってもいいと思うがどうだ?」

 ギルド長が奥の部屋を指しながらケビンに提案する。


「……ああ。そうさせてくれ」

 ギルド長の言葉で、周りから視線を集めていることにやっと気付いたケビンは、ギルド長の提案を受け入れる。


「雑用係を紹介してほしいという話だったな。一応ギルドとして動いてはみたが、それは無理だ。諦めろ」

 応接室に入ってお互いが座ったところで、ギルド長が断言する。


「理由を聞かせてくれ。他のパーティにも雑用をやらせている奴らはいるだろう。何で俺達には紹介しない」


「他のパーティにもギルドが雑用係として紹介したことは一度もない。奴隷を買った所は別だが、お前が言っているのは新人冒険者のことだろう。そもそも、ギルドが紹介するのは冒険者だけだ。雑用係ではない」


「そう言っているだけだろ?雑用をやらせていることに違いはないだろうが」


「確かに、パーティに加わった新人冒険者は食事の準備やテントの設営、荷物持ちをしたりする」


「同じじゃないか」

 ケビンは最後まで話を聞かずに口を開く。


「同じではない。彼らは新人冒険者に、冒険者として成長出来るように仕事を与えているだけだ。必要な手続き、必要な物資、警戒しないといけないことに、戦い方。それらを経験させて、教育するために同行させているだけで、自分達が楽をするために連れ回しているわけではない。戦わなくてもいいから雑用する者を紹介してくれだったな。危険な森に入る時、連れていった者はキャンプした場所に置いていくのか?それで安全が確保できるのか?」


「それならそれで、そう言ってくれれば俺達も新人に訓練を付けてやるくらいはする」


「一応、何人かの新人には既に声は掛けた。本来、ベテラン冒険者から新人の教育をしたいと言うわけではなく、新人冒険者の方からベテラン冒険者の元で学びたいから紹介してくれと言われるのだがな。そういった話をしている者には、セブンスドレイクが教育をするつもりがあるならと付け加えた上でどうするか確認した。結果は全てノーだ。わかりやすく言うなら、お前らは新人冒険者に嫌われているんだ」


「なんで俺達が話したこともない奴らに嫌われないといけないんだよ!」

 ケビンはあまりのことに立ち上がる。


「アルスを追放したからだ。アルスは低ランクの冒険者の面倒をよく見ていた。そんなアルスをあのように追放すれば嫌われて当然だ。ギルド長として公平に、新人とベテランの橋渡しの機会は作ろうとしたが、断られて当然だな。どうしても雑用係が必要だというなら奴隷を買うなり、他の方法を考えることだ。ギルドとしてこれ以上やれることはない」

 ギルド長はアルスを追放したことが原因だと言い、これでこの件は終わりとする。


「チッ。わかったよ」

 舌打ちはしたが、流石のケビンもギルド長に喧嘩を売るほど馬鹿ではなかった。


「それから、ギルドの規約を本当は読んでいないだろ。罰点はしないでやるからよく聞け」


「ああ」

 罰点されないと言われれば、ケビンとしては大人しく聞くしかない。


「高ランク冒険者が低ランクの依頼を受けることで、下の者が成長する機会が失われている。それを改善する為に、ギルド本部の決定で、自身のランクより下の常時依頼を受けることは出来なくなった。今回セブンスドレイクはツインヘッドウルフを討伐してきたが、お前らはAランク。そしてツインヘッドウルフの討伐はBランクの依頼だ。依頼は受けられないから、当然報酬はない。それから、討伐したことで得られる魔石、毛皮、牙などの素材の買取も通常の一割となる。先程銀貨一枚だった理由がわかったか?」


「ああ、不満は解消されていないが、本部の決定ならここで喚いても結果は変わらないのだろう。常時依頼じゃなければいいんだな?」


「他の依頼は、依頼票を受付に持ってきた時に確認する。その時の判断で断られれば受注することは出来ない。常時依頼だけは受付に提出する必要がないから、ああ言っただけだ。その辺りも全て細かく書いてあるから、今度こそちゃんと規約を読め」


「わかったよ。一つ聞かせてくれ。Aランク以上の依頼なんてほとんどないだろ。どうやって稼げはいいんだ?」


「数は確かに少ないが全くないわけではない。指名依頼があるなら、それをこなしてもいいし、採取などの特化した能力があるなら、ランクに関わらず依頼を受けて稼ぐことも出来るだろう。その者にしか頼めない依頼だからだ。後は、ずっと受ける者が現れない埋もれている依頼なら、下のランクの依頼でも受付で断られはしないはずだ」


「指名依頼なんてほとんど俺達には入って来ない。実力はあるが、何かに突出しているわけではない」

 五年という早さで駆け上がったセブンスドレイクには、Aランクに指名するような貴族などの繋がりはほとんどない。


「そういった冒険者の為に特別措置もあったが、セブンスドレイクは断ったと記録にある。ランクを下げることが出来るという措置だ。仮にCランクにランクを落とせば、AとSの依頼を受けられなくなり、Aランクの特典も受けられなくなるが、CとBランクの依頼を受けられるようになる。そこで金を貯めてから、もう一度Aランクになる為に実績を立てることも出来た。実際、何組かのパーティと一部の冒険者はランクを下げる申請をしにきた。一応言っておくが、この措置の確認は一度だけだ。コロコロと気分でランクを変えられては困るからな」


「Bランクに落ちる気はなかったからそれはいい。今度からはAランクの依頼を受けろと、そういうことでいいんだな」


「そうだ。それから話を終える前にもう一点。お前らに非があることで、職員に対して騒ぐな。迷惑している。今回は俺が対応を代ったが、今後も続くようなら厳しい処罰を与える。自分らに非がなく、職員に非があるというなら、直接俺に言いに来い。わかったな」


「わかったよ」

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