第4話 ツインヘッドウルフ
「お待たせしてすみません。ギルドへの提出お願いします」
実家から戻ったメルキオはケビンに金貨二枚を渡す。
「えらく時間が掛かったな。村で何かあったのか?」
早ければ翌日にはメルキオが戻ってくると思っていたケビンだが、実際に戻るまで四日も掛かった。ケビン達はメルキオがいつまでも戻らないので、ギルドから金を借りるかどうか相談を始めていた。
「杖の調子が悪いようで、以前に比べて飛行の速度が出ず、長い間飛び続けることも出来ませんでした」
「時間はあるから問題はないが、あまり心配を掛けるな」
「申し訳ない。最近杖のメンテナンスをしていませんでしたので、異常がないか調べておきます」
「強敵を相手にしている時に魔法が発動しませんじゃ困るからな。それじゃあ俺はギルドに行ってくる」
シェアハウスを出たケビンは、大金を手にギルドへと向かう。
「Aランク冒険者のグレイスからの推薦状と契約書だ。これでBランクには降格しない。間違いないな?」
ケビンは受付嬢に書類二枚と金貨十七枚を渡して確認する。
「はい。確かに受け取りました。契約通り、金貨二枚はグレイスさんに渡しておきます」
「礼を言っておいてくれ」
「かしこまりました。これでギルドがセブンスドレイクをBランクに降格させる理由はなくなりました。先日ギルドの規約に変更がありましたが、変更点を把握されていますか?」
「ああ、把握している」
前回、把握していないと正直に話したところ罰点を付けられたケビンは、何が変わったのか知らないまま嘘の返事をする。
「降格処分ではなく、Bランク、又はCランクにランクを変更することも出来ますが、Aランクのままということでよろしかったでしょうか?」
受付嬢はケビンが規約の変更点を把握しているのを前提として話を進める。
「もちろんだ」
なんで金を払ってまでAランクに残ったのに、ランクを下げないといけないんだと思いながら、ケビンは当然だと返事をする。
「かしこまりました。それから、ギルド長よりセブンスドレイク様に伝言を預かっています」
「聞かせてくれ」
「わかっていると思うが、Sランクへの推薦もフォーナイトのリディアが推薦していた。Sランクへの推薦はSランクの冒険者、又はギルド本部の推薦が必要だ。ギガントドラゴンを倒しただけではランクを上げることは出来ないから、倒してきたからSランクに上げろと騒がないように。とのことです」
ケビンはギルド長から釘を刺される。
「大丈夫だ。わかっている」
完全に頭になく、ギガントドラゴンを倒せばSランクになれると思っていたが、冷静に考えればその通りなので、当然理解しているという返事を返す。
翌日、ランク降格問題から解放されたセブンスドレイクの面々は、久々に高難度の魔物討伐の依頼を達成するべく、先日も赴いたブルーオーガの群れがいた森に向かう。
今回狙うのは、ツインヘッドウルフという魔物で、Bランクの常時依頼となっている。
常時依頼のほとんどは、緊急性の少ない魔物の討伐、又は常に必要とされている素材の納品依頼となっており、依頼を受注してから出発する必要はない。
今回、ケビン達がなぜツインヘッドウルフ討伐の依頼に決めたのかというと、報酬がおいしいという一点に尽きる。
ツインヘッドウルフは首が二つあるウルフで、右の頭からは火炎のブレスを、左の頭からは氷のブレスを吹いてくる凶悪な魔物だ。
討伐報酬が高いだけでなく、上位の個体の場合、火、又は氷の属性付きの魔石が剥ぎ取れる可能性もある。どちらでも買い取りしてもらえるが、氷の魔石は高値で買い取ってもらえる。
しかも、火と氷の二属性付いた魔石が手に入ることがあるらしく、それは国宝に近い価値があると言われている。
「よし、見つけた。メルキオ、周りの警戒を頼む。ガレイド、行くぞ」
ケビンがツインヘッドウルフを見つけ、メルキオに指示を出し、ガレイドと走っていく。
「メルキオ!援護してくれ。セイラはガレイドの回復を」
他の魔物が邪魔しないようにしておけば、ケビンとガレイドが簡単に倒すだろうと気を抜いていたメルキオに、ケビンから戦闘に参加するように指示が入る。
メルキオが言われて戦闘している方をちゃんと見ると、ガレイドが片膝をついており、ケビンが一人でツインヘッドウルフを抑えていた。
「神の裁きを。サンダーボルト!」
メルキオはとりあえずの詠唱で手から電撃を飛ばして、ツインヘッドウルフを感電させる。
「助かった。上位個体だ。変異種かもしれない」
ケビンがメルキオに伝える。
「そのようですね。普通のツインヘッドウルフであれば、今の一撃で倒せているはずです」
サンダーボルトが直撃したツインヘッドウルフは、感電して硬直しただけで、深いダメージが入っているようには見えない。
「一度体勢を立て直す。ガレイドの回復が終わるまで無理せず時間を稼ぐぞ」
メルキオも前に出て、ケビンと二人でツインヘッドウルフの注意を引く。
「すぐに治します。動かないでください。浄化の光よ、傷を癒せ。ヒール!」
二人が時間を稼いでいる間に、セイラがガレイドの傷を治す。
「おい、まだか!早くしてくれ」
ツインヘッドウルフの猛攻を凌ぎきれずにいるケビンが叫ぶ。
「見た目より傷が深いのよ。まだ掛かるわ。神よ、この者に祝福を与え────傷を癒せ。ハイヒール!」
一度の治癒魔法で治りきらず、セイラは長い詠唱を唱える選択をして、次は中位の治癒魔法をガレイドに掛ける。
ケビンがボロボロになりながらもなんとかガレイドの治療が終わるまで時間を稼ぎきる。
「すまない。待たせた」
ガレイドが戦闘に復帰し、セイラも加わって四人掛かりでツインヘッドウルフを倒す。
「我のせいですまない」
ツインヘッドウルフが完全に息絶えたところで、ガレイドが頭を下げる。
「変異種が相手だったのだから気にするな。それよりも、こいつの魔石が二属性付きなことを祈ろうぜ」
「これだけの個体が属性無しということはないでしょう。期待できますね」
「少なくとも氷属性付きがいいわね」
ここにガレイドを責める者はおらず、それよりも手に入る魔石のことが気になっている。
ケビンがツインヘッドウルフの腹にナイフを差し込み、魔石を取り出す。
「何色ですか?」
メルキオが興奮気味に聞く。
「…………。」
ケビンはメルキオの言葉が聞こえていないのか答えない。
「勿体ぶらないで教えてよ」
セイラはケビンが焦らしているのだと思い、早く教えるように言う。
「……無属性だ。属性は付いていない」
ケビンはショックのあまりかすれた声で答えることしか出来なかった。
「あれだけの個体の魔石が無属性だなんて……私達は相当運が悪いようですね」
メルキオもショックは隠しきれていないが、変異種だから属性付きの魔石が手に入るとは限らないことは理解しているので、運が悪かったと自分自身にも言い聞かせる。
「残念だけど帰りましょう。疲れたわ」
セイラ自身もショックではあるが、この場の空気が重すぎるため、三人に気を遣って自身の気持ちを押し殺す。
「そうですね。帰りましょう。ケビン、その装備は大丈夫ですか?」
メルキオがボロボロになったケビンの鎧を見て、修理可能なレベルなのか確認する。
「どうだろうな。直るとは思うが、鍛冶屋に持っていかないとなんともいえない」
ケビンの鎧はへこんだというレベルではなく、簡単に脱ぐことが出来ないレベルにまで変形していた。
「それよりも、致命傷は受けていないが全身痛いんだ。回復してくれ」
ケビンの身体には所々にアザが出来ている。
「魔力が切れてしまって発動出来ないわ。馬車に薬草を積んであったはずだから、それまで我慢して」
セイラの魔力は、ガレイドの治癒とツインヘッドウルフへの攻撃魔法で尽きていた。
「仕方ない。そこまで我慢する。しかし、セイラの魔力がなくなるとは驚きだな」
「ペース配分を間違えていたわ。戦闘後に治癒する分は残しておくつもりだったけど、ごめんなさい」
セイラはまだまだ魔力に余裕があると思い、バンバン魔法を放っていた。得意としない攻撃魔法を何度も発動した為、威力の割に魔力は消費していた。
「死人が出たわけじゃないから、責めるつもりはない。ただ単にセイラの魔力が無くなったことが珍しいと思っただけだ。目的は達成したことだし、帰ろう。装備を直すのに金は掛かるが、それでも今回もプラスだ。こういうこともある」
ケビン達は不満を残しつつも、各々自分に言い聞かせて森を後にした。
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