第3話 推薦
推薦の話を逃さないように、近場の簡単な依頼をやりつつ連絡を待っていたケビン達セブンスドレイクが依頼の報告をした際、受付嬢から知らせることがあると言われる。
「先日、ギルド内会議が行われました。会議の結果、ギルドはセブンスドレイクをBランクに推薦することとなりました」
「Aランクの推薦はないのか?」
Cランクまで落ちることは無くなったのだから悪い話ではないのだが、そもそもBランクにも降格したくないケビンは不満を口にする。
「ありません」
「なんでだ!?俺達にAランクとしての実力がないと、そう言いたいのか?」
「私に言われましても困ります。ただ、Aランクの推薦が得られない理由はお答え出来ます。アルスさんが抜けられてから、Aランク冒険者に推薦する為の実績がありません。アルスさんが加入する前にも実績はありませんので、ギルドとしては推薦を見送っています。Bランクの推薦はブルーオーガの群れの実績による評価です」
「アルスはほとんど役に立っていない。アルスがいてもいなくても、俺達が出来ることは変わらない。十分に実績はあるはずだ」
アルスの有無で実績が無いと言われても、それはケビン達にとって納得の出来ることではない。
「実際にそうなのかもしれませんが、ギルドとしては今のメンバーでの実績で評価致します。また、会議は既に終わられていますので、結論が変わることはありません」
「なら、どうして先日そう説明しなかった。説明されていれば実績を作ってきた」
「ギルドの推薦に関しては、ギルドの規則としてあちらに掲示してあります。登録されたばかりの新人冒険者であればギルド規則があそこに書かれているから見るようにお伝えしますが、Aランクの冒険者に伝える必要はありましたでしょうか?」
普段から丁寧な言葉遣いを心掛けている受付嬢も、言葉の節々に毒が混じる。
「だとしても一言言うくらいは出来ただろう」
ケビンは受付嬢にイラつきをぶつける。
「ケビンさん達はギルド規則を読んで把握していないと、そうおっしゃっているのですか?」
受付嬢がセブンスドレイクに確認する。
「読んで把握しているやつなんていないだろ」
ケビンは興奮したまま答える。
「ちょっと待って。今のはリーダーが言っただけよ。私はちゃんと読んでいるわ」
「私もです。今回の件にギルドの落ち度があったとは考えていません」
セイラは慌ててケビンと意見は違うと否定し、メルキオも同意する。ガレイドは二人が慌てている理由が分からず傍観したままだ。
「ケビンさん個人が見る気がないということですね。それでは、セブンスドレイクにではなくケビンさん個人に罰点を付けます」
「なんでだよ!」
驚きを隠せないケビンに対して、セイラとメルキオはホッとする。
「リーダー、ギルド規約は必ず読むように登録した時に言われなかったの?規約を破れば罰点や除名処分があるのは当然だけど、規約を読まないのも罰点の対象だと説明を受けているはずよ」
セイラはケビンがこれ以上失態をさらす前に、おかしな対応はされていないと伝える。
「こちらに、規約を読めば答えられる設問が書かれています。十日後までに答えを記入してギルドに提出してください。提出されなかった場合、一日につき一点罰点が加点されます」
受付嬢は引き出しから紙を取り出しケビンに渡す。これは、新人冒険者が規約をちゃんと理解しているか確認する為の設問が書かれた紙ではあるが、こういった時に規約を読んだという確認の為にも使われる。普段は規約を読んでいなかったり、忘れていたとしても口頭で注意するだけにすることが多いが、ケビンの先程までの言動を不快に思っていた受付嬢は容赦なく罰点を付けた。
「読んで書けばいいんだろ。わかったよ」
パーティメンバーも味方になってもらえない以上、ケビンは受付嬢の言うことを聞くしかなかった。
罰点だけ付けられて、ランク降格の件に何も進展がないままケビン達はギルドを後にする。
Bランク降格まで後二十日を切った頃、ギルドからAランク冒険者のグレイスが依頼を受けてくれたとの連絡がセブンスドレイクのもとに入る。
グレイスの都合に合わせて、翌日にギルドの一室を借りて、ケビン達はグレイスと推薦を貰うために話をする。
約束通り、ギルド職員も同席している。
「グレイスだ。よろしく」
「俺はケビン。こっちからセイラ、ガレイド、メルキオだ。よろしく頼む」
ケビンとグレイスは挨拶として握手する。
「早速で悪いのだが、パーティメンバーが一人抜けたことで、Aランクへの推薦が無くなって困っている。俺達を助けると思って推薦をしてもらいたい」
ケビンは早速本題に入る。
「セブンスドレイクの名は俺の耳にも入っている。Aランクとしての実力に不足はないだろう。冒険者仲間として推薦しても構わないと思ってはいるが、その前に聞きたいことがある」
「なんでも聞いてくれて構わない」
「パーティメンバーが抜けたと言ったが、死んだのか?言いにくいことであれば言わなくてもいい」
セブンスドレイクの名前は知っているが、詳しいことまでは知らないグレイスは抜けたメンバーのことを尋ねる。
「いや、そいつは俺達がDランクだった頃に加入したんだが、Aランクとして俺達に付いてくることが出来なくなったから、別れて活動することになった」
「突発的に抜けたわけではないということだな。それなら何故、前もって抜けた場合にランク降格とならないか確認しなかったんだ?そうすれば、今みたいに慌てることはなかったはずだ」
「昇格の際に、推薦の話を持ってきたのは今回抜けた奴で、推薦がパーティにではなく個人にされていることは知らなかったんだ」
「普通は確認のためにギルドに確認するのだが、まあいいだろう。推薦してやるが、条件が二つある」
「出来ることであれば、なんでも聞く」
「推薦された者が一年以内に問題を起こした場合に、推薦した者に罰金が科せられる。最大で金貨五枚だ。それから、推薦された者が一年後の時点でやむを得ない事情なくAランクの実力無しとなった場合にも推薦された者に罰金が課せられる。こちらは金貨十枚だ。俺はそれらを背負ってまで君達を推薦したいとは思わない。だから、ギルドに担保として金貨十五枚預けてもらい、こちらに罰金の支払い命令が来た場合にはそこから支払わせてもらう」
「金貨十五枚も手持ちがないな」
Aランクではあるが、5年という短さで駆け上がったセブンスドレイクにはそれだけの貯蓄はなかった。
急激に収入が増えたことで財布の紐が緩んでいたこともあるが、ランクに合った装備に買い替えたことも理由としてある。
「Aランクであればギルドから金貨三十枚まで借りれるはずだ。ただ、金を借りてまでAランクに拘らなくとも、手間ではあるがBランクとしてしばらく活動し、Aランク昇格の為の実績を再度得て、ギルドに推薦してもらったほうがいいのではないか?とは言っておく」
「すぐにAランクには戻れるだろうが、Bランクに降格したという記録は残る」
「他のパーティのことに口を出すつもりはないから、先輩冒険者からのお節介と流してもらって構わない。それからもう一つの条件だが、推薦する謝礼として金貨二枚貰う。君達が問題を起こした場合の罰金はそちらで持つことになるが、罰点までそちらに付けることは出来ない。これは、リスクを負うことに対するリターンだと考えてくれ」
「少し相談する時間が欲しい」
金貨二枚という大金を支払うかすぐに決められなかったケビンは、グレイスに返事を待ってもらえないか確認する。
「前もって契約書と推薦状は作成しておいた。先程こちらが出した条件を盛り込んだ契約書だ。俺の推薦を受けるということであれば、契約書にもサインして、推薦状と一緒に契約書もギルドに提出してくれ。ノックスさん、セブンスドレイクの方が推薦状だけを持ってきた場合には受理しないようにギルド長に言っておいてくれ」
グレイスはケビンの前に紙を二枚置き、同席していたギルド職員のノックスに伝言を頼む。
「承知しました」
ノックスは返事をする。
「他に話がなければ俺は帰るが、これで今日の依頼は達成したということでいいか?」
グレイスはケビンに確認する。
「ああ、時間を取らせて悪かった」
「それじゃあ、またな」
グレイスは手を振って部屋を出て行く。
「少し話をしたい。この部屋を借りていてもいいか?」
ケビンはノックスに確認する。
「少しの間でしたら構いませんが、予定もありますので一時間以内には部屋を空けてください」
「わかった」
「先程の話で、一つ補足をさせて頂きます。ギルドでお金をお貸ししてはいますが、貸した額の10パーセントを利息として頂いています。借りられる場合には、お忘れないようにお願いします。では、私も失礼します」
ノックスは補足だけして部屋から出て行く。
「金貨十五枚は返ってくる金だからいいとしても、利息も含めて金貨三枚と大銀五枚は大金だ。あそこで返事をしてもよかったが、一応お前らの意見を聞いておく」
後々、自分の独断だと文句を言われないように、ケビンは三人の意見を聞く。
「今、パーティの資金はいくらあるの?」
セイラが質問に答える前に確認する。
「正確には受付で確認しないとわからないが、大体金貨十枚だ」
「それなら、推薦を受けるのがいいと私は思うわ。一年後にAランクの実力がないとすれば、それは誰かが死んだ時くらいよ。その場合は流石にやむを得ない事情に該当するはずだから、何か問題を起こしたとしてもかかる費用は金貨八枚と大銀貨五枚ね。借金といっても、払う可能性が実際ある額は持っているのだからなんとでもなるわ」
セイラは金を払ってでもAランクに残るべきと答える。
「私も同意見ですが、金貨十五枚全て借りる必要はないでしょう。必要なのは謝礼も含めて全部で金貨十七枚ですので、足りない分の七枚と、何かあった時の為に一枚は残して、八枚だけ借りるのがいいかと思います。それから、個人で余裕があるのであれば、一人金貨二枚ずつ出せばギルドから借りる必要もないでしょう。稼いだ時に大銀貨二枚も付けて戻した方が、ギルドに利息を払うよりも得です」
メルキオも、Aランクから降格するという考えは否定した上で、ギルドにいくら借りるかは考えた方がいいと提案をする。
「確かにそうだな。ガレイドは?」
「見下されるのは我慢ならないな」
ガレイドも降格を認めない意思を示す。
「全員一致で決まりだな。後はメルキオの意見だが、ギルドに利息分を払うか、パーティメンバーに払うかの違いしかない。よって、全員が必ず出す必要はない。出せば今自由に使える金は減るが、金が貯まった時に大銀貨二枚多く返ってくる。出したい者は出せばいい。俺は財布から出す」
「私も出しますよ」
提案したメルキオは当然自身の財布から金を出す。
「我も払おう。肉を買えればそれ以上持っていても使わぬからな」
ガレイドも払う。
「私は払えないわ。新しい服を買ったばかりで余裕がないから」
セイラは払いたくても払えず、断る。
「セイラさんが払わないのであれば、その分も私が払いましょう。よろしいですか?」
メルキオがセイラの分まで払うと言う。
「構わないわ。ギルドに借りても、メルキオに借りても私にとっては同じよ」
「今、手持ちはあるか?」
ケビンがメルキオとガレイドに確認する。
「私は実家の方に隠してありますので、すぐには無理です」
「持ってるぞ」
ガレイドは大金を持ち歩いていたが、メルキオはパーティメンバーが寝泊まりしているシェアハウスではなく、今は親が暮らしているだけの実家に金を隠していた。
「取りに戻ると、二日くらいか?」
メルキオの実家は王都から少し離れた村にある。遠くはないが、往復にはそれなりに時間が掛かる。
「そのくらいだ。飛んでいくつもりだから、早ければ明日の夜には戻ってくる」
「それなら遅くとも三日後には問題が片付くな。メルキオが戻ったところで、担保をギルドに渡してグレイスからの推薦状を提出する。これでAランクから落ちることはない」
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