第2話 降格の危機

「降格というのはどういうことだ!?」

 ケビンは立ち上がり、ギルド職員に詰め寄る。


「誤解があるようですので、まずは最後まで話を聞いてください。すぐにBランクに降格となるわけではありません。未達成となった条件を満たせない場合には降格となります。猶予は三十日となります。また、Bランクの条件も満たされておりませんので、さらに三十日後、Cランクに降格となります。降格されましても、条件をもう一度全て満たせば昇格出来ますのでご安心ください。それでは、セブンスドレイクの方達のご用件をお伺いします」

 職員は規則に則ったことを淡々と説明し、一枚の紙をテーブルに置く。そして、この話はこれで終わりだと言わんばかりに話を変える。


「なんでアルスがいなくなっただけで降格されないといけないんだよ!」

 話を聞いても納得のいかないケビンは、職員をさらに問い詰める。


「昇格の条件を満たしていた項目の一部に、セブンスドレイクではなく、アルスさん個人が達成した項目があるからです。詳しくはそちらの紙に書かれております。ご確認の上、不明な点があればギルド長、又は副ギルド長にお願いします。こちらの話は私に聞かれましても、規則を無視することは出来ませんのでご容赦ください」

 職員は下手に出ているが、これはギルドがクレーマー対策として教育を受けていることを実践しているだけだ。冒険者に暴れられたら、ギルドで働く者は命がいくつあっても足りない。だから、問題は上に丸投げして、まずは自身にヘイトが向かないようにする。


「……わかった。こちらの用件だが、戦闘はしなくていいから、旅の準備や料理などの雑用をする者を雇いたい。ギルドで誰か紹介してくれ」

 このまま一職員と話していても事態が好転することはないと察したケビンは、納得のいかないまま返事をして、自分の用件を話す。


「かしこまりました。ギルド長に誰か適任がいないか確認しておきます」

 職員は少し言葉に詰まった後、何もなかったかのように答える。


「頼んだ」

 職員が事務所に戻った後、ケビンは置いていった紙を確認して読み上げる。


「なになに、満たしていない項目はAランク以上の冒険者、又はギルド長の推薦だそうだ。Bランクの方はBランク以上の冒険者、又はギルド職員の推薦だとよ。なんでこれがアルスが抜けて満たされていないことになるのか知らないが、ギルド長に一言推薦すると言わせればいいだけだな。面倒だが問題はないだろ」

 ケビンは問題を深く受け止めず、紙をテーブルに置き、食事を再開する。



「ギルマスと話がしたい」

 飯を食べ終え、レッドオーガとブルーオーガの討伐依頼の報告を終えた後、ケビンは受付カウンターでギルド長と話がしたい旨を伝える。


「ご用件をお聞きします」


 ケビンは先程ギルド職員から言われたことを伝えて、Aランクへの推薦をもらう為だと伝える。


「少々お待ち下さい」

 受付嬢はファイルを取り出して内容を確認する。


「セブンスドレイクの名前はありませんので、ギルド長及び、ギルド職員の推薦はありません」


「それはわかっている。推薦してもらうのにギルド長と話をさせてくれと言っているんだ」


「ギルドのランク昇格への推薦は、実績をもとに月頭の会議で決められます。話をされても結果が変わることはありません。話が変わることがあれば、不正行為としてギルド長も処罰を受けます」


「お前じゃ話にならない。責任者に代わってくれ」

 ケビンは明らかにイラつきながら、上の者を呼ぶように言う。


「ちょっとリーダー、あまり問題を起こさないで。もう罰点を付けられたくないわ」

 セイラがケビンをたしなめる。先程罰点が付いたばかりだ。このまま騒げばまた罰点をくらう可能性がある。


「くそ!もういい。ギルド長には俺達が推薦を受けたい旨伝えておいてくれ。それから、パーティにではなく、アルス個人を推薦していたという人物を教えてくれ」

 ケビンは仕方なく引き下がる。


「少し誤解があるようなので訂正します。アルスさん個人ではなく、アルスさんが所属しているセブンスドレイクに推薦がありました。その為、アルスさんが抜けられたことで一時的に推薦が取り消されている状態です。推薦していたのはSランク冒険者パーティ『フォーナイト』のリーダーであり、自身もSランク冒険者である賢姫リディアさんです。Bランク昇格の際に推薦したのも同じくリディアさんで、Sランクへの推薦をしていたのもリディアさんになります」

 ケビンは誰がアルスを特別扱いしているのか不思議だったが、答えを聞いて納得する。賢姫は学院の中等部に進学してから学内トーナメントを三連覇した天才だ。年はアルスの四つ下になるがリディアは飛び級しており、同じ時期に学院に通っていたことで何か交友があったのだろう。度々、賢姫はアルスの様子を見にきていた。


「わかった。Aランク以上の冒険者の推薦があれば何も問題ないんだな」

 ケビンは後から間違いでしたと言われないように念押しする。


「はい。もちろんです」


「それじゃあ、AランクかSランクの冒険者を紹介してくれ」

 高ランク冒険者の知り合いがいないケビンは、ギルドに仲介を頼む。


「依頼としてお受けしてよろしいでしょうか?」


「……ああ。金は払う」

 ギルドが一部の者を特別扱いすることがないことは、先程の話で理解したケビンは、金を払うことを了承する。


「かしこまりました。Aランク以上の方を対象に、セブンスドレイクの方と会って話をするという内容の依頼でよろしいでしょうか?推薦の件だということは記載しますが、依頼を受けても推薦を確約するものではありません。推薦するかどうかは依頼を受けた方の自由となります。よろしいでしょうか?」


「依頼を受けたやつが推薦を断った場合、依頼料はどうなるんだ?」


「依頼はセブンスドレイクの方と会って話をすることです。話をする気がないということであれば、依頼失敗となりますが、話を聞いた上で推薦しないと結論付けたのであれば、問題なく支払われます」


「相手にその気があったのかどうかは、誰が判断するんだ?」


「心配されるのであれば、ギルド職員を同席させましょうか?双方に認識に食い違いがあった場合には、同席した職員からギルド長に話をして判断を仰ぎます」


「そうさせてくれ」


「かしこまりました。ご希望の結果を得られなかった場合、同じ依頼をお受けすることは出来ますが、依頼料はその都度掛かりますのでご理解ください」


「わかった」


「それでは、依頼書を作成いたしますので、詳しい条件をお聞きします」

 ケビンは受付嬢に希望を伝える。


「ケビンさん。この額で受けてくれる方は見つからない可能性が高いと思われます。時間があるのであれば何も言いませんが、時間が限られているのであればもう少し報酬を増やした方がいいかと思います」

 受付嬢はケビンが言った内容に驚きながらも、まずは言われたまま依頼書を作成し、問題があることはちゃんと伝える。


「会って話をするだけだろ?」

 ケビンは少なくない額を提示したつもりでいたので、受付嬢が言ったことに理解が出来ずに聞き返す。


「ケビンさんが頼もうとしているのはAランク以上の冒険者になります。話をするだけでも、その日は依頼を受けて稼ぎに行くことが出来なくなります。少なくとも半日は空けておかなければならなくなりますから。Aランク冒険者の方はケビンさんが提示した額の五倍は一日で稼げます。相手にセブンスドレイクと接点を持ちたい等の理由が無ければ、受けようとは思わないでしょう」

 受付嬢は丁寧に説明する。内心では、自分もAランクパーティなんだから受けないことくらいわかるだろ!と思っているが、そんなことは顔に出さない。


「確かにそうだな。相場としてはいくらが妥当だと思う?」

 時間が限られているケビンは、報酬を上げた方がいいという受付嬢の助言を聞くことにする。


「三十日という期限があることを考えると、先程の十倍の大銀貨二枚が良いかと思います」

 大銀貨が一枚あれば、贅沢しなければ一月はなんとか生活出来るだろう。それが二枚となればかなりの出費となる。


「痛手だが仕方ない。それで頼む」

 実際、セブンスドレイクにとっても大銀貨二枚は大金で痛手ではあるが、これまでAランクパーティとして稼いだ金はある。

 これでBランクに降格しなくて済むなら必要経費だと思うしかない。


「それでは、こちらを依頼ボードに貼っておきます」


「Aランク以上の冒険者に依頼の話をしてもらってもいいか?」

 貼ってある依頼書よりも、受付嬢から話をしてもらった方が可能性は高くなるのは必然だ。


「ギルドへの仕事として費用を頂きますがよろしいでしょうか?……そうですね。このくらいでどうでしょうか?」

 受付嬢はサラサラと契約書を作成して、ケビンに渡す。

 ギルドに大銀貨一枚支払い、それとは別に、受付嬢が話をしたことで依頼を受けることになった場合には、担当した受付嬢に大銀貨一枚支払うという内容になっている。つまり大銀貨二枚払うという契約だ。

 橋渡しをした受付嬢にボーナスとして渡すことで、積極的に話をしてもらうという狙いがある。


「それでいい。預けている金から引いておいてくれ」

 ケビンは契約書にサインして受付嬢に返す。


「それでは、依頼を受ける方が現れましたらご連絡致します」

 金は掛かったが、これで問題はなくなると安心してケビン達はギルドを後にした。

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