魔法の威力が低いと追い出しましたが、パーティの要はそいつでした

こたろう文庫

第1話 追放

「アルス。お前をパーティから追放する。理由はお前が1番わかっているだろう」

 酒場で『セブンスドレイク』のリーダーで魔法剣士のケビンは、アルスに追放することを告げる。


「わからないよ。一緒に戦ってきた仲間じゃないか」

 アルスは自分が追放されることが信じられず、驚きながらケビンに聞き返す。


「Dランクだった頃はお前の魔法も役に立ったが、今俺達が相手にしている魔物はお前の手に余る。今日のレッドオーガの群れの討伐、俺達は少なくとも20体は倒した。俺は50体以上倒している。お前は何体倒した?」

 ケビンはエールを飲みながら、アルスを馬鹿にするように結果を確認する。


「1体だけだけど、それには理由があっ」

「言い訳は聞きたくねぇ。仲間だと言うなら、少なくとも俺達の半分の10体は倒してみろ。それに、お前が倒した1体だって、どうせ俺達の誰かの攻撃で死にかけたやつにとどめを刺したとかだろう。ここにお前を仲間だと思っているやつはいない」

 ケビンはアルスの言葉を途中で遮り、アルスが仲間ではないと断言する。


「セイラは違うよね。僕は仲間だよね?」

 アルスが治癒士であるセイラに確認する。アルスはセイラと仲が良かった。そう本人は思っていた。


「治癒士の私でも倒せる魔物に苦戦するあなたをこのパーティに入れておくことは出来ないわ」

 セイラは答える。


「メルキオとガレイドも?」

 アルスはわずかな可能性に懸けて、残りの2人にも確認する。


「このパーティに魔術師は2人も不要です。お前が出来ることは賢者である私にも出来ます」

 賢者を自称する魔術師メルキオは、つまらないモノを見るように淡々と答える。


「ガハハハ。貴様が我の仲間とは、面白い冗談だ」

 獣人のガレイドは腹を抱えて笑う。


「仲間だと思っていたのは僕だけだったんだね」

 アルスは俯いて呟く。


「そうだ。やっと気付いたか。お前は仲間のフリをして報酬を受け取るただの害虫だ。わかったら失せろ」

 ケビンはシッシと手を振り、アルスに目の前から消えるように言う。


「わかったよ。僕は今まで楽しかったよ」

 アルスは散々バカにされながらもお礼を言って立ち上がり酒場を出ようとする。


「待てよ。お前が不当に受け取っていた金は置いていけ。装備もだ」

 ケビンはテーブルをトントンと人差し指でつつきながら、アルスに金目の物を置いていくように言う。


「不当になんて受け取ってないよ。それに、この装備にパーティのお金は使ってないよ」

 アルスは拒否する。実際には不当どころか、アルスには報酬の1割も分配されていなかったが、それを知っているのはリーダーのケビンと、それに気付いて加担したメルキオだけだ。


ドンッ!

「役に立っていないお前が正規に受け取れる金があったと本気で言っているのか?黙って置いていけ。それとも盗人として突き出してやろうか?」

 ケビンがテーブルを叩き、アルスを脅す。


「わかったよ」

 アルスは持っていた巾着袋と、身に付けていた杖とローブをテーブルの上に置く。


「足りないが、俺も悪魔じゃない。全て返してもらうとなると奴隷落ちしてもらうしかないが、それは許してやる」

 アルスは悔し涙を流しながら酒場を出ていく。


「ガハハハ。これで心置きなく戦えるな」


「あれでも本人は役に立っていると本気で思っていたようだからな。滑稽だ」


「そんなこともわからない愚か者だから、あの程度の実力なのです」


「あれでも役に立ったことはあるぞ。盾としてな」


「あれは私にも真似できません。盾にされても自分が周りにどう思われているのか気付かないとは、どれだけ馬鹿だったのでしょうか」

 アルスがいなくなってからも、アルスを中傷する言葉が後を絶たない。


「身ぐるみを剥ぐような真似をするなんて聞いてないわよ」

 セイラが場の空気を無視してケビンを非難する。


「あいつに俺達に復讐するような力があると思うのか?」

 ケビンは場の空気を悪くする事を言ったセイラに対してイラつきを見せる。


「アルスが何かするとは思ってないわよ。でも、アルスなりに今まで頑張っていたものまで奪わなくてもよかったと言っているの。それに、アルスはあの子のお気に入りでしょ?」


「昨日話しただろう。俺達ももうすぐSランクの仲間入りだ。今まではあいつのヘイトを買わないようにアルスに良くしてやったが、同じSランクになれば立場は同じだ。今までのようにヘコヘコとする必要はない」


「Sランクね。リーダーの面子も考えて止めなかったけど、あそこまでやる必要はやっぱりなかったと思う。今日は帰るわ」

 セイラは席を立って店を出る。


「行かせてよかったのですか?」

 メルキオがケビンに聞く。


「一晩寝れば俺が間違ってないとわかるだろう。それよりも今後のことだ。ギガントドラゴンを倒せば俺達はSランクだ。強敵ではあるが、おもりをしなくてよくなった。負けることない」


「少々気が早いですね。油断していい相手ではありませんよ」

 メルキオが言う。


「油断するつもりはない。冷静に考えても負ける要素が見当たらないというだけだ。ただ、唯一気を付けなければならないのは、ギガントドラゴンに逃げられること。負けることは無いが、街にでも逃げられたら、Sランクどころか罪人にされる」


「私が結界を張って逃げられないようにしますので、その心配は不要です」


「それじゃあ、今受けているオーガ討伐を終わらせたら、ギガントドラゴンがいるらしいユドラ渓谷に向かうか」


「レッドオーガはあらかた殲滅しましたので、後はブルーオーガ側だけですね。同じオーガ同士で縄張り争いなんてしなければ、私達に殺されることもなかったでしょうに」


「ガハハハ。ちげえねぇ」


「パッパと終わらせて、本命に集中しないとな」



 夜遅くまで酒を飲んだセブンスドレイクの面々は翌日、ブルーオーガの群れの討伐をする為、王都カルディアから馬車で半日走った所にある『ドレイルの森』へと向かう。


「流石に飲み過ぎたようだ。解毒の魔法を掛けてくれないか」

 ケビンはこめかみを触りながらセイラに頼む。


「ケビンが二日酔いなんて珍しいわね。さっきメルキオにも言われたし、流石に昨晩はハメを外し過ぎたということね」

 セイラは昨日のことを忘れてはいないが、メンバー同士でいがみ合っていても良いことはないと分かっているので、忘れたことにして接する。


「そうだな。まあ、昔だったらあれだけ飲んだら吐いている。そう思うと、酒に強くなった」


「穢れしものを排除せよ。デトックス!……はい。これで楽になったでしょ」

 セイラが杖をケビンに向けて魔法を使い、薄黄緑色のモヤがケビンを包み込む。


「ああ、ズキズキしていた痛みが消えた。助かった」


「私の魔力量は人並外れて多いけど、あまり無駄に使わせないでよね」


「気を付けるとする。ただ、セイラの魔力が切れるとは思えないがな」


「私程の治癒士なんて、国中探しても数えるほどしかいないのだから感謝してよね」


「もちろん感謝している。以前、千切れかけた俺の腕を治してもらったことも忘れていない」


「それならいいのよ。私も前線で戦うケビンを頼りにしているわ」


「任せろ。そういえば、アルスの奴は魔法を放つのに詠唱をしていなかったな」


「あれは最高等技術よ。私にも真似は出来ないわ。メルキオはアルスに出来ることは自分も出来ると言っていたけど、無詠唱は無理よ。ただ、無詠唱で魔法を使えても、威力があれでは使い物にならないから残念ね」


「もっと下位のパーティなら、あいつを拾ってくれる連中もいるだろうよ」


「そうね……」



 昼過ぎに、セブンスドレイクはドレイルの森へと到着する。


「どうする?このまま森に入るか、一度ここで休むか」

 馬車を停めた後、ケビンが意見を求める。


「馬車の揺れが大きかったのか、少しお尻が痛いわ。怪我ではないから魔法でも痛みは引かないし、少し休みたいわ」

 セイラがお尻をさすりながら言う。


「軟弱だな。我は今すぐにでも突入出来るぞ」

 ガレイドがセイラの意見に反論する。


「私もこのまま森に入っても問題はありませんが、ブルーオーガに遅れを取ることはないにせよ、想定していない魔物に襲われる可能性はあります。少し休むのも悪くないとも思います」

 メルキオはセイラに賛成寄りの中立の意見を出した。


「わかった。ガレイドには悪いがここで少し休むことにする。王都に着くのが昼頃になるが、そこは我慢しよう」

 ケビンが三人の意見を聞いた上で休む事に決める。



「メシを俺達で作らないといけないのか。今まではアルスにやらせていたから、これは面倒だな」

 ケビンが文句を言いながら火をつける。


「雑用を雇ってもいいかもしれませんね。アルスに任せっきりでしたから、テントをどう立てるのか思い出さないといけません」

 メルキオがテントと睨めっこしながら提案する。


「そうだな。戻ったら誰かいい奴がいないかギルドで聞いてみるか。戦えなくても、準備だけさせて馬車で待機させておけばいいからな。その分安く済むだろう。それよりも、メシの用意をしたいんだが、食糧をどこに積んだんだ?」

 ケビンは馬車に積んである荷物を漁りながらセイラに問いかける。


「なんで私に聞くのよ」


「アルスが加入するまでは、お前が食材を調達する係だっただろ?」


「いつの話をしているのよ。アルスを追放することにしたのはリーダーでしょ?アルスがいなくても困ることはないって言ったんだから、リーダーがアルスがやっていた準備をするのが当然よ」

 ケビンとセイラで意見が食い違う。


「ここで言い争っても仕方ない。雑用係を雇うまでは俺が準備をする。その分俺が報酬を多くもらうが、異論のある者はいるか?……いないな」

 ケビンは周りを見渡し、反論がないことを確認する。報酬が減ったとしても雑用をやりたい者はここにはいなかった。


「食うものがないのであれば、休まずに森に入った方がよいのではないでしょうか?」

 メルキオが呆れたように言う。


「そうだな。休憩は終わりだ。パッとブルーオーガを倒して帰るぞ」

 アルスがやっていた雑用を忘れていたのはお前もだろう!とケビンは思ったが、言い争ってもその分王都に帰るのが遅くなるだけなので、グッと堪えて、すぐに森に入る決断をする。



 森に入って、先日とは逆の方向に向かったケビン達は、ブルーオーガの群れの住処を見つけ、戦闘を始める。アルスが抜けても隊列に変更はなく、ケビンとガレイドが前線、中衛にセイラ、後衛にメルキオという隊列だ。


「おい!そっちに一匹逃げたぞ!」


「任されました。黒き灼熱の炎よ────全てを焼き払え。ヘルファイア!」

 前衛の二人を掻い潜って、ブルーオーガの一体がセイラの方に向かい、メルキオによって焼き尽くされる。


「ブルーオーガ一体くらいなら、私でも対処出来たわよ」

 セイラにはメルキオに助けてもらったという気持ちはなく、むしろ獲物を横取りされたと感じていた。


「それはわかっています。それでも治癒士を守るのも後衛の魔術師の役目ですので。先日同様、ある程度片付けた後はあなたにも獲物が回るようにしますよ」

 メルキオはセイラを立てつつ、自身の行動を肯定する。



「このくらいでいいだろう。アルスはいないんだ。解体はお前らも手伝え」

 ブルーオーガの群れの大半を討伐したセブンスドレイクの面々は、ナイフを手に取り、ブルーオーガの胸から魔石の回収を始める。

 セイラは手が汚れることに嫌悪感を感じるが、断れる程の理由ではないので、渋々ケビンの指示に従いブルーオーガの胸にナイフを突き刺していく。



「所詮Bランクの依頼だから楽勝だったが、レッドオーガに比べると大分骨があったな」

 王都に馬車を走らせながら、ケビンは先程の戦闘の反省会を始める。


「レッドオーガよりもブルーオーガの方が強かったということですね。どちらも単体ではCランクの魔物ですが、その中でもB寄りD寄りがありますから」

 メルキオが答える。


「それでも、かすり傷程度しか負っていないし誤差でしょ。結局、今日も私の出番はなかったわ」

 セイラが不満を漏らす。


「セイラに大きな仕事が回ってくる時はピンチだということだ。治癒士は暇しているほうがいいんだよ」

 四人ともが、レッドオーガよりもブルーオーガの方が格上だったとしか思わず、先日との一番大きな変化点であるアルスが抜けたことによる影響だとは考えもしない。


「もうお腹ペコペコよ」

 セイラがお腹に手を当てながら声にする。


「王都までの我慢だ」


「腹が減ったなら遠慮せず食え」

 御者をしていたガレイドがヘビの肉をセイラに渡そうとする。焼いてもいない生の蛇肉だ。


「いらないわ。否定するつもりはないけど、人と獣人では食文化が違うの」

 セイラは断る。蛇肉を生のまま食べるより、これくらいであれば空腹の方がマシだからだ。


「食糧を積み忘れたのだから仕方ありませんよ。もしかしたら、ブルーオーガの方が強く感じたのも空腹が原因だったのかもしれませんね」


「これ以上掘り返すつもりなら、お前に準備をやらせるぞ。出発前に確認しなかったのはお前も同じだ」

 明らかに自分に落ち度はないという態度で話をするメルキオに、ケビンはイラつきを見せる。


「不快にさせたこと謝らせてもらう。全ては仕事の引き継ぎもせずに惨めに出ていったアルスが悪い。この件はそういうことだと私は思っていました」

 メルキオは頭を下げた後、追放されて引き継ぎどころではなかったアルスに責任を押し付ける。


「そうだ。全てあいつが原因だ」

 自身に非があったと自覚をしていたケビンは、都合のいいメルキオの話に同意する。


 雑用係を雇う必要があるということ以外、意味のない反省会を終えたケビン達は、馬車を走らせながら順番に仮眠を取る。



 翌朝、王都に着いたケビン達は、すぐに冒険者ギルドに入る。そして、依頼報告は後回しにして併設されている酒場の席に座る。ここは酒場ではあるが、依頼に行く前に食事が出来るように、朝早くから定食の提供もしている。


「セブンスドレイクのリーダー、ケビンさんですね。お話があります」

 ケビン達が飯を食べていると、ギルドの職員が声を掛ける。


「俺達もちょうど用があったんだ。腹が減っててな。食いながらでもいいか?」

 ケビンは雑用係として、ギルドに誰か紹介してもらうつもりでいた。


「確認したいことと、お伝えすることがあるだけですのでお時間は取らせません。お食事を楽しみながらでもこちらは問題ありません」


「そうか。それで、要件は?」


「アルスさんをパーティから追放したと耳にしましたが間違いありませんか?」

 ケビン達が二日前アルスを追放しているのは何人かの冒険者が見ており、職員は彼らとアルス本人から話を聞き、ケビンからも事実確認をする。


「何か問題があるのか?俺達が誰とパーティを組もうがギルドには関係ないはずだ」

 ケビンは少し不機嫌になりながらも、今後も冒険者として生きていく必要がある為、表には出来るだけ出さないように答える。


「もちろんギルドとして口出しすることはありません。しかし、パーティに変更があった場合には直ちに申告する義務があります。二日前にアルスさんを追放後、昨日の朝にギルドで馬車を借りていますので、申告する時間はあったとギルドでは判断しています。何かやむを得ない事情があったのであれば教えて下さい」

 ギルドには細かく規則が定められており、その中にこの件も明記されている。これは、パーティの実力を正しくギルドが把握するために決められた規則だ。

 パーティの中心人物が抜けた場合は、パーティランクの見直しがされることも稀だがある。


「忘れていただけだ」

 実際、報酬の受け取り以外の面倒なギルドとのやり取りはアルスにやらせていた為、ケビンは言われるまで忘れていた。


「反論なく認められましたので、罰点は1点になります。セブンスドレイクの皆様はこれまで罰点を付けられたことがありませんので大丈夫だと思いますが、一年間に20点貯まりますと除籍処分となりますのでお気を付けください。また、5点毎にペナルティがあります。それを拒否されても除籍となりますので、通知がきた場合には必ずご参加願います」

 職員は事務的に説明する。


「ああ、以後気をつける」


「それでは、こちらはパーティメンバーの変更届になります。こちらに現在のパーティメンバーの名前を記入してください」

 ケビンは渡された紙に四人の名前を書いて職員に返す。


「こちらは後ほど処理しておきます。アルスさんが脱退されたことでお伝えすることがあります。アルスさんが脱退したことで、セブンスドレイクはAランクの条件を満たさなくなりました。このままではBランクに降格となります」


「は?」

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