冒険者登録


目の前の宿屋は3階建で、木造建築。

こじんまりとした外観だ。


扉を開けると予想よりも広い空間が広がっていて、とても秩序だっている。

中級店と言った印象だ。

父と泊まっていた宿屋は安宿だったから、知らない雰囲気にドキドキする。


「おや?もしかして騎士団に捕まった小僧ってのはあんたのことかい!」


大きな声で話しかけてきたのは、ドワーフの女主人だった。

身長は170センチと言ったところか、、使い古したエプロンを着ていて、腕にはたくさんの傷がある。昔は冒険者をやっていたのだろうか?


「まぁ、そうです。」


「そうかい!にしてもあんたバカだねぇ〜身寄りがないなら、騎士団にいえば保護してもらっただろうに。」


どうやら状況は既に伝わっているらしい。

それにしても、よく考えれば騎士団に状況を説明していれば、盗みを働く必要もなかったのかもしれない。全く、我ながらバカなことをしたものだ、だが、あの時は父がいなくなって冷静さを失っていたのだ。

どちらにせよ精一杯だったのだから仕方ない。今はこうして事が好転していることに感謝すべきだろう。


「私はマチルダって言うのさ。あんたはセトだね?聞いてるよ。これから一ヶ月よろしく頼むよ!

もちろん、一カ月経ったらしっかりお金はいただくからね!」


一ヶ月後もここに泊まろうと思うかはまだわからない。もしかしたら、別の街に行ってる可能性もある。それでもここはマチルダさんのご厚意に感謝しておくべきだろう。


「はい、よろしくお願いします」


「あんたの部屋を教えるからついて来な!」


そう言われてついていくと、2階の部屋を案内された。


「食事は一日3回、風呂は18〜20時の間に開放するからその間に入るんだよ!

じゃあ、ゆっくりしな!」


そう言うと、マチルダさんは階段を降りて行った。



部屋に入ると、右にはベットが縦向きで壁に沿って置いてあった。

部屋の奥には大きなカーテン付きの窓があり、その左には机と椅子がある。


一歩前に進むと、約二ヶ月ぶりの個人スペースに途方もない安心感を覚え、涙が出てきた。


絨毯が敷いてある床に寝転ぶと、そのまま寝てしまいそうになったが、なんとか堪えて、夕食を食べに行く。


久しぶりのまともな食事に感動してまた泣きそうになったが堪えて食べ終えると、風呂に入りに行った。


脱衣所で服を脱いで、風呂に向かうと、ホカホカした空気と共にシャンプーのいい匂いがしてくる。

それだけで癒されたが、シャワーを浴びた時は快感だった。お湯の一粒一粒が、まるで、これまでの自分の疲労や罪悪感を洗い流しているようだ。

久しぶりにお湯を頭から被り、体を洗って、風呂に浸かって、まるで天国にいるような気分だった。


風呂から出て部屋に戻ると、明日のことを考えたが、疲れて頭が働かない。明日は冒険者ギルドに行く予定だが、今日はとりあえず寝ることにしよう。そうしてベットに横になって深い眠りについたのであった。


目を覚ますと朝になっていた。窓からは清々しい日差しが差し込んでいる。昨日は疲れて寝てしまったが、今日は冒険者登録をする予定だ。朝食をとって、冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドは冒険者を管理し、クエストの管理、運営をする機関だ。


冒険者ギルドについて扉を開けると、中には大剣を持った獣人や魔法の杖を持ったヒューマン、短剣を装備したパルーム(小人族)、弓を背中に装備しているエルフなどの冒険者で溢れていた。その殆どが横10メートル縦2メートルほどの看板を見ていた。あの看板はなんだろうかと思ったが、受付で説明されるだろうと思い、早速受付に行くと、そこにはエルフの受付嬢がいた。

 

「こんにちは、何か御用ですか?」


「冒険者登録をしに来ました。」


「冒険者登録ですね。では、あなたの

 名前と年齢、性別、種族を教えてください。」


 そういうと女性はカードとペンを手に持って情報を書き始めた。


「名前はセト・ザルバルド、年齢は14歳、性別は男、種族はヒューマンです。」


一連の情報を書き終えると、女性は僕にカードと針を渡してきた。


「その針を指に刺して、カードに血を垂らしてください。カードが光るかどうかでステータス適性があるかどうかを判断します。もちろんステータス適性がなくても冒険者登録は可能ですが、凶悪な魔物などの討伐はステータスの恩恵がないと不可能です。ステータス適性があると他にもレベルアップができたり、スキルなどを取得することができます。ステータス適性があるのは全人口の約3割と言われています。」


なるほど、僕は今後冒険者として、強くなっていきたい。強ければこの世界の探索できる範囲も格段に増えるのだ。様々なことを見たりやったりしたいし、その為にはステータス適性はあった方がいいに決まっている。そう思ってどうか光ってくれと祈りながらカードに血を垂らす。


カードに血が一滴落ちる。血がカード全体に広がっていく。その瞬間、カードから眩しい光が溢れてくる。カードは眩しく一瞬光り、また元に戻った。


正直、父さんにはステータス適性がなかったから自分もないかと心配したが、どうやら祈りが届いたのかもしれない。飛び跳ねたいくらい嬉しいが、ここはギルド内だ。我慢我慢。


「おめでとうございます!レベルやステータスの確認は"ステータスオープン"と心の中で言うか、実際に声に出して言うと、ステータス画面が目の前に現れますよ!あとは自分で色々試してみてくださいね!では、これで冒険者登録は完了です。そのカードはなくさないようにしっかり保管しておいてくださいね。」


そう言われてカードをポケットにしまう。ステータス画面については後で確認しておいた方がいいな。


「申し遅れましたが、私はリザーレと言います。今から冒険者とクエストのシステムについて説明させてもらいますね。まず冒険者にはEX、S、A、B、C、D、E、F、Gの9つのランクがあり、クエストは自分のランクのものしか受けることはできません。Dランクまでは自分がいるランクのクエスト・依頼を10回達成するか、ギルドに功績を認められると昇格可能ですが、Dランクから昇格していく為にはギルドの認定が必要になります。」


なるほど、ランクについては父から聞いていたが、Dランクから昇格するにはギルドの認定が必要になるのは知らなかった。おそらくCランクからはクエストの難易度が難しくなるのだろう。


「では次に、クエストの受け方と完了の仕方について説明しますね。まずクエストを受ける為にはあそこにある看板からクエストが書いてある紙を取ってください。」


そう言われて看板を見ると、さっきたくさんの冒険者が見ていた看板があった。


「クエスト内容は全てその紙に書いてあるのでそれを読めば何をすればいいかもわかります。クエストを終えた後はその紙を持って受付まで来てもらえると報酬がもらえますよ!完了証明という欄には報酬を貰える為の条件が書いてあるのでしっかり見てくださいね。

今回セトさんは14歳ということで未成年なので初期装備などを買うための5万ルピーを支給します。どうぞ。」


そう言われて、お金を手渡される。初めは薬草採取などでお金を貯めてから装備を買って魔物討伐などのクエストをしようと思っていたが、このお金で装備などを購入すれば討伐クエストもできるかもしれない。


「ありがとうございます。」


「最後に冒険者は危険な職業なので死なないということを最優先でお願いしますね!とは言ってもこの辺は王国ユグドラシルの中でも比較的安全な地帯ですので、難しいクエストなどはそうそう出ないですけど……では頑張ってください!」



一連の説明を受けた僕は早速看板まで行ってクエストを探そうと思ったが、その前にステータス画面の確認や初期装備などの購入をしなければならないことに気づく。


よし、とりあえず装備などを買いに行くか。クエストを受ける為にもう一度ギルドに来ないといけないが、装備などによって受けれるクエストもきっと変わるだろう。だったら先に装備を買うべきだ。そう思って冒険者ギルドを後にするのだった。

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