アライグマの神

 あぁもう疲れた。もう何もしたくない。と、そのアライグマは思った。

 実は彼こそ、この世界の全てをつかさどっている、いわば神のような存在なのだ。少なくとも、彼の中ではそういうことになっている。彼は大きなあくびをして、地べたに仰向けになった。全く、神であろうこと自分が、いったい何ぐーたらとしてるんだ?と彼は思ったが、そもそも自分は神なのだから、そんなつまらないことをいちいち考える必要はないのだ、という結論に達して、彼はゆっくりと目を閉じ、そのままいびきをかいて寝てしまった。

 彼は自分がイエスキリストの生まれ変わりだと心の底から思っている。だから、自分の忠告に従わない他のアライグマを見ると、「こいつはなんて哀れなんだ。わざわざこの俺が忠告やっているのに。あいつはいつか失敗するだろう。可哀そうに。そして地獄に堕ち、永遠の苦しみを味わうことになるのだ。あぁ、なんと可哀そうに!」と、心の底から思うのだった。

 大半のまともなアライグマは彼を気味悪がったが、中には彼についてくるものも出てきた。そのアライグマは彼の一つ一つの行動に何か深い意味があるのだと思い込み、そのたびに、「私は間違っていなかった。やはり彼こそが私たちの救世主なのだ」と、まるで何かの啓示を授かったかのような、クワッと開いた眼をして、確信せざるを得ないのだった。

 また、彼は自信とイマジネーションだけはたっぷりと持ち合わせていたので、そのような狂信的なアライグマたちを統率し、彼らに壮大な設定とストーリーを提供することができた。それは彼らを畏怖させ、励まし、中には涙を流す者までいた。フィナティカルなアライグマ教団は徐々に勢力を拡大していき、現在では実に67%ものアライグマがこの宗教を信じている。

 アライグマたちはこの宗教の教えに従って、毎日歯ぎしりを35回(35という数字は彼ら中では重要な意味を持っている)繰り返したり、生誕記念日の時には一日中奇妙で無駄に凝ったダンスを踊り続けたりする。それは彼らの生活に根付いていて、その心を癒してくれたり、また他のアライグマとコミュニケーションする手段ともなっている。

 そう、実は彼こそ、この世界の全てをつかさどっている、いわば神のような存在なのだ。

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