第15話 橘ヒロヤの本心
「妃奈子さん」
ヒロヤは妃奈子を、隣町の公園に連れて来た。首を傾げる妃奈子の手を強引に引いた。
邸宅でも妃奈子の生活圏でも話せないことだった。
「妃奈子さん、今から話すことは護衛者の任を超えていることです」
妃奈子の髪が夏の夜の風に揺らされた。
「あなたを守る。これが俺に与えられた任務です」
頷く妃奈子は、ヒロヤを信じてくれている。
「しかし、それではあなたの脚のリングは一生外せません」
妃奈子が自らの脚のリングを撫でる。白く細い指が、黒い結晶に触れる。
「あえて危険を冒して彼らの本拠地に行き、フォービクティムと椎名ロックの関係を明らかにする」
「椎名ロック?」
ヒロヤがじっと妃奈子を見ると、妃奈子は口を閉じた。
「ワ―レブルア国と椎名氏の関係を探ってみましょう」
ざっと風が吹いた。
「二人で命を賭けて、自由を手にいれること。今の日々を守り、リングと共に生きること。どちらも賢明な選択だと思います。妃奈子さんが選んでください」
妃奈子に酷なことを言っている。
胸が痛いが、ヒロヤが選ぶわけにいかない。
ヒロヤの意思はある。
だが、それを言うわけにはいかない。
「命を賭けます」
妃奈子がはっきりとそう言った。彼女は少し目を細め、笑っている。
ヒロヤの本心も、同じだった。
もう、自分は護衛者ではないのかもしれないとヒロヤは思った。
♦
最高位護衛者協会の有川に会いにきた。
ヒロヤは、有川に封筒を渡す。
「俺が死んだら、橘武文さんに送ってください」
「お前が死ぬ? 馬鹿な」
武文氏はヒロヤの育ての親だ。
「俺は、フォービクティムをせん滅しません」
有川の驚いた顔を見て、今から行く道は危険な道なのだとヒロヤは覚悟した。
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