第15話 橘ヒロヤの本心

「妃奈子さん」


 ヒロヤは妃奈子を、隣町の公園に連れて来た。首を傾げる妃奈子の手を強引に引いた。


 邸宅でも妃奈子の生活圏でも話せないことだった。


「妃奈子さん、今から話すことは護衛者の任を超えていることです」


妃奈子の髪が夏の夜の風に揺らされた。


「あなたを守る。これが俺に与えられた任務です」


 頷く妃奈子は、ヒロヤを信じてくれている。


「しかし、それではあなたの脚のリングは一生外せません」


 妃奈子が自らの脚のリングを撫でる。白く細い指が、黒い結晶に触れる。


「あえて危険を冒して彼らの本拠地に行き、フォービクティムと椎名ロックの関係を明らかにする」


「椎名ロック?」


 ヒロヤがじっと妃奈子を見ると、妃奈子は口を閉じた。


「ワ―レブルア国と椎名氏の関係を探ってみましょう」


ざっと風が吹いた。


「二人で命を賭けて、自由を手にいれること。今の日々を守り、リングと共に生きること。どちらも賢明な選択だと思います。妃奈子さんが選んでください」


 妃奈子に酷なことを言っている。

 胸が痛いが、ヒロヤが選ぶわけにいかない。


 ヒロヤの意思はある。

 だが、それを言うわけにはいかない。


「命を賭けます」


 妃奈子がはっきりとそう言った。彼女は少し目を細め、笑っている。


 ヒロヤの本心も、同じだった。


 もう、自分は護衛者ではないのかもしれないとヒロヤは思った。



 最高位護衛者協会の有川に会いにきた。


 ヒロヤは、有川に封筒を渡す。


「俺が死んだら、橘武文さんに送ってください」


「お前が死ぬ? 馬鹿な」


 武文氏はヒロヤの育ての親だ。


「俺は、フォービクティムをせん滅しません」


有川の驚いた顔を見て、今から行く道は危険な道なのだとヒロヤは覚悟した。

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