第5話
「さっきは、ごめんなさいぃ……」
浴槽の中、私の脚の間で、ヒナは消え入りそうな声でそんな事を言う。久々の事だったんだから、慣れていなくてもしょうがない。
——ヒナから入浴のお世話をしてくれると聞かされた私は、その時点で既に泣きそうだった。
彼女ももう高校生になり、流石に昔のようにお風呂にというのはいかにもデリカシーに欠けるかなと、温泉などに行く時以外は控えていたから。感動のあまり身を震わせた。
だけど今日の私は監禁されていて、お風呂も自由に入ることは許されないらしい。だからヒナに全てをお任せする事にした。
脱衣所で手錠を外し、私の服を脱がせていくヒナは、何故だか顔が火を噴きそうなほど赤くなりはじめて、そして私から着ている服がなくなった時には、もう手のひらで自分の顔を隠す事で精一杯といった様子になってしまった。
それから、ヒナの言う『さっき』というのは、さらにいよいよ浴室に入り、髪を洗って、体を洗おうかとなった時のこと。
髪を洗っている時も、鏡越しに見えるヒナの顔が赤いので、もはや既にのぼせたかと救急車を呼ぶべきか真剣に私は悩まされた。
それでもヒナはどうにか私の髪を丁寧に洗ってくれて、そして私の身体をとなった時、異変が起こった。
泡立てたボディーソープを纏わせたタオルを、ふに、と私の胸に押し当てた後、ヒナはフリーズした。お風呂に入ってるのに凍った。微動だにしなかった。
それからヒナはぷるぷると震え始めた。それが私の胸に手を当てたままだったから私は、その、はしたない声を出してしまって、それからヒナが泣き出してしまって——。
『もう無理ぃ』と小さく喚くヒナは可愛かったけど、そのままだと可哀想だからしょうがなく自分の身体とヒナの身体を私が洗って、浴槽に入り今に至る。
ヒナはやっぱり可愛い。
「気にしないでってば。こうやって一緒にお風呂に入るのも久々だし」
「でも今日は、せなねぇをわたしが監禁してるから……お世話したかったのにぃ」
「充分お世話してくれてるよ。私、すっごく嬉しい」
「……本当に? えへへ、じゃあ良かったです」
浴槽の中、私に背中を預けるようにして、ヒナがはにかんでそう言葉にする。
優しいんだよね、この子は。本当なら、親の事で捻くれたって良いくらいなのに、それでも私を監禁してお世話したいとか言うくらい。
こんないい子、やっぱり私が守らなければいけない。
目の前の綺麗なうなじを、他の、特に男が見るなんて事は許される事じゃないんだ。そんな奴は、私が。
「……ずっと、こうしていられたらいいのに」
とか思っていたら、ヒナがぽつりとそうこぼした。
「こうして、って?」
「……せなねぇは、綺麗で、慕われて……いつか、わたしのそばから離れていっちゃうんじゃないかって……ずっと、それが嫌で」
また、ヒナはそう、悲しい声色でそんな事を言う。
私の愛が伝わってない、わけじゃないよね。
誰だって、不意に悲しくなったり、心配になったりはするものだし。ここは『せなねぇ』として、励ましてあげるべき、かな。
だから、ぎゅっ、と後ろからヒナを抱きしめて、安心出来るように、私の想いがちゃんと伝わるように、声をかけてあげる。
「そんなことないよ。私はずっとヒナのそばにいる」
「……せなねぇは、いつもそうやって言ってくれる。けど……証明が欲しいです」
証明、と言葉を紡いだヒナが、浴槽の水面を揺らしながら振り返った。
少し熱ったような表情に、何か意志めいたものを浮かべている。
「こ、この後は、ベッドで監禁します。……ベッドのお世話だよ!」
きょとん、としちゃった私に対して、ふんふんと意気込むヒナ。
ベッドのお世話とは、一体……?
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