第4話




「せなねぇ、あーん」


「あー……んむ……我ながら上出来かな」


「上出来どころか……すごく美味しいよぉ!」




 監禁の御作法ということで、私は後ろ手に手錠をかけたまま椅子に座り、ヒナに作ったご飯を食べさせてもらってる。


 パスタだから人に食べさせたりって言うのは難しいと思うんだけど、ヒナは一生懸命フォークへ麺をくるくると巻き付けて、そして私の口元へ運んでくれる。幸せを運ぶ青い鳥ならぬ、幸せを運ぶ可愛いヒナって感じ。




 ——それにしてもお買い物中は不愉快だった。


 ヒナの制服姿が可愛いのはこの世の真理、宇宙全ての答え、全なる一だけど、私たちの方をジロジロ見る視線がひっきりなしに感じ取れて、いつ⬛︎⬛︎を⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎てやろうかと憤りを抑えるのが大変だった。


 私の格好だって、バイト上がりのまま。白いカットソーに緑のフレアスカート。それに、ヒナが見繕ってくれた首輪というもので、おかしなところなんかなかったはずなのに




 ——だめだ、あんな奴らのことを考えるくらいなら、今はヒナがご飯を食べさせてくれるという至福に思考を浸らせよう。


 料理を並んで作ってる時のヒナも可愛かった。私がミートソースを拵えている間に、レタスの葉をちぎり、それを水で洗うなんて、料理をしないヒナが一生懸命やっているのだからいくら褒めても褒め足りないくらい。


 ヒナはやっぱり、とっても可愛い。


 ヒナは私に食べさせて、その後自分も食べて、それからまた私に、と忙しそうにしている。その姿がなんだか、お姉ちゃんぶる小さい子みたいに思えてきて、すごく愛らしい。


 と、思っていたら、ヒナの頬にミートソースが飛んでる。




「ヒナ、ほっぺのとこについてるよ」


「え、うそっ。……恥ずかし……こっち?」




 そう言って短い舌でぺろり、と舐め上げるけれど

届いかなさそうだし、そもそも逆だし。


 しょうがない、こういう時はいつも通りにしてあげよう。




「こっちだよ。落ち着いて食べてね」




 私はヒナの頬を指先でつつ、と拭って、そのまま自分の口へ含む。上出来なミートソースが、ヒナのほっぺにくっついていたというスパイスまで合わさって、最高の味わいだ。


 ヒナはこれをすると、恥ずかしそうにまた顔を赤くして、じっとテーブルの上のお皿を眺め始める。




「もう、せなねぇは、そういう事をするからっ! ……だから、わたしは監禁する事にしたんですよ?」


「あはは。ヒナにしかしないよ、こんな事」


「し、しょうがないから、信じてあげるけど……あれ?」




 ヒナが何かに気づいたように、手錠をかけられた私の手を見る。




「手錠……されてる、よね? あれ?」


「うん、しっかり手錠されてるよ?」


「そう、だよね。監禁中だもんね」


「ヒナが監禁したいって言ってくれたんだから、ちゃんとしてるよ。安心してね?」




 確認して安心したのか、ヒナはスープのカップを手に取り、くくっと一口飲み込んだ。これもヒナが好きなクルトンと刻み玉ねぎ入りのオニオンスープ。


 こんなに美味しそうに食べてくれるんだから、作りがいがある。けど、ヒナがスープを飲み干したことで、すっかりテーブルの上の料理は無くなってしまった。


 お世話してくれるって事だったけど、この後はどうするんだろう。

 



「ごちそうさまでしたっ。せなねぇ、今日もご飯を作ってくれてありがとです!」


「お粗末さまでした。ヒナ、この後はどうするの?」


「もちろん監禁して、お世話します。そう……お、お風呂に入ろっか」




 そう告げたヒナの頬はりんごみたいに赤くなった。ふむ、これがデザートかな?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る