2話 私は
翌日。
私は廊下を歩いていた。
心臓に異常があるだけで別に歩けはする。
…というのはただの強がりで、本当は……
謎のロボットに身体を引っ張られて移動している。
私は(なにこれ…)と思いつつも、自分の所に戻りはしない。
それは、あの子供に用事があるからだ。
そもそもどうやって彼女の元へ行くのか、私にも検討はついていなかった。
ただ、その時1体のロボットが「ナニカヨウジハアリマスカ?」と
いつの間にか私の傍に来て話しかけたのだ。
そして私はあの子供に会いたい理由と、特徴などを全て話し子供の部屋に
連れていってもらったのだった。
あの子供に会いたい理由、それは─────
「ニンギョウ、キドウデキルトイイデスネ」
片言言葉で人形がその目的を話す。
「ドリーム・ドールは人間みたいに喋るのに、あなたはそんなことないのね」
と淡々と私も話す。
するとロボットは、
「ワタシニソンナキノウハイリマセンノデ。」
確かに……と一瞬思いもしたが、それと反対の気持ちも出てくる。
…そんなことはどうでもいい。
今はただ、彼女に会えれば、それでいいんだ。
そう心の中で頷く私にロボットは「ツキマシタ」と言う。
そして私はロボットが扉を開けるまで待った。
ただ、そこには─────────
なにも、なかった。いなかった。
『………………………?』
私とロボットは顔を見合せ、首を傾げる。
(偶然、いないだけ……だよね……?)
と私は思いつつも、どこか心の中で心配している自分がいた。
ロボットもどうやら同じ考えだったらしく、「グウゼンイナイダケダトイイデスネ」
と私を宥める様に言う。
私はそれに何も言わず、医師に聞くために医師のいる場所まで
案内してもらうことにした。
進む途中、開いた窓からとても強い風が吹き、私の髪を揺らす。
すると私を案内しているロボットとは違う高身長のロボットが窓を颯爽と閉めた。
私はその光景を見て、「入院してからこんなロボットはいなかったはず…」
と呟いた。
私は今まで部屋の外にほとんど出たことがなかった。
ご飯や治療などは部屋で済ましてもらっていたから。
そして知らないうちにこんなロボットがいるようになったらしい。
「…………………………」
自分はここに生きているはずなのに、生きている気がしない。
どこか、なにかがおかしい……
「…ねぇ、ロボット?いつからあなた達は居たの?」
と私は問う。
するとロボットは意外な言葉を口にした。
「イツカラッテ、アナタガニュウインシタコロニハイマシタヨ」
という、私の記憶と噛み合わない言葉だ。
当然私は脳が追いつくわけはなく、
一旦私の記憶の欠如に問題があるということにしておいた。
(それにしても……)
まだ、つかないの?
そう思った時、ふと身を覚えのある流れが始まった。
私に開いた窓から吹いた風が直撃し、髪を揺らしたのだ。
そしてそのあと、これまた身を覚えのあるロボットが窓を閉めた。
一体これはどういうことなのか。
私はループしているのか、それとも偶然なのか?
(いやいや……流石に、ね)
と正解の分からない予想に私は安堵する。
そしてそのあと、音も微かにしか聞こえなくなり、視界が暗くなった─────
「……!?お、おねーさん!?」
と聞き覚えのある声が言う。
この声は。
「やっと見つけた……”紙斗(しと)”」
私はあの子供の名前を口にした。
「…なんで……」
子供は……いや、シトは下を見ながらそう言った。
「…?ああ、名前のことなら、教えて貰っ─────…」
そう言い終わろうとした時、シトが言い放った。
「違うっ…!なんで、ここにいとあが……!」
シトはそうとても大きい声で怒鳴るように言った。
(私の名前…それに、今思えば…なんで知らない場所にいるの?なんで怒ってるの?)
私は知りたいことが渋滞しすぎて、頭に?マークが浮かんだ。
「…………ここは、”天国”と”地獄”の境界線」
シトはそう言った。
さっきとは違って、妙に落ち着いた話し方だ。
境界線……あまり聞いたことはない気がする。
存在しないと捉えられていたのか、あるいはただ単に知らなかっただけか。
どちらにせよ、私がここにいて、ここは境界線。
それは違いない事実だ。
…いや、今発言を考えてみると、なぜ私は境界線に─────?
「……来て欲しく、なかった。」
沈黙を破るシトの声が響いた。
「私は、あなたの友達の百瀬 彩(ももせ さい)。」
聞き覚えのあるその名前に、私は身体を少し震わせた。
「…私は、死んで全身の血を抜かれて、脳に異常のあった私の妹の
百瀬 光(ももせ ひかり)の脳へと血を移動させた。そして肉体は光、思考は私という
構図ができあがってしまった。」
淡々と喋る友人、彩にどこか懐かしさを感じつつも、疑問に思うところがあった。
「なんで、死んだの?」
私は疑問を抑えきれず、本人に聞いた。
「………他殺。刺されて死んだのよ、母にね。」
そう寂しそうに語る彩に、私は疑問が止まらなかった。
「…ふふ、なぜ死んだのかって思うでしょ?」
彩は私の思考を読んだかのように少し笑って言う。
「母は、医師に話を聞いたのよ。「同じDNAを持つ人間の血、全身の血の量ならば、光の脳を正常に働かせられる可能性がある」って。」
私は、その彩の話を聞いて、腸が煮えくり返った。
「だからって……!」
彩ではなく親がやれば良かったじゃないかと、私は不満を言おうとした。
すると、彩が「気持ちは嬉しいけど、言っちゃダメよ。あなたには来てほしくない」
と優しい眼差しを私に向けた。
「光の脳は私の血で無事働くようになった。ただ、脳に私の血が通っているから、さっき言ったように身体は確かに光のもの。それでも、脳にいった私の血の量が多すぎて、光の思考が残ることは無かった。」
彩は悲しい話をすらすらと話し、私は相槌を打つことも無く話を聞いていた。
「…でも、今は良かったと思ってる。あんな奴らと一緒にずっと過ごすのなんて、
まっぴらごめんだし。なにより─────」
彩は1泊置き、私をじっと見つめる。
「いとあに会えてまた笑えたこと、嬉しかった」
と、微笑んだ。
確かに、学校から……彩の家からも、この病院は遠い。
親が地方の中でも良い病院にしたからだ。
そして、私は
「私も、彩と話せて嬉しかった。 ……もう知ってるかもだけど、私、寿命があと3年
くらいしかないの。だから、これが最後になっても、絶対私は忘れない」
と柄にもない笑顔で話した。
すると彩が驚いたような顔をしてこっちを見た。
…知らなかったんだ。
その驚いた顔もすぐに戻り、優しい顔で此方をまっすぐと見ていた。
「…ねぇ、いとあ。私があげた花も、これからあげる花も、大事にしてね?」
そう言って彩は咲いていた花を摘み取り、私の手にそっと渡した。
「…この花の名前は、シオン。いつかまた誰かに転生したとしても、
会えるかは分からない。だから、私は、いとあは。お互いのことを忘れないこと!」
そう言うと彩は小指を笑顔で差し出し、私も小指を差し出した。
そして、2人で息を合わせてこう言った。
『ゆーびきりげんまーん嘘ついたら…』
そこで2人は一旦言い終わり、また口を開ける。
「絶対蘇ってでもビンタしに行くから!」
「私も、絶対許さないからね!」
と別々に言った。
そして、幸せな夢は終わった─────
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