ドール・ピクチャー

桃色

少女と人形

時は、西暦2900年。

ステキな人形が蔓延り幸せな声が轟く中に、1人、静かに空を見つめる少女がいた。

なぜ彼女がこうなったのか。それは─────

「…あなたの寿命は残り3年です」

その一言の影響だった。


「忙しいから」という理由でリモートで伝えられた結果。

「………」

それでも、少女は何も言わない。

何を思っているのか。

それは革命家でも分からないだろう。

「……っ、助かる方法は…!」

そう父が言い放ち、医者は面倒と言わんばかりにため息をつく。

「助かる方法はありません。分かっているはずでしょう?

もう彼女の心臓は救えないと」

「……………」

医者の言葉に室内が沈黙に襲われる。

彼女は、1年前、普通に暮らしていた。

笑っていた。

未来に期待をしていた。

でも、心臓に異常を負ってからは、全てなかったように、これが普通だったかのように

生き始めた。

彼女は心臓にツタが絡み、棘が刺さり続けるという病気にかかってしまった。

これだけ聞くと死に至るとは思えない。

ただ、彼女のツタは悔しいことに毒と呪いがあり、取れなくなり、

毒がずっと身体を蝕んでくる。

…こんな話を聞くと、死に至るのは当然に思えてしまうだろう。

誰もがそう思っていた。

思うのに必要な条件が揃っているから。

少女も親も、このことはすでに分かっていた。

当然なことでも、都合が悪ければ信じようとしないのが人間だ。

いつまでも進化はしない。

…紹介が遅くなった。

この患者は、この少女の名は…

色無 いとあ(しきな いとあ)。

…名前すら、皮肉に感じてしまうのは、自意識過剰だろうか。

まるで、「これからの未来に色は無い。」「糸あやつりされていろ。」

というような。

……

………

…嫌だ。

糸あやつりなんかされるもんか。

私はどうせ死ぬんだ、この先長くない。

なら。

「…ねぇ、お母さん、お父さん。」

沈黙に終止符が打たれた。

「私─────お人形さんが欲しい。」

みな、驚くように口を開けている。

…大袈裟な気がする。

確かに、私がものを欲しがるのは初めてだし、

驚くものもあるかもしれない。

すると、両親は口を閉じて微笑み、少女の頭を撫でながら言った。

「いとあがそう言うなら仕方がないな」

「あともう少しの人生、楽しみたいものね」

両親は同意してくれ、少女に優しい言葉を落とす。

少女は少し微笑み、心臓に手を当てた─────。


あれから数日後、彼女の手元には人形が確かにあった。

「…………?」

少女は人形が流行ったその1年間、入院していた。

そのため、使い方は当然わからない。

少女も人形も何も言わず、少女は灰色の姿をただ見ている。

刹那、ガラッと勢いよく扉が開けられる音がした。

「……!?」

それは見たこともない子供の仕業だった。

少し話を聞くと、病室を間違えたとのこと。

そして、私の方へと駆け寄る。

「あ!それ!‪”‬ドリームドール‪”だ!‬」

「…………そんな名前だったの?」

私は呆気にとられる。

子供はそれでも人形をただ見つめるだけだった。

「…変だと思わないの?」

気になった私は声をかける。

「思わないよー。ドリームドールが流行った頃にはここでおんなじことしてた、

ってこともあるだろうし」

子供とは思い難い発想。

妙に大人びた子供だ。

「…大人びてるって思ったでしょ?…私ね、脳の手術を受けたの。血みたいにドロドロで赤くて……そんな液体が入った注射器を脳に刺されたの」

軽々と喋る。「昔じゃ絶対ありえないよね」と付け加え、私の方を少し見た。

ただ、すぐに目を離した。

「あ、そだ。この子を起動させたいんでしょ?方法なら私、知ってるよ」

「ほ、ほんとに!?」

彼女の言葉に目を開き、大声で言った。

子供は驚いたように同じく目を見開き、少女の方を見る。

「…ごめん……」

少女は顔を赤くし、お見舞いで貰った花で顔を隠す。

「…ピンクのガーベラ………」

「…?」

子供は花を見た途端小さい声で何かを言って俯いてしまった。

私は決心して聞いてみることにした。

「……え、と…なにか…あったの?」

そう聞くと子供は顔を上げ、「なんでもないよ!」と胡散臭い台詞を言った。

私は少し不安になりつつも、「人の事情に入るのは無作法だ」と

自分を言い宥める。

「…それで、この人形、どうやって起動するの?」

私は先程の話をもう1度問う。

「…それは…」

間を空け話始めようとする子供。

なにか気まずそうだ。

そして、「もうこんな時間!自分の部屋に戻るね」と言うなり帰ってしまった。

「……明日、聞けばいいよね」

私はそして無自覚に人を苦しめたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る