第8話  旅の終わり

「あなたは、エリサではありませんね?」


 ティランがそう言うと、急に辺りがぼやけて、いつも見慣れた銀の森の景色になった。


「良く分かったわね、若長」


「それですよ。エリサは、僕のことを若長とは呼びません。名前を呼びます」


「あら……ロイルの若長わかおさに対して失礼だわ。」


「僕が、彼女のことをデュール谷の姫と言い続けた結果ですよ」


「そうですか。では、帰りましょう、現実の世界へ」


「ここは、僕の夢の世界ですか?」


「……というより、あなたの代わりに旅を続けていた人が、いなくなって若長に目覚めて欲しいのに、若長の心が迷子になってました。私達は、光の神殿の依頼で、迷子になっていたあなたの心が何処にいるのか、捜していたのです」


「エリサとの旅は……終わっていたのですね……」


 ティランは、悲しそうに言う。

 目の前のエリサも頷くしかない答えだ。

 もう終わっている。

 全て……


「若長は、現実が受け入れがたくて、旅の始まる前まで心を戻していました」


「あなたは誰ですか?」


「若長の心に呼びかけて、現実世界に目覚めさせるためだけに選ばれた代行屋です。今の名はエリサです。」


「代行屋!?」


「要するに、何でも屋です。」


 エリサはニッコリと笑った。

 どこからどう見ても、自分の知るエリサなのだが……


「人の夢に干渉が出来るのですか!?」


「夢への干渉というのか……若長は、今回ヴィスティンで倒れて以来、銀の森から出ていないのに、風の奥方のを使役して、旅に同行していたのです。多分、旅の最後で若長にショックなことがあったのでしょう……

 若長の心が迷子になってました。

 長が、危険なことだと判断されて、私たちが呼ばれました。

 私が依頼されたのは、旅の同行者たる方の名前と姿を借りて、若長を目覚めさせることです。後は、若長がご自身の目と耳で真実をお受け取り下さい」


 それだけ言うと、目の前のエリサは、スーッと消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る