第6話  アルテア王国へ

「アルテアへは、馬で行きましょう……馬には乗れるわよね?」


 エリサが聞いて来た。

 ティランは、口ごもった。

 一人では乗れないのだ。


 友人のガイザード王子が、駿馬の白馬を持っている。

 西域の古王国、ヴァーレンの田舎の牧場で、育成されている馬に乗せてもらっているくらいだ。


 ティランの即答がないことに、エリサが言った。


「乗れないのね……私なら、はだか馬でも乗れるのに。良いわ、1頭借りて来るわ。待ってて」


「待ってください!!エリサ!!何故、馬で行くんですか?」


「なんでって、移動手段に決まってるでしょう!」


 エリサは、大真面目な顔で言ってきた。


「風の奥方に飛ばしてもらいましょう、その方が早いですよ。」


「風の奥方?」


 エリサは首を傾げた。


「視えませんか?僕の精霊です。」


「何処にいるの?」


 エリサは、キョロキョロと探している。

 ティランは、思わず頭上を見てしまった。

 奥方はいた。

 いつもと同じように保護をしてくれている感覚だ。


 奥方が、身体の弱いティランの祝福になったのには、訳があった。

 ティランの母のカタリナは、強大な力の魔法使いでもあった。

 虚弱な跡取り息子を生んでしまった彼女は、大変息子を不憫に思い、風の奥方にティランの生命力の一部になってくれることを頼んだのだった。

 祝福するには、有り余る魔力を持っていたティランを、奥方は喜んで祝福した。

 高位の精霊で、力があり過ぎるために、何人かの冒険者の契約者を死に至らしめた過去があることも聞いた。

 その上で、奥方とはいい関係だと思っていた。

 自分もいっぱしの魔法使いだと思っていた。

 はずだ……


「リザベータ、風を吹かしてアルテアまで運んで欲しいです」


 いつものように、風の奥方に声をかけた。


 一陣の風も吹かなかった。



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