第3話  ヴィスティン王国の崩壊 (2)

「西側に出ちゃって何か当てでもあるの?」


 エリサが、大きな目をクルクルさせて言ってきた。


「大叔母殿は、ディナーレの土産としてそれをあなたと従妹さんに買ってきたんですね」


「そんな事言ったかしら?」


 エリサが不思議そうに言う。

 だがティランには、分かる術があった。

 彼は、この世界のほとんどの国で信仰されている神の直系の子孫だからだ。

 神の加護と呼ばれる魔法の力を受け継いでいた。

 あまり多く使うと、身体に負担がかかり発熱して倒れてしまう。

 が、風の力だけは違った。

 生まれながらに、高位の精霊の風の奥方に祝福されていたのだ。


 風の奥方との契約は難しいとされる。

 高位の精霊の奥方は、力も強く彼女の力を御せる者は少ないと言われてきた。

 だがティランは、病弱で外に出られない分、奥方に外の世界のことを探らせていた。

 母親捜しもしていたが、奥方の力をしても見つけることが出来なかった。


「大叔母殿は、ディナーレでその髪飾りを買ったそうですね。とにかく、ディナーレを目指しましょう」


「なら、蒸気機関車に乗るわね? 私乗ってみたかったの!!」


 ティランは、あれ? と思った。

 エリサは、こんなことを言う女の子だったろうか?


(いや、さっき目の前に現れたはずなのに、エリサのことを僕は知っている……?)


 不思議な気持ちになりながら、蒸気汽関車の電停に向かって汽車に乗り込んだ。

 見たこともない人たちが、様々な国の衣装で乗っていた。

 エラドーラの街は、ヴィスティンの東部にあり、王都のディナーレは西域近くにある。

 長く、列車に揺られることになるだろう。


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