第2話  ヴィスティン王国の崩壊 (1)

 ティランが銀の森を出るのは、久しぶりだった。

 幼い頃は、ロサ王国の療養所で育ったのだ。

 ティランの身体が弱いのは、生まれつきだ。

 どうして、生命力の固まりのような母から自分のようなものが生まれたのか……不思議でならないが、神の血筋だと言う、長過ぎる直系の血筋を大事に守ってきたからに違いない。

 ティランは、本気で思っていた。


 西の銀の森の出口は、ヴィスティンの昔の王都、エラドーラに隣接していた。

 ホコリっぽくて、むせるかと思ったがわりと平気だった。


 優しかった母は、三年前に突然姿を消した。

 母、カタリナが失踪する理由はない。

 父と妹と四人の暮らしを満足していたはずだ。


 ロイルの長の奥方失踪事件は、瞬く間に世間に知られて、エル・ロイル家の権威を失墜した。

 父のミルドランが、人の良いことにつけ込んで光の神殿の三賢人がでしゃばってきた。

 無理難題を押し付けてくるのだ。


 妹のセシリ-アンに、結婚話を持ってきたのもその一つだった。

 妹は、まだ13歳なのに。

 しかも30歳以上も年上のヴィスティンの王の後添えという形だった。


 どういう形でか、その話は無くなったが、油断は出来ない。

 歴史の浅いビルラード王国の王女だった母のことを侮っているのか。

 銀の森に隠居してきたラルフォン元ビルラード王の手前、捜索はしてくれているようだ。

 だが、三年が過ぎた。

 手掛かりは、皆無だったが、今、ここに母の髪飾りを持ったエリサが現れた。


 これ以上捜索隊の連絡を待つのは、限界だった。だったら、自分で行くしかない!!


 ティランの決意は固かった。

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