第3話 ペナルティ

「十三期はどうだ?俺達の様に、強くなりそうな奴は現れそうか?」


 薄暗い一室。

 円卓を八人の人物が囲う様にして着席している。

 その内の一人。

 漆黒の鎧を纏った男が、部屋の入口近くに立つ七三分けの髪型をした男に話かけた。


「はい。十三期はなかなか良質なスキルを持つものが多く。皆様の強さに近づける、若しくは、同等になれそうな人物が何人かいらっしゃいます」

「そうか」

「例の問題の件に関しましても。恐らくになりますが、クリアできそうな人物もいるかと」

「それは良い情報だ」

「十一期と十二期は“はずれ”だったから、それを聞くと期待しちゃうわね」


 二人の会話に続く様に、席に着いていた青髪の女が声を上げる。


「俺達の様に強くってのは、なかなか難しいっしょ?俺達が強くなり過ぎだって」


 次いで、赤髪の飄々とした雰囲気の男が青髪の女の後に続く。


「ぶっちゃけ俺達の今抱えている問題を解決できるスキル持ちの奴がいたら、それで良いわけだろ?“あれ”に強さは関係ないって話で纏まったわけだし。弱いなら弱いでそれなら、あの場所まで守りながら連れて行けば良いだけっしょ」

「だが、仲間になるなら強さは重要だ」

「仲間にするなら、ね。でも俺はぶっちゃけ、今の八人でもう良いんじゃね?って思ってる訳なんすよ」

「利用するだけ利用して、後は捨てると?」

「それじゃあダメかよ」


 赤髪の男と漆黒の鎧の男の間に重苦しい空気が漂う。


「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。仲間にするかしないかはひとまず置いておくとして。それでもやっぱり、ある程度の強さは欲しいですよ。向かう場所はダンジョン深部ですからね。例え僕達でも、誰かを守りながら進むのはやっぱり危険ですし。それにせっかく問題を解決できる方が弱くて簡単に死んでしまったら、元も子もありません。せめて自分の身を守れるくらいにはなっていただかないと」

「そうね。私達ももう一年、このまま足踏みしている訳だし。そろそろ先へ進みたいわ」

「十一期と十二期の方達には、悪い事をしましたしね」

「それはまぁ、仕方無いわよ。法則を見つけたどこかの誰かさんだけを、恨んで欲しいものね」


 重苦しくなった雰囲気を壊す様に黒髪で眼鏡をかけた男が話す。

 それに合わせるように青髪の女が答える。


 先程から何も喋らず動かずの八人のリーダーである存在、金色の鎧を纏った者に視線を送る。

 けれど、リーダーの男は何も反応しない。


「あの場所で僕達は仲間を二人失った訳ですし、ここは慎重にいきましょう」

「りょーかい。ほんじゃま、とりあえず。もう暫くは待ちでいきますかー」


 眼鏡の男に賛同した赤髪の男は、大きく伸びをする。


「育成の方、よろしく頼む」

「はい。お任せください」


 漆黒の鎧の男が七三分けを労う。


「それでですが……」


 七三分けは言いづらそうにしながら、八人に質問する。


「先程とは逆の立場の者達に関しての報告は、いかがいたしましょう?」

「いらないっしょー」

「そうね。必要ないわ」

「今迄の者達と同様の扱い、処分で構わない。でなければ、今迄の者達に悪いからな」

「と、言う事ですね」

「解りました。では、失礼いたします」


 喋らない者もいたが止める者はいなかった為、円卓にいる八人の満場一致となり報告の必要はないという解釈となった。


 七三分けが下げた頭を元に戻す僅かな時間。

 いつの間に移動したのだろうか。

 部屋にはもう、七三分けしか残っていない。


 立場が逆の者達。

 それは“使えない”と判断されたスキルを持った人達の事を指していた。


 ◇ ◇ ◇


 俺は今、転移した時に初めていた場所。

 コロシアムの様な施設にきている。

 俺の他にも、ステージの前には百人程が集められていた。


 全員、今回転移してきた十三期のメンバー。


 恐らく俺と同じ理由で此処にいるのだろう。

 各々何かしらの理由で三ヶ月目の部屋代が払えず、一ヶ月延長してもらい、それでも金を用意できなかった人達。


 残りの九百人程が見当たらないのは、その人達は無事に三ヶ月以内に部屋代を稼いだり、一ヶ月の延長以内に何とかできた人達なんだろう。


 現在は払えない報告をした後に知らされた「此処にこの時間に集合してください」の言いつけ通りに、教えられた場所に予定時刻通りに遅刻しない様にして訪れていた。

 

 甘い考えだとは解っているが、言いつけをしっかり守った事による情状酌量があるのではないかと期待している。


 予定していた時刻になり、ステージの壇上に七三分けの男と三つ編みの女が現れた。

 そして最初の頃に見た時と同じ様に、七三分けがマイクになる道具を口に添える。


《今こちらに集まっていただいている方は、約束を破られた十三期・百三十九名の方になります。全員素直に集まっていただき、ありがとうございます》


 七三分けは丁寧に軽く一礼するが、眼つきが初めて見た時と比べると明らかに鋭い。


《では、皆さんにはペナルティを受けてもらいます》


「はい?」


 突然のペナルティを受けろという発言に驚く。


「どういう事だ?」

「確かに支払いは間に合っていないけど、指示通りには行動してたぞ!」

「ルール違反者がペナルティなんじゃないのか!?」

「聞いてないぞ!」

「追い出されるだけじゃないのか!?」


 周囲もペナルティまで受けさせられるという事に意味が解らず、騒ぎ出した。


 俺も部屋を追い出されるくらいにしか考えていなかったし、その場合の今後の方針的な事が知らされるのかな?くらいにしか思っていなかった。


《五月蝿い》


 一瞥する眼差しで三つ編みが一言喋ると、集まったメンバーはその迫力に気圧される。

 そしてその言葉が合図だったかの様に、此処にいなかった残りの十三期メンバーが完全武装した状態で突然現れ、自分達を取り囲む。


 急な流れに俺達は「なんだなんだ」と、焦り騒ぎ立てる。


《皆さん、ご協力ありがとうございます。こちらのステージ前にいらっしゃる方達は約束を守った貴方達とは違い、約束を違えた方達になります。どうぞ、軽蔑してあげてください》


「このクズ共っ!」

「簡単な事が、何でできない!」

「どうせ遊び呆けてただけだろう!」

「俺達は真面目に生きてるんだぞ!」

「何もできないクズ共が!」

「世話をしてもらった恩を返すくらい、しっかりやりやがれ!」

「それができないなら、せめてペナルティぐらい素直に受けろ!」


 七三分けの言葉に反応し、周囲にいる十三期メンバーは堰を切った様に俺達に罵詈雑言を浴びせてきた。


「こっちだって、こんな風になりたくてなってるわけじゃない!」

「俺達だって一生懸命、約束を守ろうとやってる!」

「お前らと違って、使えないスキルで必死に頑張ってるのに。何でそんな事言われないといけないんだ!」


 こちらの集団も負けじと、大声で反論する。


《バンッ》


 三つ編みがマイクを強く叩いく。

 その音に驚いて全員が其方に注目すると、三つ編みが何度も言わせるなと言う表情でステージ前にいる俺達を見ていた。


《集まっていただいた皆さん、解っているじゃないですか》


 七三分け訳の言葉が何の事を言っているのか解らない。


《先程どなたかが、おっしゃいましたよね。「約束を守ろうとやっている」と。それは「約束を守れていない」のと同義ではないでしょうか?》


 その言葉に、ステージ前にいた俺達は息を呑む。


《皆さん、ペナルティと言う言葉に不安になり過剰反応している様ですが。安心してください。ペナルティと言っても、難しい事や体罰等ではありません》


 何人かがそれを聞いてホッとした雰囲気を出す。


《皆さんにペナルティとして、やっていただきたい事があるだけです。それも、特に難しい事ではありません》


「何を、やらされるんだ?」

「難しくないって、使えないスキルの私達でもできるの?」


 不安の声をかき消す様に、七三分けが微笑む。


《大丈夫です。どなたでも問題なくできます》


 そう言うと七三分けは三つ編みに視線で合図を送る。


《こちらにお願いします》


 三つ編みに言われ、オーブ宝玉が乗せられたテーブル台車が運ばれてくる。


《ペナルティとは、こちらに触れていただくだけです》


 運ばれてきたオーブに触るだけと、三つ編みが言う。


「それだけ?」

「何かあるのか?」

「それだけなら……。けど、簡単なのが逆に怪しいんだけど」


 怪しむ俺達に、七三分けが説明を始める。


《そんなに不安にならなくても大丈夫ですよ。こちらは転送の魔法が込められたオーブになります》


「「「「「転送?」」」」」


《はい。約束を破られた方達には強制的に別の場所へ、この街からは出て行っていただきます。私達転移者はお互いに協力者し合わなければ、ダンジョンを攻略できません。この世界で生き残れません。しかし、貴方方は約束を破られた。こちらの度重なるバックアップに対し、こちらが望む最低限の行動で応える事もできず約束を破られた。それは裏切りに近い行為だと、私達は捉えているのです》


「そんなっ!」

「私達、裏切るつもりなんてないです!」

「応えようと、努力はしたんだ!ただ、時間がもう少しもらえたら……」

「そうだ!そうだ!」


《与えられた同じ時間で、貴方方と同じ十三期メンバーである八百六十一名は約束を守られていますよ。私達はこの世界で生き残る為にも、ダンジョンで戦わなければならないのです。時間が何時まであるとも限りません。戦えない人を長期に渡って無償で養える程、私達には余裕がないのです。確かに貴方方の言う通り、努力という経過も大事だとは思います。ですが、時間に限りがある場合。定められた範囲の内で結果が伴わなければ、それは何の意味も成さないのです》


「そんなの。人それぞれ違うんだから、しょうがないじゃないか!」

「俺達には俺達のペースでだけど、ずっと真面目に頑張ってきたんだ!」

「そうだ!そうだ!」

「私達だって、ちゃんとしたスキルがあれば……」

「足手まといになるつもりなんてなかったんです!」


 周囲は懸命に弁解をする。


 俺は何も言わず、他人事の様に傍観する。

 何を言ってもきっと無駄だろうと感じていたからだ。


《ええ、ええ。そうですね。人それぞれ。貴方方は貴方方のペース。その主張、解りました》


 七三分けの声のトーン調子がいっそう冷たくなる。


《でしたら、やはり私達のいない別の場所へ行っていただきたい。私達は“仲間”を求めているのです。決して、保護が目的ではありません。私達はお互いに利益のある協力関係を持ちながら、助け合いながら仲間として生きていきますので。人それぞれの貴方方は誰の力も必要とせず、個々の己自身のペースで頑張ってください》


 有無を言わせない迫力に負けて、周囲は黙り込む。

 そこへすかさず七三分けは結末を確定させるトドメの一撃を放つ。


《最早、問答は無用です。オーブに触れるか今私達に殺されるか、どちらかを選べ》


 手を叩くと、俺達を取り囲んでいた八百六十一名の十三期メンバーが全員武器を構えた。


 こうしてステージ前にいたペナルティ組全員は、観念して順にオーブに触れていく。


 俺達は。

 俺は。

 転送されたのだった。

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