IF 2-3 休息
「わっ、しきの髪の毛、水つかないね?」
「うん。……僕ずっとこんな感じだよ」
お風呂上がりにれいちゃんの気まぐれか分からないけど、髪の毛をタオルで拭いて貰っていると、れいちゃんはまた面白そうに僕の髪の毛に興味津々な様子だった。
「あはは、戻ってきてるー」
……そんなに面白いものか、自分では分からないけど……そこまで興味を持たれるとくすぐったいと言うか……
「んー……っ!」
……それよりも、他の人に頭をわしゃわしゃ拭いて貰うのがこんなに気持ちよくて眠くなっちゃうくらいなんて、知らなかった。
他の人というより、れいちゃんに拭いて貰うのが、かもしれないけど。
「しき眠いの?」
「ん……ちょっとね」
窓という窓がダンボールで塞がれてて部屋が暗いのも相まってか、何だかうとうとしてきてしまって、れいちゃんにそんな風に指摘される。
「んー、ちょっと寝ちゃう?」
何だかちょっと優しめのれいちゃんに、れいちゃんも眠くなっちゃったのかなーと振り返ってみると、
「!……れいちゃん、髪!」
「ん?」
……れいちゃんは自分の髪を全く拭けていなくて、ぽたぽたと雫を垂らし続けながら何事も無い様な表情をしていた。
「……もー!」
眠気も飛んだのか忘れたのか、僕はそんな風に言って今度は僕がれいちゃんの髪を乾かすのに取り掛かる。
「れいちゃんの方は、拭いても拭いても水出てくるね」
「ん……」
「ちょっとガシガシってやっていい?」
「んー」
タオルを挟んで両手で強めに拭くと、れいちゃんの頭は左右に揺られる。
「ん……くすぐったい」
「でしょ?僕知らなかったよ、髪拭かれるのってくすぐったいんだね」
「私も知らなかった」
「だよね、知らないよね」
それからもずっと、れいちゃんの髪を拭きながら何も生産性の無い話を続けて、そのうちにれいちゃんはうとうとし出してついには半分寝てしまった。
「……れいちゃん?」
「ん……」
「ここで寝ちゃっていいの?」
「いい……」
「……そっか、」
れいちゃんはゆっくり体を倒して、僕の横に猫の様に丸くなって目を閉じてしまった。
「……ん」
髪の流れをなぞる様に手を滑らすと、れいちゃんはちょっとくすぐったそうに首をすくめた。
……可愛い。
「おやすみ、れいちゃん」
あぁ……どうか、こんなに優しい時間が、ずっと続いてくれたら良いのにな。
どうして僕らは、こうやってひっそり、小さな二人だけの幸せだけ享受して生きる事がどうしても許されないんだろう。
……やっぱり、人を殺しちゃったからかな。
でも、その前から確かに僕らは見放されていたんだ。
見放されてるのに、見放されたもの同士で逃げるのも許されない。
……悲しいね、れいちゃん。
僕ら、こうやってしか生きられないんだ。
「……」
だから、こんな時だけは静かに過ぎていく時間の中、優しくれいちゃんの頭を撫でてるだけの時間がある事くらい、見逃して欲しい。
それだけでいいから、許して欲しい。
「れい!」
だから……
「……この人は何なの?」
……れいちゃんを、苦しめないで。
「どこ行ってたの?れい!」
れいちゃんを、これ以上……傷付けないで。
「どっちなのかくらい言ってよ!もう一人は?」
これ以上、消費しないで。
「何とか言ったらどうなの?……分かった、頭の悪い方のれいちゃんなんでしょ?!」
これ以上は……
「私の言う事が聞けないの?!れい!」
……これ以上は、僕が許せない。
「わっ、ちょ、しき……?」
「……こっち」
僕は気付けばれいちゃんの手首を掴んで、強引に玄関の方まで引っ張っていた。
「ちょっと!何勝手に……」
「れいちゃん!走るよ!」
「えっ、走るって……」
そのまま何かを言い続けるれいちゃんの母親を置いて、僕らは一目散に走った。
……アテもなく、という訳でも無かった。
僕はれいちゃんを連れて、僕の知る中で一番の『邪魔の入らない所』まで足を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます