IF 2-2 温度
「あはははっ!」
子供みたいな声で笑ってるのは、れいちゃん。
「……そんな面白い?」
その隣で、僕はちょっと不満げに声を上げる。
「だって、しき、その頭……」
「……そんなに?」
「あははっ、あはっ、はー……」
れいちゃんはさっきから、水に濡れて下にまっすぐ伸びた僕の髪の毛が面白いらしく、ずっとこんな調子にツボっていた。
「……へー、髪長いんだ。女の子みたい」
「えっ……そこまででは無いと思うんだけど……」
「そう?何かアレみたい」
「アレ?」
「ん、アレ」
アレが何なのかはよく分からなかったけど、とにかくずっと楽しそうにしてるから……まぁいいんだけどさ。
「……れいちゃんも、」
「ん?」
「あっ、……っと……」
「……何?」
同じ調子でれいちゃんの方にも突っ込みを入れようとしたけど、れいちゃんみたいに軽くポンと言えなくて、何だか中途半端になってしまう。
「……」
肩をすくめて上目遣いに見上げると、れいちゃんは僕の回答を待っていて、僕は一呼吸ついてから思い切って言ってしまった。
「あの、いつもみたいに前髪なってなくて、おでこ出てるけど……あっと、……それも、可愛いなって、思って……」
「……」
水に濡れて纏まっていたれいちゃんの髪が新鮮で、つい『可愛い』まで言い切ってしまうと、茶化されると思ったのに……意外にもれいちゃんは静かだった。
……そのまま、しばらくどちらも何も話さない。
僕はもう耐えきれなくて恥ずかしさで真っ赤になりながらも思い切り顔を上げると、
「?!」
……れいちゃんは長い髪の毛を前に持ってきて、所謂貞子ヘアーみたいな状態になっていた。
「な、なにしてるの?!」
「……」
僕が予想外の展開に驚きを隠せないでいると、れいちゃんはその髪のまましばらく考え込んでから、いつもの調子で言った。
「……こーすると、カーテンみたいでもっと面白いでしょ?」
『もっと面白い』って……僕は可愛いって言ったのに。
「もー、帰って来てくださーい?」
僕はふざけるれいちゃんに軽くそんな風に言いながられいちゃんの言う『カーテン』になっている髪の毛を退けると、
「……!」
……びっくりした。
びっくりしたというか……ドキドキする、というか……。
「ん……」
れいちゃんは目線を逸らして、上がりそうになっている口角をぎゅっと抑えてるような表情……控えめにはにかんでいたんだ。
まさか中でそんな可愛い表情をしてるなんて、今のこの一連が照れ隠しだったなんて思わなくて……今の僕はきっと口をだらしなく開いたまま凝視してるんだと思う。
そのまま数秒間瞬きもせずに真正面からガン見している僕に、さすがにれいちゃんはムカついて来たのか目に向かって容赦なく浴槽のお湯をぶっかけてきた。
「んぎゃっ!」
僕は咄嗟に反応し切れなくて、変な声と共に後ろに滑って派手にコケて色々と打ち付けてしまった。
「あらー……」
れいちゃんはもうすっかりさっきの表情の片鱗も見せずに、他人事の様に僕の惨状を見ていた。
「いっ……たぁ……」
「あんまり転んじゃダメだよ、下の人怒るよ」
「う……ご、ごめん……」
大丈夫?とさえ言ってくれない彼女はすっかり平常運転だ。
「んー……ま、そろそろ上がろっか」
そのまま、痛がる僕を横目にれいちゃんはそんな風に言った。
「う、うん……」
「ん。……しき、あれ取って」
「あれ?……バスタオル?」
「ん、それ」
僕が何とか痛むのを抑えて立ち上がり手渡すと、れいちゃんは立ち上がって器用にそれを巻いて浴槽を出て行った。
……僕のは無いのかな。
まぁいいんだけどさ。
「しきももう上がるよ、ママ帰って来たら大変だよ」
「あっ、うん……」
れいちゃんの声に小走りに浴室を出た僕は、結局れいちゃんに笑われるまで勝手にバスタオルを使って良い事を分からなかったけど……それはこの際どうでもいい話だろう。
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