IF2 逃げ出す二人
IF 2-1 生存
「しき、どうして殺してくれなかったの?」
「……ごめん」
「ごめんじゃない、私は……」
「ごめんなさい!ごめんなさい……」
暗闇の中、僕は必死に彼女に謝り続ける。
「僕にはどうしても、出来なかった……」
僕は確かに、彼女を刺したつもりだった。
でも……気が付けば、無傷の彼女が目の前に居るだけ。
「とにかく……どうするの?本当にもう出来ないの?」
「うん……」
「……。はぁ……」
さっきがきっと、人生で一番最高の死に際だって分かってた。
でも、それでも僕には殺せなかった。
きっとこの調子じゃ一生殺せないだろう。
でも……それじゃ僕らは、れいちゃんはどうなっちゃうんだろう。
もう戻れないのは分かってる。
その上で死ねないなら……警察とかに捕まる?
……そんなの御免だ。
今更捕まるくらいなら今死ぬ方がマシだし、死ぬ方が僕らには良いんだって、ずっとずっと考えてたハズだろ……。
「何で……何で出来ないんだよ……っ」
これだけ殺してきて、どうしてたった一人大好きな人を殺せないんだ。
……殺せないんだ。
「……しき」
「っ……」
何を言われるのか身を強ばらせていると、さすがに予想出来なかったけど……れいちゃんは確かに僕を抱きしめてくれたんだ。
「!」
「いいよ。殺せないんだね」
……どうして許してくれるんだろう。
こんなに台無しにしたのに、僕が……。
「『お願い』は、出来るやつだけ叶えるから、出来ないならいいよ」
「……!で、でも……」
「……その代わり」
僕が言おうとすると、れいちゃんは冷静な声でそれを遮る。
「最後はちゃんと二人で死ぬ。良いね?」
……殺す事は出来なかった。
でも、二人で死ぬ事なら……。
「……うん」
出来る、気がした。
****
「……ここは?」
「ん、私の家」
あの後、僕らは山を降りた。
勿論普通には降りられなかったから、獣道さえ無い背の高い草木を掻き分けて、知らない人の家の裏庭から抜けて、やっとこさここまで来たという具合だ。
「れいちゃんの、家……」
そして……そんな風にして辿り着いたのは、れいちゃんの家だったんだ。
ここが……このちょっと味のあるアパートがれいちゃんの住んでる所なんだ。
「しき、そこで待ってて」
「えっ……うん」
玄関の扉まで来て、れいちゃんは僕にそう声をかけて一人入って行ってしまった。
ちょっと心細かったけどしょうがない。
気を紛らわす様に周辺を観察していると、ふとれいちゃんの家の窓だけ何か違う気がした。
他の家は曇りガラスみたいな感じだけど……そうか、ダンボールか何かだ。
ダンボールか何かが貼ってあるんだ。
でも何でだろう。
そんなに中を見て欲しく無いとかなのかな。
それじゃ、僕は入っちゃってもいいのかな……。
「しき」
「!」
ちょっと不安になっていると、れいちゃんはいつもの調子で僕を呼んで玄関から顔を出した。
「いいよ、入って」
「あっ……うん」
そんな風に勢いよく開けられた扉の向こうからは、何と言うか……古本屋さんの様な匂いがした。
「……お邪魔します」
控えめな挨拶と共に入ると、中は真っ暗に近い程暗かった。
れいちゃんが玄関の扉をすっかり閉めてしまえば、手を伸ばして先に障害が無いか確認しなければ到底進めない程だ。
「……あっ」
そのまま、部屋の奥へ進もうとしていたれいちゃんは、途中で立ち止まってこっちを振り返ってきた。
「……?どうしたの……?」
「服……」
「ん?」
「お風呂、先入る」
「お風呂?」
まぁ、確かに三日間入ってないし、服もはちゃめちゃに汚いけど……このタイミングで?
「こっち、お風呂」
「う、うん……」
そのまま来た道をちょっと引き返して、れいちゃんは横の扉から一つの部屋に入って行ってしまった。
「……」
……さて、何してよう。
僕がまた暇になると思って辺りを見回していると、れいちゃんは何故かすぐに顔を出してきた。
「ん、どうしたの?」
「……何してるの?」
何だか不満そうな顔をしているから……何か気に触る事をしちゃったんだろうか。
部屋をジロジロ見るのがいけなかった?
それともいつまでも脱衣場の近くの廊下につっ立ってるから?
「あーっと……僕、どこか行ってた方が良いかな」
さすがに無許可で奥に奥にと行くのははばかられたのでそんな風に言うと、れいちゃんは馬鹿にしたような顔で、
「は?」
とだけ言った。
「……え?」
何でそんなに不満な顔をされるのか分からなくて内心焦りまくっていると、れいちゃんは至極当たり前の様に言った。
「早く、しきもお風呂入ってよ」
……え?
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