IF 1-6 逃避
「ああああああああぁぁぁっ!!!」
そうだ。
彼女はれいちゃんなんだ。
れいちゃんだけどれいちゃんじゃなくて……あぁ、何もかも遅いんだ。
いや……でも、やっと連れてって貰えるかもしれないな。
やっぱり僕は間違ってたんだ。
一真が死にたくなったなら止めないとは決めてたけど、僕は父親らしくない分頑張ってきたつもりだった。
……でも、やっぱり違ったんだ。
間違ったんだ、僕は。
ごめん。
ごめんね、僕はちゃんと育ててあげられなかったんだ。
何が間違ってたのか分からないから、きっと全部間違ってたんだ。
僕は……なんて酷い事をしたんだろう。
「お父さ……」
「違う、僕は父親なんかじゃ……」
「しき」
聞き慣れた声に顔を上げると、やっぱりれいちゃんと違いない少女の姿があった。
そうか、僕の中でのれいちゃんは高校生の頃で止まってるから……ちょうど彼女くらいの頃か。
「しき、またやり直せるよ」
れいちゃんは優しく言う。
……僕はまた、れいちゃんを殺すのか。
何回殺せば幸せに出来るんだろう。
どうして何回も彼女と巡り会って、その度に不幸にしなきゃいけないんだろう。
分からなくなってきた。
もうこの『僕』は、とっくに壊れ切ってるんだ。
「しき、行こう」
「……一真は?本当に一真もなの?」
「俺もだよ、お父さん」
「っ……何で、何でそう呼ぶんだよ……」
「だって……お父さんは、お父さんだから」
逃げたかった。
どうして死に向かわせた奴を『お父さん』と呼ぶんだろう。
しかも、今まで僕の事はしきって、呼んでたのに。
わざわざ最後にお父さんなんて呼ぶ意味なんて……。
「……あっ」
……そうか。
これは一真、お前の復讐なんだね。
僕にはもう……分かんないや。
父親って何なんだろうな。
僕には居なかったから分かんないや……ってのは、ただの言い訳か。
僕の事、見向きもしなかった僕の母さん。
僕はそれが寂しかったから、一真の事はたくさん構ってあげようとしてたけど、今思えば過干渉すぎたのかもなぁ。
そっか……人って、そんなに愛に飢えてる訳じゃ無いんだっけか。
れいちゃんが居なくなってから、僕はもう全部、分かんなくなっちゃったよ。
じゃあ……しょうがないな。もうやり直さなきゃどうしようもならないか……。
「……ごめん、一真」
「ほんとだよ。……お父さん」
「うん。……ごめん」
「……お父さんの『ごめん』、聞きすぎて重く感じないんだけど」
「えっ……あ、ご、ごめんなさい……?」
「丁寧に言ったって一緒!」
「ぅえっ、ご、ごめん……」
思えば……一真には謝ってばかりだった。
僕は愛を注いでいたつもりでも、そういえばれいちゃんに望んだ愛とは違ったそれだったのかもしれない。
僕の一真への愛情表現は……尽くすだけ。
僕がして欲しかった褒めるだとか撫でるだとかは、一切して来なかったって、今更気づいてしまったよ。
……ごめん、一真。
でも今更、お前の頭を正面から、父親らしく撫でるなんて出来ないよ。
「……ねえ。本当に僕も、一緒に連れてってくれるの?」
でも、そんなに嫌いなら、どうして連れてってくれるんだろう。
そんな事を思いつつ聞いてみると、一真は複雑そうな顔をした。
「……言ってあげないに決まってるでしょ」
そして、それだけ言った。
「そっか、ごめん……あっ、」
またごめんって言っちゃった。
最後まで何て言って良いか分かんなかったな。
謝られるのってそんなに嬉しくないのかも。
どうしたら嬉しいかな。
「じゃ、行こうか」
僕が考え込んでいると、れいちゃんはそんな風に言ってこちらに背を向けた。
れいちゃんに言って欲しい事なら……あっ。
「一真」
「……何?」
「あの……えっと、」
「置いてくよ?」
「いや!あー……愛してるよ」
何だか適当に言ったみたいになっちゃったな。
タイミングって難しい。
「……」
一真は僕を振り返る事無く、れいちゃんに続いて歩いていった。
……正直、ただ聞いてくれただけでも嬉しかったけど。
「遅いよ」
ちょっとは、期待してくれてたのかな。
「……しき」
もう何もかも遅いけど、ちょっとだけ最後父親らしい事が出来たんじゃないかって自惚れていると、ふとそんな風に言ってれいちゃんが僕を振り返った。
「……何?」
僕が聞くと、れいちゃんは少し黙ってからやがて一言、
「まだ、頑張れる?」
と聞いてきた。
「……うん」
僕は反射的に答える。
れいちゃんの言う事は、壊れたって守りたいものだから。
「じゃあ、またよろしくね」
僕はまたれいちゃんを殺すんだ。
何回も何回も、あるかも分からない未来に託して死んで、また始まって。
その先にきっと、きっとれいちゃんが笑ってる未来があるといいなって思って、また繰り返す。
僕が始めたんだから、どうしてもれいちゃんには幸せになって欲しいんだ。
……ごめんね。
もう少しだけ、僕のわがままに付き合って。
無理矢理でも良い。
ハッピーエンド以外なんて、僕にはどうやったって贈れないからさ。
そして僕らは、また──。
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