IF 1-5 決死
「……そっか」
俺の告白を聞いた彼女は、それにしては素っ気ない返事を返したけど、俺にとってそれはどんな言葉よりも優しく感じた。
「じゃあ、君はどうしたいの?」
「どうしたい……って?」
「だから、逃げたいんでしょ?どうするの?」
「えっ……どうもしないよ」
急にそんな事を言ってくる彼女に拍子抜けしてしまう。
だって……逃げたいって思うだけで、本当に逃げるまで至ってる訳じゃないし。
それに……。
「……しきを置いてけないし」
俺が居なくなったら、しきはどうなるんだろうか。
それこそ自暴自棄になりかねない。
「んー……じゃあ一旦、しきのこと考えないでどうしたいか言ってみてよ」
「……どういう事?」
「つまり……しきがどうなろうが関係ないなら、君はどうするのって事」
「……」
人の親を呼び捨てするのはともかく、どうして彼女はこんな事を聞くんだろうか。
でも……そうだな、俺はどうするんだろう。
つまりはしきを『父親』でも『人』ですらも考えずに、『障害』と捉えて俺がどうするかって事だろう。
……逃げるったって俺はただの高校生だし、れいの家系とは実質絶縁状態。
しきの親……つまり祖母は居ない事は無いけど、関心が無いのか俺なんかは顔を覚えられる程会ってないし引き取ってくれるとも思えない。
これからバイトして一人で生きるってのも無理だろう、自慢じゃないけど家事なんか一切やって来なかったしやらせてさえ貰えなかったから分からないし。
それなら……まぁ、死ぬしかないけど。
「君の思った事、当ててあげよっか?」
「……何?」
「死ぬしかない」
……そんなに分かりやすかったかな。
「君、あんまり死ぬ事に抵抗無い?」
「……何で分かるの?」
「惰性で生きてそうだから?いつも死ぬ機会を伺ってる」
「……。そこまでとは言わない、けど」
そんな事を思ってたら痛い所を突かれて、もう隠すのも何だか面倒で、つい正直に答えてしまった。
「何かさ、れい……あっ、お母さんも死んだししきも自殺未遂だから、あんまり死ぬ事ってそんなに悪い事だって思えないんだよね」
「……へぇ」
「あ、重かったかな。ごめん」
「別に。……じゃあ君は、誰かに頼まれたら死ねるの?」
「うーん……人によるかな」
正直に話すって、案外楽なんだな。
俺は今、多分生きてきた中で一番正直で休まる時間を過ごしてるんだと思う。
やっぱり彼女は不思議な人だ。
「じゃあ……私とならどう?」
だって……こんな事、初対面の人に絶対言わないし、
「……いいよ」
……絶対に、こんな風になんか答えちゃいけないのに。
そう……彼女には人を狂わせる様な、不思議な魅力があるんだ。
「じゃー、死んじゃおっか?」
「……しきはどうなるの?」
「しきも一緒でいいよ」
「……三人で?でもしきは……」
俺が言いかけると、彼女は「しーっ」と人差し指を立てて黙らせてきた。
大人しく言いなりになっていると、彼女はニヤッと笑って言った。
「……案外、しきも死にたいって思ってるかもしれないよ」
****
「お父さん」
俺の声に、しきは振り返る。
『しき』とは呼ばなかった。
「……
「お父さん。……今までありがとう」
「……?」
「お父さんは俺の為に、れいを犠牲にしてくれたんでしょ」
テレビも壊しちゃうくらいれいの事が好きだった……いや、それ程に依存してたのに、俺をちゃんとここまで育て上げたのは素直に凄いと思うし、感謝もしてる。
「でもね……お父さん、もう良いよ」
「えっ……?」
「俺達も、終わりにしようって決めたから。もうお父さんを束縛しないから」
でも。
それでも俺は、頑張ってるしきにこんな事言うのはダメだって分かってても、どうしてもここで生き続けるのは辛かったんだ。
でも……それはしきも同じでしょ?
ねぇ、お父さん。
「……!」
「お父さん。俺達は死のうと思うから、これ以上お父さんをこの世界に縛り付けたりはしないよ」
そう言ってから、そこまで連れて来ていた彼女を呼び入れる。
『いい?しきは……』
頭の中には彼女の言葉が思い出される。
「ああああああああぁぁぁっ!!!」
彼女の姿を見たしきは、聞いた事もない様な声を辺りに響かせる。
『こうすれば……しきはきっと、私達と一緒に行ってくれるよ』
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