IF 1-4 恋愛
「……
昼休み、俺は彼女に声を掛けた。
どうしても気になってしまったんだ。
彼女の……他の人とは違う、違和感の正体。
れいと……お母さんと同じ名前だからかもしれないけど、どうしても気になってしまって授業にも集中出来なかったんだ。
「……何?」
まぁ、だからと言って……話す事がある訳でも無かった。
こんな時どうすれば良いんだろう。
臨機応変に対応出来ないクセに後先考えずに話しかけてしまって固まっていると、彼女は急に立ち上がって僕を真正面から見つめてきた。
「っ……!ごめ……」
「こっち」
とりあえず謝ろうとすると、彼女はそう言って俺の腕を引いて教室を出てしまった。
「ちょっ……どこ行くの?」
「いいから」
傍から見れば、今日転校して来たばかりの転校生と普通の生徒が急に親密にしているんだから訳が分からないだろう。
……実際、俺も何が起きてるのか全く分からない。
でも、やっぱり着いていくしかなかった。
「何も、こんな所まで……」
で、結局……彼女が立ち止まったのは、校舎も端の端、ダンボールとかのゴミだの何だのが積み立てられているエリアだ。
「それより、君もなんでしょ?」
「えっ……どういう事?」
「だから、君も変な感じするんでしょって」
「変な感じ……?」
そんな所で急にそんな風に言われて、最初はよく分からなかったけど、だんだん彼女の言う事が俺の彼女に感じた違和感の事を指しているのだと気づくと、俺は静かにそれに頷いた。
「って事は……狐塚さんも?」
「うん。……君見てから、何だか不思議な感じがずっとしてて、落ち着かないんだよね」
……これって……もしかしてだけど、もしかしてだけどこれは、俗に言う一目惚れってやつなんじゃないんだろうか。
それも……二人共お互いに。
「……」
そんな事を考えてしまうとどうしても気恥ずかしくて、俺は思わず目を伏せてしまう。
そのまましばらく沈黙が続いた後、ゆっくりと顔を上げてみると、彼女は俺の事をじっと見ていたらしく、つい慌ててしまう。
「あっ、えー……狐塚さんってさ、どうして転校して来たの?……あっ、言いたくないなら全然良いんだけど……」
「……離婚」
「あっ、えっと……」
「君は?」
「……え?」
「君は何か、辛そうだけど」
……びっくりした。
彼女の答えにどうやって反応しようか考えていたから、まさかそんな事を言われるとは思わなくて、俺はきっとバレバレな位両目を見開いて、だらしなくぽかんと口を開いていたと思う。
「えっ、と……」
「ん?」
「……」
その後、何とか立て直して言葉を紡ごうとしても、意外にも優しく反応されて……気の所為かもしれないけど、何でも聞いてくれる様な気がして、でも自制心がどうしてもそうさせてくれなくて、俺は結局黙り込む事しか出来なかった。
……でも、その間も彼女は優しく……それこそ慈愛に満ちた母の様に黙り込む俺をずっとずっと傍で見守って居てくれていた。
「……狐塚さん」
だから俺は、自分でも気づかないうちに彼女に向かって話してしまっていた。
「聞いてくれる?狐塚さん」
俺の言葉に、彼女は「ん」と言いながらゆっくりと頷き、俺に向かって手を伸ばしてきた。
「……?」
手を伸ばされる事なんて無かった。
ある人は撫でられると思ったり、またある人は殴られると思ったりするその行為は、俺には覚えが無かった……けど。
「いいよ、言ってごらん」
今、彼女に頭をぽんぽんと撫でられて、俺にはその前例が初めて出来た。
……そうか、こんな気持ちだったんだな。
彼女に対する気持ち、恋なのか……それとも違ったものなのかは分からないけど、俺はその温かい彼女の空気にあてられながら、自分の思ってた事……自分でも気づかなかった心の奥底まで、すっかり話してしまった。
「俺は……そんな優しいしきが、お父さんが、本当は凄く大好きなのに、凄く大嫌いで逃げたいんだ」
そして俺は……言葉にしてしまって、もうしきをどこかで嫌う気持ちから、どうしても逃げられなくなった。
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