IF 1-3 再会

一真かずま!今日放課後みんなでカラオケ行く事なったんだけど……」


チャイムが鳴り昼休みが始まった途端、クラスメイトがそんな風に話しかけてきた。


「あー……ごめん、俺バイトだから」

「……やっぱそうだよなぁー、悪ぃ!」

「ううん。楽しんできて」

「おう!」


カラオケ……か。

行った事無いな、どんな感じなんだろ。


……まぁ、そんな事少しでも口走っちゃったら、あの人は意地でも連れて行こうとするだろうな。


「……ただいま」

「あっ、おかえり!」


授業が終われば、俺はすぐさま家に帰る。


バイトってのは嘘だ。

したいとは思ってるけど、きっとこの人は許してくれない。


「……聞くの忘れてたんだけどさ、今日の晩御飯、何がいいかな?」

「あー……たまには俺が作っても、全然良いんだけど」


だって……。


「だ、大丈夫!大丈夫だから!あっ……もしかして僕の作ったご飯不味いかな?ごめん、ちゃんと練習するから……」


この人はこんなに脆いのに、都合のいい父親であろうと居すぎるんだ。


俺がしたいと言えば何でもさせようとするだろうし、俺が嫌だと言えば何だって避けさせようとするだろうし。


……それがかえって俺を生きづらくさせてる事なんて到底言えもしないくらい、この人は俺という存在に呪われてるんじゃってくらい縛られてるんだ。


「美味いよ。……ちょっと手伝おうかなって思っただけ」

「そ、そう?でも大丈夫だから……」

「分かった分かった。……じゃあゲームしていい?」

「……!うん!ゲームね!ゲーム!」


お小遣いは毎月貰いすぎてるってくらい貰ってるけど、新しいゲームなんて買えなかった。


だって買ったら、気づかなくてごめんね、と謝られるのが目に見えてるから。


でも使わないのは使わないで気を使ってないか心配されるから、程々に使わなきゃいけないのが本当に難しい。

最早条件反射で俺の一挙一動に謝ってるんじゃないかと思ってしまうレベルだ。


何の為のお小遣いだよとも思うけど、それくらいこの人は、繊細な人なんだ。


まぁ、それもこれもれい……お母さんのせいだと思うけど。


この人はれいに壊されてしまったんだ。

実際何があったかは分からないけど、『廃校大量殺人事件』は何度も特集を組まれるくらい人々の関心を引く事件だから、やっぱり俺でも知っていた。


ただ、俺がその事件の凶悪主犯者……加害者と、被害者の間に生まれた子供だって事は、さすがに世間も知らないだろう。


幸いな事に、俺は守られていたから。


だから……尚更文句は言えないんだ。

人生これ以上無いって位辛い事を経験して、きっともうずっとれいの元へ行きたいんだろう、しきは、それでも俺の為だけに必死に生きていたから。


俺の居ないと思っている時……もう10年以上も経ってるのにしょっちゅう声を殺して泣いているしきは、何もかもに置いていかれた子供の様な……それこそあの事件から時が止まっているかのように、痛々しかった。


本当に俺はこの人の子供なんだろうかって、思ってしまう程には。


だから……そんな風に方や呪縛、方や同情だけで保ってきた親子の絆は、どんな親子よりも過干渉で、どんな親子よりも脆かった。


「あっ、一真」

「……何?」

「ゲーム中ごめん。このプリント、一真がサインしなきゃいけない所あって……」

「あぁ……うん」


俺より背が低くて、童顔で、見た目だけでも父親になんて到底思えないのに。


でも……やっぱり、これだけ崩れかけながらも俺の為に立ち続けているこの人は凄いと思う。


「……ごめんね」


謝る事しか出来ないこの弱い生き物は、どうしたって俺の父親なんだから。


だから……。


「こんにちは。狐塚こづか れいです」


母さんと同じ名前の、どこか懐かしい雰囲気のする彼女に、俺は一瞬で、どうしても目が離せない程惹かれてしまっていた。

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